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世界の省エネ

4月

CO2や排熱をムダなく利用するオランダの「スマート農業」

  • オランダ

コンピューターがデータを解析して、植物の光合成が最も効率よく進む環境を自動的につくり出すオランダのスマート農業(flickr)

コンピューターがデータを解析して、植物の光合成が最も効率よく進む環境を自動的につくり出すオランダのスマート農業(flickr)

時代の変化に合わせ、世界2位の農産物輸出国に

近年、優れた農業技術を活かし競争力のある農業を展開するオランダの農業が注目されています。2011年度における同国の農産物の輸出額は、米国に次ぐ世界第2位です(グラフ1参照)。

オランダの国土面積は九州程度で、約30%は海面より低く土壌は岩塩混じり。そのうえ日照時間が短く気温も低いので、決して農業に適している国ではありません。元々農業が盛んな国ではありましたが、1980年代に当時の欧州諸共同体(EC)が進めた貿易の自由化によって、安価な農産物が大量に輸入されて伝統的なオランダの農業は危機的な状況に陥りました。さらに、1990年代に入り、政府は危機的状況からの転換をはかるために、主要生産品目の選定を行い、栽培する農作物はトマトやきゅうり、パプリカなどの果菜類とチューリップなどの花など利益が出る作物へ集中させました。その結果、2000年以降には世界有数の農産物輸出国となりました。今や新しい技術を取り入れた農場には、日本をはじめ世界各国からの視察が相次いで訪れるほどです。

のどかな風景が広がるオランダは急速に農業での競争力をつけている(Craig Sterken)

のどかな風景が広がるオランダは急速に農業での競争力をつけている(Craig Sterken)

グラフ1 農産物輸出額ランキング(2011年)資料:国際連合食糧農業機関統計データベースFAOSTATより作成

グラフ1 農産物輸出額ランキング(2011年)
資料:国際連合食糧農業機関統計データベースFAOSTATより作成

高利益な農作物生産、そしてICT技術をフル活用したスマート農業へ

オランダが農業で成功した要因は、主要生産品目を選定したことだけではありません。ほかの要因として、1つは農地の集約化があります。オランダでは屋根が半透明なガラスハウスに太陽光を取り入れて、温度・湿度・CO2濃度をコントロールしながら栽培する「施設園芸」という方式を採用しています。この施設園芸の平均的な施設面積は約10ha、大型になると60〜100haにもなります。このような大規模施設は「グリーンポート」と呼ばれ、国内6ヶ所に集約させました。

2つめは、大規模農地を支えている農業技術の開発です。中心となる機関は、農業大学と公的農業試験場を集約したワーヘニンゲン大学の研究施設です。ここでは農業関連企業が1,440社、企業研究所が70社、研究拠点が20拠点以上集中して「フードバレー」を形成し、技術開発を推進しています。農産物の栽培や加工に関する技術開発だけでなく、保存・流通・販路開拓といった要素まで研究され、それを政府が支援することでイノベーションを起こしやすい体制になっています。

3つめは、この研究開発から生まれたICT技術(情報・通信に関する技術)をフル活用した「スマート農業」です。オランダで行われている施設園芸では、岩を原料にしたロックウールなどに苗を植え、そこに水や養分などを自動的に供給して栽培しています。ハウス内の各所に設置したさまざまなセンサーが温度や湿度・光量・光合成に必要なCO2の量、風速などを検知。コンピューターでこれらのデータを解析させて、自動的に植物の光合成が最も効率よく進む環境にしています。さらに、気象予測に基づいて、温室内の環境への影響を最小にする技術も確立されています。雨が降る予報が出れば、事前に温室の天窓を自動的に閉じ、晴れの予報が出れば、シェードやカーテンを自動的に開くなどきめ細かい環境整備を行います。

これらによって同国の農業生産効率は大幅に上がりました。たとえば、トマト栽培の単位面積当たりの収穫量は、欧州の最高水準で日本の平均的な農家の5倍以上*1にもなります。

*1「Holland Horti 農林水産省」より、農林水産省、オランダ農業経済研究所などのデータを基に算定

企業と大学の研究機関、政府が連携して実践的な研究を行い、オランダ農業を牽引する「ワーヘニンゲンUR」の温室(WIKIMEDIA COMMONS : Vincent)

企業と大学の研究機関、政府が連携して実践的な研究を行い、オランダ農業を牽引する「ワーヘニンゲンUR」の温室(WIKIMEDIA COMMONS : Vincent

天然ガス発電による「熱」「電気」「CO2」を農業に役立てる一石三鳥の仕組み

オランダの施設園芸では、温暖化を引き起こす原因とされているCO2を積極的に農業活用しています。施設園芸の温室には、天然ガスを利用した大型発電設備を設置していることが多く、発電した電気を施設内で利用して余った電力は売電しています。それだけでなく、発電で発生する熱は温室を温めるために使い、発電の際に出たCO2もパイプで温室内に送りこみます。作物は吸収したCO2と太陽光で光合成することで、成長が促されます。この仕組みは熱と電力の2つを活用する「コージェネレーション」を発展させたうえに、CO2も利用しているため「トリジェネレーション」と呼ばれています(図2)。天然ガスを用いた熱・電力・CO2による一石三鳥の活用法なのです。施設内のCO2濃度を通常より2~3倍高くすることで光合成が促され、収穫量が20~40%増えると研究機関による実証実験でも認められています。

最近になって、工場や精油所から排出されるCO2も、積極的に施設園芸に活用されはじめました。ロイヤル・ダッチ・シェルの製油所では、2005年から精製工程から出るCO2をほぼ100%の濃度まで高め、園芸農家の施設に供給しています。また、バイオエタノール製造会社でも、約500軒の農家に年間30万tものCO2を供給しています。工場側は排出するCO2を削減し、農家は作物の生育を高めるというメリットがあります。これを受けて、石油精製工場やごみ焼却施設などの工場の近隣に、温室がつくられることも増えてきました。ワーヘニンゲン大学ではこれらの取り組みによって、240万tのCO2が削減できたと報告しています*2

EUでは、2010年に新たなエネルギー戦略「Energy 2020」を策定しました。これを受けてオランダでも、2020年以降に新設するすべての温室は環境に負荷がないものにするという目標を掲げています。具体的には「1990年比で施設園芸におけるCO2排出量を50%以下にする」「商品単位でエネルギーの投入量を毎年2%ずつ削減する」「施設園芸で使用するエネルギーの20%は再生可能エネルギー由来にする」といった目標を達成するために、農業省と企業・生産者・生産管理機構が官民一体となって進めています。

*2 ワーヘニンゲンUR農業経済報告書2012

図2 トリジェネレーションの仕組み例

図2 トリジェネレーションの仕組み例

雨水利用や地熱も有効活用!徹底した循環型の資源利用で省エネ

オランダの施設園芸農家はCO2の活用だけにとどまらず、雨水や地下水などの限りある資源を循環させることで無駄なく使っています。国土の約4分の1が干拓地のオランダは、地下水に塩が混じって農業用水として使えないため、ほとんどの施設園芸農家は雨水を貯め、浄水して栽培に利用しています。この雨水に肥料を混合したものを温室に送り、栽培に使っています。戻ってきた肥料水は砂を使ったサンドフィルターに通され、さらに紫外線で殺菌処理され、再び雨水と混ぜて再利用されるという循環型のシステムになっています。収穫が終わった野菜の株は堆肥とし、栽培に使ったロックウールの培土は、土木用の石材として加工されリサイクルされるなど、栽培で発生する廃棄物の再利用も徹底しています。

最近では温室を温める熱源として、地下から汲み上げた温水で温室を温めてから再び地下水に戻すという方法も実施されるようになりました。また、温泉水から抽出したメタンガスを燃料に発電するなど多様な形で資源が活用されています。

ワーヘニンゲン大学が2012年に発表したデータでは、オランダの施設園芸におけるエネルギー消費量を1990年と比較すると2009年には半分以下になっており、ICT技術の活用による省エネ効果が大きいことを報告しています*3。施設園芸農家で発電される電気は、国の発電量の約10%に相当していることから、オランダの農業は作物だけでなく、エネルギーを生み出す産業に生まれ変わっているとも言えるでしょう。

先進的な農業を進めるオランダ。省エネでかつ排出されたCO2を農業に有効活用するなど、環境技術を取り入れた農業は次世代のスマート農業への道筋を見せてくれています。

*3 ワーヘニンゲンUR農業経済報告書2012

雨水をためる雨水タンク。水が貴重なオランダでは多くの施設園芸農家が利用している

雨水をためる雨水タンク。水が貴重なオランダでは多くの施設園芸農家が利用している

Text by Yayoi Minowa