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世界の省エネ

2月

低炭素社会の実現に向けて世界をリードするノルウェー

  • ノルウェー

北欧デザインを感じさせる水力発電所「ウーヴレ・フォシュラン」は、夜になるとライトが灯され観光スポットにもなっている(Bjorn Leirvik)

北欧デザインを感じさせる水力発電所「ウーヴレ・フォシュラン」は、夜になるとライトが灯され観光スポットにもなっている(Bjorn Leirvik)

自国内の電力は水力でまかない、石油とガスは輸出

夜空の神秘と呼ばれるオーロラや白夜で有名な欧州最北端の国、ノルウェーはスカンディナビア半島に位置し、日本とほぼ同じぐらいの面積を有しています。雨や雪が多く、豊富な水を利用した水力発電で、国内電力の約95%をまかなっています。同時に、ノルウェーは1人あたりの名目GDPも世界第3位*1、医療費と教育費は原則無料の豊かな福祉国家なのです。

かつてのノルウェーは、「サケとサバくらいしか輸出するものがない」とも揶揄された国でした。しかし、1970年代からはじまった北海における油田開発で産出される石油とガスによって、外貨を獲得して豊かになりました。油田開発によって、一次エネルギー自給率*2は、実に680%以上*3で、圧倒的な世界一です(グラフ1参照)。また、自国の電力はほぼ水力発電でまかない、北海油田で産出された石油・ガスを自国でほとんど使わず、輸出に回している点もユニークな特徴です。

*1 2016年IMFデータ

*2 生活や経済活動に必要な一次エネルギーのうち、自国内で確保できる比率。国内産出量/一次エネルギー供給量×100で計算

*3 IEA「Energy Balance of OECD Countries 2016」

グラフ1 主要国の一次エネルギー自給率比較(2014年)

グラフ1 主要国の一次エネルギー自給率比較(2014年)
出典:経済産業省資源エネルギー庁「日本のエネルギー2016年度版」

北欧諸国の電力供給を支える「ノルドプール」

ノルウェーに限らず北欧諸国では、再生可能エネルギーによる電力供給が積極的に進められています。しかし、自然由来のエネルギーは安定供給に課題があります。課題解決と電力市場の自由化を目的として、1992年から「ノルドプール(Nord Pool)」を開始しました。これは、北欧諸国を送電線でつなげてお互いに電力を補い合い、電気を売り買いする国際電力取引市場です。

ノルドプール加入国の電源構成は水力・火力・風力などさまざまですが、ノルウェーの水力だけで約50%の電力を占めています(2011年度)。ノルウェーの水力発電は、水が高いところから低いところへ落ちるときの力(位置エネルギー)を使って水車を回し、それにつながる発電機を動かす方法で発電されています。発電量は水量や位置エネルギーの大きさに比例して増えるので、急峻な山が多くて降水量の多いノルウェーでは、非常に効果的な発電方法です。

さらに、ノルウェーの水力発電はデンマークの風力発電などの再生可能エネルギーと組み合わせることで、北欧諸国の電力安定供給に役立っています。たとえば、風が吹きすぎて電力が余るときは、水を上方に汲み上げて必要に応じた水量を流すようにします。これは「揚水発電」とよばれるもので、水の位置エネルギーをためておくことで電力量の調整をしています。現在、「ノルドプール」の年間取引量は世界最大のものとなり、先進的な事例として世界の電力市場におけるお手本にもなっています。

水の豊富なノルウェーは急峻な地形が多いため水力発電に適している

水の豊富なノルウェーは急峻な地形が多いため水力発電に適している(flickr

オスロでは世界初の「気候予算」で、2050年までに温室効果ガスゼロへ

ノルウェーでは、ほかにも先進的な省エネへの取り組みが始まっています。首都であるオスロでは、2050年までに「温室効果ガスゼロに」という目標を掲げ、世界の自治体として初の試みとなる「気候予算」を予算概要に組み込みました。その予算で進める環境政策のひとつが交通政策です。ガソリン車・ディーゼル車のCO2排出量を減らすべく、2019年までに一般車両の市の中心部への乗り入れを原則禁止にしました。そのかわり市内に60km近い自転車専用レーンをつくり、電気自転車の購入に補助金を出し、公共交通機関にかける予算を大幅に増やす予定です。

同時に、ノルウェー政府は2025年までに、新車販売におけるゼロエミッション車*4の比率を100%に高める目標を打ち出しています。これは2040年以降のガソリン車とディーゼル車の販売を禁じた英仏より、15年も早い展開です。その結果、ノルウェーでは2017年度の乗用車登録台数における電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド自動車(PHV)の割合予測が、32%と他国より大幅に高くなっています(グラフ2参照)。

EVやPHV向けの支援策も豊富です。首都オスロでは市内にEV充電設備が2,000ヶ所あり、今後も年に600ヶ所のペースで増やす予定です。集合住宅のオーナーにはEV充電設置費用を補助するほか、市営の充電設備では充電を無料にするなどインフラ整備も急ピッチで進んでいます。

*4 ゼロエミッション車とは、走行中に二酸化炭素を全く排出しない自動車のことで、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などが該当。ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)は排気ガスを排出するため含まれない。

中心部への自動車の乗り入れが完全に禁止されるオスロ中心地

中心部への自動車の乗り入れが完全に禁止されるオスロ中心地(flickr

グラフ2 ノルウェーの新車における電気自動車、プラグインハイブリッド自動車の割合

グラフ2 ノルウェーの新車における電気自動車、プラグインハイブリッド自動車の割合
出典:The Electric vehicle world sales datebase 2017

持続可能な開発が進むウォーターフロント地区「フィヨルドシティ」

交通政策など地域レベルでの取り組みが評価されたオスロは、環境改善に取り組む都市に贈られる「欧州グリーン首都賞」を2017年に受賞*5しました。その象徴のような場所が、オスロのウォーターフロント地区「フィヨルドシティ」です。ここは1970年代以降の急激な造船業の衰退によって活気が失われ、湾岸沿いに幹線道路が建設されたことでこの地区と市街地が分断され、市街地からアクセスしにくい廃れた場所となっていました。

これらの問題を解決して、環境と経済が調和した持続可能な地区(サスティナブルシティ)に再生するプロジェクトが1980年代から始まりました。まず、幹線道路を地下化して分断されていた市街地とウォーターフロントを一体化。さらにフィヨルドシティ全域をトラムで結び、9kmを超える海岸沿いの遊歩道が整備され、トラムや船によるアクセスに加え、徒歩や自転車で移動できるようにしました。これによって車の進入を抑え、公共交通や自転車を使うことでCO2削減を実現し、人が行き交う場所として再生しました。

また、住宅やオフィスが建設されたエリアでは、ゴミの焼却熱や下水道の熱などを活用した地域暖房の普及を推進しています。さらに、サスティナブルシティに不可欠な活力のある魅力的な要素を加えるために、新たなオペラハウスなど芸術や文化が集積するエリアも開発されました。今では環境と文化の側面で注目を集めています。

水力発電による自然エネルギーの活用、ガソリン車から電気自動車への移行、首都オスロの気候予算の導入など先進的な環境施策を打ち出すノルウェー。低炭素社会の実現に向けて、世界をリードする環境先進国として今後も目が離せません。

*5 2017年に「欧州グリーン首都賞2019」の名称で受賞

フィヨルドシティの文化的シンボルでもあるオペラハウス。同地区にはムンク美術館の移転も計画されている

フィヨルドシティの文化的シンボルでもあるオペラハウス。同地区にはムンク美術館の移転も計画されている(flickr

Text by Yayoi Minowa