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6月
カーフリー構想により、路地は子どもたちの格好の遊び場所に
ドイツの南西部、フランス・スイスとの国境近くにあるフライブルグ市は、環境政策の先進都市としてドイツの「環境首都」とも呼ばれています。由緒あるフライブルグ大学をかかえる学園都市であり、中世の香り漂う伝統的な景観が残る一方で、環境団体や自然エネルギーなどの研究を行う機関・市民団体などが数多く拠点を構え、市の先進的な環境政策を後押ししています。
このフライブルグ市に、市民が参加して作り上げたエコタウン「ヴォーバン住宅地」があります。2,000戸、約5,500人が生活するこの住宅地は、ユニークな省エネ住宅が並び、世界中から視察者が訪れます。 元々フランス軍の駐屯地だったこの土地の活用に関して、フライブルグ市民はNPO「フォーラム・ヴォーバン」を立ち上げ、行政と共に、計画段階から街づくりに関わってきました。その結果、ヴォーバンでは、街のコンセプトから共有の緑地や管理方法など、すみずみまで住民の意見が反映されました。
例えば、「車よりも人を重視したい」という方針が提案され、都市計画に「カーフリー構想」が取り入れられました。その構想のもと、自転車用道路や公共交通機関などを充実させ、マイカーの使用を抑えたことで、車が住宅地に入りこまず子どもたちが安心して遊べる環境が生まれました。 住宅周辺での緑地の確保も、さまざまな方法で実施されました。住居は、屋上や壁面の緑化が進められ、住宅周辺の小川と並木を結ぶ「緑の帯」という5つの公園は、住民参加のワークショップで設計されました。隣の住宅との垣根は、庭仕事で発生する緑のごみから堆肥を作る容器機能もを兼ねており、子どもたちもその整備を手伝っています。
ヴォーバンでは都市計画だけでなくそれぞれの家づくりにも、住民の意見が色濃く反映されています。ヴォーバン住宅地の約8割は「コーポラティブハウス」といわれる、入居希望者が共同で建設する集合住宅として作られています。
コーポラティブハウスは、それぞれ独自のコンセプトを持ち、そのコンセプトに興味のある住民が集まって建築グループを作り、建築計画が進められます。建築家の選定、設計図の作成、各個人の資金調達などのステップごとに、参加者同士でミーティングを行い、それぞれの関心や利害をまとめあげていきます。そうした丁寧なステップを経て作られるため、住宅はそれぞれに多様性があり、特徴的なものになっています。 例えば、ある住宅では、冬場の採光・夏場の日射遮蔽を両立させる採光設計や、熱効率のよい換気の仕組みを取り入れることで、自然の力を活用して省エネ性能を格段にアップさせました。 また、省エネ性能の向上に取り組むだけでなく、屋根全体に太陽光発電パネルを載せ、発電量が消費エネルギー量(電気、暖房など)よりもプラスとなる「プラスエネルギーハウス」も誕生しました。
ソーラーパネルで屋根を覆ったヴォーバン住宅地の「プラスエネルギーハウス」(一般社団法人クラブヴォーバン)
採光を大きくとることで、日ざしを最大限に取り入れている。
ドイツでは家の断熱性能が非常に重要視されていて、家の年間のエネルギー消費量や光熱費を示す「エネルギーパス制度」が制定され、2008年からすべての新築住宅に表示が義務付けられています。そのため、車選びと同じように、住宅購入時に間取りや立地だけでなく燃費もチェックして選ぶスタイルが定着しています。
冬が厳しいヴォーバン住宅地では、冬場のエネルギー消費を抑えることが家の燃費に直結するため、断熱や室内の熱環境に細心の注意が払われています。例えば、「窓をはじめとした開口部や床・壁・天井からの熱の損失を最小限にする」「日ざしを最大限に取り入れる」「給湯や暖房の熱を地域暖房*1やコージェネレーション、太陽熱温水器といった省エネな仕組みで作り出す」・・・。こうした多くの工夫によって、ドイツの一般住宅に比べて6割以上のCO2削減*2を可能にし、国内外で高い評価を得ています。
ヴォーバン住宅地では、それぞれの個性を尊重し、エネルギーを賢く使う街づくりを住民参加で実現してきましたが、今でも入居希望者が絶えない理由はそれだけではないようです。
その理由のひとつが、人々の暮らしを支えるコミュニティの充実ぶり。建築計画段階から交流のある隣人が多いため、ご近所さん同士の交流がとても活発に行われています。また、近隣住民が気軽に集うことができるちょっとしたお店や地域のイベントなど、さまざまな場面でコミュニケーションが生まれています。
こういったご近所さん同士の活発な交流は、子育て世帯にとっては特に大きな魅力となっており、この街では、18歳以下の子どもの割合が40%にも達しています。 住民が主体となり、ひとつの街をまるごと作り上げたヴォーバン住宅地。快適性や利便性だけでなく、コミュニティ面や環境性でも優れた、これからの都市のあり方のひとつのモデルといえるのではないでしょうか。
*1 各家庭が個別に給湯装置、暖房装置を設置するのではなく、熱供給網を住宅地内に設置すること
*2 フォーラムヴォーバンエネルギー作業部会による
Alain Rouiller 3041 Vauban FR(flickr)
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