マイ大阪ガスは、2021年3月にポイント制度などのリニューアルを行いました。この記事はリニューアル前のもののため、ポイント関連の記述を含め、記述内容が古い場合がございます。あらかじめご了承ください。

世界の省エネ

12月

Zero Energyなビルや住宅が、欧米で拡大中

  • イギリス

イギリスのZEBのひとつ「BedZED」。シンボル的存在の風見鶏によって熱の損失がなく新鮮な空気を取り入れることができる(flickr)

イギリスのZEBのひとつ「BedZED」。シンボル的存在の風見鶏によって熱の損失がなく新鮮な空気を取り入れることができる(flickr

建物で消費されるエネルギーを限りなくゼロに

世界で消費されるエネルギーのうち、ビルや住宅などの建物で消費されるエネルギーは約2割を占めます*1。そのため、建物内の冷暖房や照明、エレベーターやエスカレーターなどの昇降機で消費されるエネルギーの削減は、温暖化対策に非常に大きな効果をもたらします。そこで、省エネ化と再生可能エネルギーによる自家発電でエネルギー消費量を削減し、限りなくゼロに近づけた建物を増やそうという動きが、欧米を中心に活発になりつつあります。

このようなエネルギー消費量の収支ゼロを目指すビルを「ZEB」(Net-Zero Energy Building)、住宅を「ZEH」(Net-Zero Energy House)と呼びます*2。ZEBは、(1)室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギー化を実現する、(2)再生可能エネルギーを導入してエネルギー自立度を極力高める、(3)年間の一次エネルギー消費量*3の収支ゼロを目指す建築物を意味します。米国やEUなどの先進国では、オフィスや商業施設など、住宅以外の建物のエネルギー消費量が特に高いことから、さまざまな特徴をもつZEBが建設されています。

*1 INTERNATIONAL ENERGY OUTLOOK 2016

*2 ZEB、ZEHは、「nearly Zero Energy」と訳される場合もある。国により定義にばらつきがあるが、日本での定義は「経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー対策課 ZEHロードマップ検討委員会とりまとめ」(PDF)を参照。

*3エネルギー消費性能を評価するときの評価指標のひとつで、建物の利用に伴う直接的なエネルギー消費量。

ZEBのイメージ(日本の場合)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) HPより作成

ZEBのイメージ(日本の場合)
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) HPより作成

早くからサスティナブルなZEB化を目指すイギリス

いち早くZEB化に取り組んでいる国のひとつに、イギリスがあります。2006年にイギリス政府は「2016年までにすべての新築住宅をZEH化する」と発表し、続いて2008年には「2019年までに住宅以外もZEB化する」ことを打ち出しました。

代表例に、ロンドン南部ハックブリッジの「Beddington Zero Energy Development 」(BedZED)があります。ここは82の住宅、オフィスなどから構成され、2002年に完成したイギリスの最初にして最大のゼロエネルギーのエコビレッジです。エコビレッジとは、持続可能なまちづくりを行うコミュニティのこと。住宅は南側に大きな窓を設けて太陽光を取り入れ、オフィスは住宅の影になるような位置に建てることで夏の暑さを遮るとともに、自然光が入る天窓を設けることで使用する照明を減らしています。ほかにも、断熱効果が最大限に考えられた断熱材や窓、ドアが使用されていたり、再利用水や雨水の利用など、あらゆる省エネ設備が盛り込まれています。エネルギーは、木材チップを利用したコージェネレーションによる地域暖房と電力供給に加え、太陽光発電も備えることで、エネルギー収支ゼロを目指しています。ここでは、省エネ機能の追求だけではなく、保育園や家庭菜園の併設、電気自動車のシェアなど、持続可能な暮らし方が実現されています。

BedZEDには木質廃材のチップを使用して住宅に熱と電気を供給するシステムもある(flickr)

BedZEDには木質廃材のチップを使用して住宅に熱と電気を供給するシステムもある(flickr

EUでは、2020年までにすべての新築の建物をZEBに

EUでは建築物のエネルギー消費抑制が重要視されるようになり、ZEB化が政策として定められています。2010年には、建物のエネルギー性能に関する指令である「EPBD指令(Energy Performance of Buildings Directive)」を出しました。これは「EUは2021年からすべての新築の住宅・建築物をZEBとする」ことを目指すもので、中でも公的機関の建物については、前倒しして2019年からすべてZEB化することとしています。

他国に先駆けてドイツでは、2020年以降のすべての新築住宅・建築物のZEB化を目指して早くから動いています。新築の建物だけでなく、既存の建物も徹底的にリフォームしてZEB化することを推奨しており、そのための助成も積極的に行っています。フライブルグのヴォーバン住宅地には、エネルギー収支がプラスになる「プラスエネルギー住宅」が立ち並んでいるなど、ZEBの国別件数は世界で最も多くなっています*4

フランスもZEB化を積極的に進めている国のひとつです。中にはドイツと同じくエネルギー収支がプラスになるZEBがあります。リヨン郊外にある「Woopa」という地上7階、地下2階の事務所や店舗などを構える複合ビルでは、冷暖房や照明、エレベーターなどの消費エネルギーを最小限に抑え、太陽光発電とウッドチップボイラーや菜種油のコージェネレーション装置によりZEBを実現しています。その結果、ビルがつくり出すエネルギーが、消費エネルギーを上回ることに成功しました。

EUではこのような新築住宅のZEBだけでなく、物件取引時においても、エネルギー性能評価書の取得と取引先への提示を義務づけるといった取り組みが進んでいます。公共建築物の場合、実績値に基づくエネルギー性能を建物の入口などに掲示することが義務づけられました。EUでは建物も車のように燃費が重視され、それが不動産価値として認知される時代になってきています。

*4 2010 An overview and Analysis of worldwide building projects

米国では3,000人規模で暮らすゼロエネルギーなコミュニティも

米国は2030年までに米国で新築されるすべての業務ビルをゼロエネルギー化し、2050年までには新築だけではなく、中古物件も含めてすべての業務ビルをゼロエネルギー化するという目標を立てています。米国やEUでは定期的に省エネ基準の強化が行なわれており、3年ごとに規制強化しています。特にカリフォルニア州では、2020年までにすべての住宅を、2030年までに業務用に限らず住宅用も含むすべてのビルを、ゼロエネルギー化するという目標を掲げています。

先進的事例のひとつが、カリフォルニア州立大学デイビス校に隣接した「ウエストビレッジ」です。2009年に建設が始まり、すでに構内には5MW分の太陽光発電システムを導入し、大学近隣に最大規模の太陽光発電となる16.3MWのメガソーラーが完成しています。

ウエストビレッジはすべてが完成すると約83haの広さ、3,000人以上の生徒と教授・大学関係者が住む住宅地となることから、米国で最大規模の「ネット・ゼロ・エネルギー・コミュニティ(Zero Net Energy community)」が実現しそうです。学生や大学関係者が住むアパートには、高効率エアコン・熱交換型換気システム・高効率給湯器・LED照明・高断熱サッシ・シーリングファンなどの機能に加えて、自然の光を多く取り入れられる大型窓が取りつけられています。さらに、国際的省エネルギー制度である「エネルギースター」認定の家電も設置され、日常生活での省エネを促すために、各住戸ではエネルギーの「見える化(HEMS)」が活用されています。これらの省エネ施策とメガソーラーによる発電を組み合わせて、ゼロエネルギーを目指しています。

日本でも、2014年に閣議決定された「エネルギー基本計画」において、ZEBの実現・普及目標が設定されています。2020年からZEB化したビルやZEH化した住宅を徐々に普及させ、2030年には新築されるすべての住宅・建物をZEB・ZEH化させる方針を立てています。エネルギーを使う量を減らして、使った分をつくるという形の省エネが世界規模で加速しそうですね。

自然光を取り入れる大きな窓や省エネ機能が満載のウエストビレッジ内のアパート(flickr)

自然光を取り入れる大きな窓や省エネ機能が満載のウエストビレッジ内のアパート(flickr

Text by Yayoi Minowa