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10月
ネグロス島南部にある地熱発電所(PHILIPPINES INSIDE NEWS)
フィリピンは日本と同様の島国であり、火山国です。近年、人口の増加や経済成長が著しく、エネルギーの需要も右肩上がりに増えています。面積も人口も日本の8割ほどで、自然災害が多いことや、石油などの化石燃料の資源に乏しく、ほぼ石油の全量を輸入に頼っているなど、日本とたくさんの共通点があります。その状況下でフィリピンは石油への依存度を下げるべく、エネルギーの多様化に早くから取り組んできました。その代表が火山島の特性をいかした地熱発電です。政府は1960年代後半から地熱発電を促進するための施策を実施し、1977年にはレイテ島で3MWの実証プラントの運転に成功しています。
地熱発電は、地中深くに存在するマグマ溜まりの熱水を蒸気で取り出し、タービンを回して発電する、CO2排出量が極めて少ない発電方式です。当時は、石炭や石油などの化石燃料による発電のほうがはるかに安価でしたが、政府は化石燃料の価格変動による影響を最小限にしたいと考え、他国から購入せずに使えてコストが安定している地熱資源に早くから注目したのです。その後、ルソン島・レイテ島・ネグロス島などで精力的に開発が進められ、現在の地熱発電の容量は、アメリカに次いで世界第2位となりました(図1参照)。首都マニラを有し、人口やエネルギー需要が最も多いルソン島では23の地熱発電所が立地し、900MWを超える発電量があります。
図1 地熱発電容量 世界上位10位とその他地域(2015年)
出典:REN21「自然エネルギー世界白書 2016」
フィリピンの地熱発電所が活発に稼働している島
フィリピンで地熱発電が推進される背景に、電力事情の課題があります。一つは、同国は7,000を超える島々から構成されているので、送電網など電力インフラの整備が容易ではないこと。そのため、電気が利用できない世帯がいまだに3割程度残っています。これら無電化地域の電化も大きな課題です。二つめは、ピーク時期の電力不足の問題です。ミンダナオ島ではほぼ毎日停電し、ルソン島でも断続的に停電に悩まされています。三つめは最大の問題で、電力料金が高いことです。近年は資源価格の低下に伴い電力料金は低下しつつあるものの、他のアジア諸国と比較すると高くなっています(図2参照)。
そのため、再生可能エネルギーに対する期待は大きく、エネルギー省が2009年に定めた2030年までのロードマップ「再生可能エネルギー計画」では、再生可能エネルギーの発電設備容量を、2010年の5,400MWから2030年までに3倍の1万5,000MWに引き上げる目標を設定しています。発電量に占める再生可能エネルギーのシェアは2016年末で30%*1に達しており、これは東南アジア地域で最も高い水準です。
2000年以降は化石燃料を使った火力発電所の建設などが進み、地熱発電の導入が停滞していましたが、2008年に再生可能エネルギー法が施行されてからは、地熱発電を含む再生可能エネルギーの導入に対し、再び法的・経済的優遇策が取られたことで動きが活発化しています。今後も多くの地熱発電所の建設が見込まれ、2027年までに完成を予定する事業が30件以上、2030年までに地熱設備容量の目標を3,460MWにしています。
*1 フィリピン政府エネルギー省(DOE 2016年度より)
図2 東南アジアの電力料金比較(1kWhあたりの金額)
出典:Global Benchmark Study of Residential Electricity Tariffs 2013
※上記グラフの数値に誤りがあったため修正いたしました(2017/10/19)
地熱以外で、早くから力を入れていた再生可能エネルギーに水力発電があります。2015年の国内における発電量の割合は、石炭45%、天然ガス23%、地熱13%、水力11%となり、水力発電が主要な電源であることがわかります。比較的早い時期から開発が進んだ水力発電は、2016年末で約800MWの発電量がありますが、今後の潜在的な発電可能量は1万3,090MWに達するとの推計もあります。大型の発電所の適地が存在すると推測されることや、小型の小水力発電は山岳部の無電化地域の電源としても期待されています。
また、農業国であるフィリピンは、バイオマス資源も豊富に持っています。主要農産物であるココナッツ、米、とうもろこし、さとうきびから出る殻などの廃棄物は、年間合計1,301万トンにも上ります。さらに、養豚業も東南アジアで最も盛んなため、家畜の排泄物を使ってバイオガスをつくって発電するという方法も模索されています。
豊富なバイオ資源を背景に、フィリピン政府は車などの燃料としてバイオ燃料の導入にも積極的です。ガソリンは2011年からバイオエタノール*210%混合が義務づけられており、2025年にはバイオエタノールの20%混合を目指しています。同時にバイオディーゼル*3も、20%混合を目指しています。
*2 バイオエタノール:とうもろこしやさとうきびなどバイオマスを発酵・蒸留させて製造する。そのまま、あるいはガソリンに混合して自動車用燃料として利用でき、排出する二酸化炭素はカーボンニュートラルである。
*3 バイオディーゼル:生物由来油からつくられるディーゼルエンジン用燃料の総称であり、バイオマスエネルギーの一つ。
ココナッツはその殻も重要なバイオマス資源に
2020年までに政府は電力における再生可能エネルギーの比率を、40%にまで高めようとしていることからも、太陽光発電や風力発電の導入にも積極的です。太陽光発電では豊富な日照量を活用し、2017年3月、ルソン島では30万世帯に電力を供給する150MWのメガソーラーの建設が始まりました。このメガソーラーでは、フィリピン国内で製造された太陽電池モジュールを設置するだけでなく、余剰電力を無駄にしないために、蓄電池も合わせて設置される予定です。これによって、ピーク時の電力不足の問題解決につなげようとしています。現在、太陽光発電は201のプロジェクトが発表されており、導入予定容量は2,000MWを超えています。
風力発電はルソン島を中心に7万6,600MWの導入可能量があると推計され、多数の建設プロジェクトの検討が進んでいます。この導入可能量は、累積風力発電導入量で世界1位の中国のポテンシャルに匹敵する規模となっています。
このように、再生可能エネルギーの導入に積極的なフィリピンですが、実は多くのプロジェクトで日本企業の技術が活用されています。たとえば、地熱発電所の心臓部といえる地熱発電用タービンは、日本のメーカー3社で全世界の7割近くのシェアを占めていますが、フィリピンでも多くの地熱発電所で日本のタービンが導入されています。地熱資源は地点ごとに地質の性状が異なるため、日本の高度な技術と経験が役立っています。
地熱発電だけでなく、水力発電やバイオマス発電でも数多くの日本企業が事業にかかわっています。さらに、日本はフィリピン政府に対して「省エネルギー計画調査」を2011年から12年にかけて実施。省エネルギー法策定のためのアドバイスを行う形で、日本の技術がフィリピンの省エネ計画に貢献しています。
アジアでも目覚ましく経済成長を続ける国の一つであるフィリピン。経済成長とともに増えていく電力需要を、今後は再生可能エネルギーが力強く支えていくことになりそうです。
ルソン島北部の海岸線に建設された50MWを超えるバンギ風力発電所(flickr)
Text by Yayoi Minowa