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8月
拡大する航空輸送量に対応し、バイオジェット燃料を導入する航空会社が続々登場(flickr)
近年、飛行機で長距離移動するビジネスマンや観光客が、世界中で増えています。これに応じるように航空会社は路線を増やし、さらに格安航空会社が数多く参入した結果、航空輸送量が年々約5%ずつ増加しています。そのため、航空分野によるCO2排出量も輸送量とともに右肩上がりで増加する傾向にあり、航空業界全体でCO2削減が急務となっています。2007年に発表された国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(AR4)によると、世界の温室効果ガスのうち、航空分野におけるCO2排出量はすでに約2%を占め、自動車の6分の1以上の規模に達しています。
CO2排出量を抑制するために、2009年に国際航空運送協会(IATA)は環境目標「Vision for the Future」を掲げました。これは2009年から2020年までの間、燃料効率を毎年平均1.5%ずつ改善することや、2050年までに航空業界のCO2排出量を半減させる(2005年対比)ことを目標に定めたものです(図1参照)。これまでにも航空業界では、飛行機体の軽量化や燃費の改良、運航方法の改善によって省エネ化を図ってきましたが、それだけでは目標達成は難しいと考えました。そこで、従来の石油系ジェット燃料に替わる植物由来のバイオジェット燃料*1を導入することで、石油資源の使用量を抑えてCO2排出量を削減しようと考えたのです。
2000年代に入ってから、航空会社や航空機メーカー、燃料製造会社、空港などの関連業種で、バイオジェット燃料への取り組みが活発化しています。2008年に世界で初めてバイオジェット燃料を使って試験飛行を行ったのは、イギリスのヴァージン・アトランティック航空でした。それ以来、多くの民間航空会社がさまざまなテスト飛行やデモ飛行を行い、2011年から2015年の間には22のエアラインが2,500回以上の商業飛行*2を行っています。
*1 バイオジェット燃料:バイオマスを用いた燃料のことをバイオ燃料と言い、そのうちの一つであるバイオジェット燃料が航空機に使用される。バイオジェット燃料以外に、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオガスの4種類があるが、バイオエタノール、バイオディーゼルはほとんどが自動車用の燃料として使われ、バイオガスは発電や調理ガスなどにも利用される。
*2 2016年IATAファクトシートより
図1 航空業界のCO2削減ロードマップ(参照:IATA資料2012年度)
バイオジェット燃料とは、一般的に食用廃油や生ごみ、タバコ、藻類、木材などのさまざまな有機物から得られる油成分を精製してつくられる燃料のことです。使用するには高温での熱安定性や単位あたりの熱量、燃焼性といった、一般の航空燃料と同等の厳しい基準が課せられます。具体的には、米国の材料試験協会による「ASTM規格」で認証されたものが使われ、現在までに5種類が認証されており、16種類以上が認証の準備段階にあります。
この認証を受けたバイオジェット燃料は、従来の石油系ジェット燃料に混ぜて使用するタイプが主流となっています。これだと機体やエンジンの改修が必要ないので、スムーズに移行ができます。原料はとうもろこしのような食用作物が使われてきましたが、最近では食用作物と競合しない植物を使った第二世代バイオ原料が主流になりつつあります。
第二世代バイオ原料として注目されているのは、種子に油分の多いカメリナやジャトロファ、ソラリス、藻類などです。油分が多く、耕作ができなかった場所でも育つ植物が注目されています。ジャトロファはやせた土壌でも速く成長し、乾燥への抵抗力が強い多年生の植物で、種には30%の油分を含みます。カメリナは寒冷地でも栽培でき、乾燥した土地や高地でも栽培が可能です。ジャトロファやカメリナ由来のバイオジェット燃料を用いて、数多くの航空会社がテスト飛行および商業飛行に成功しました。
また、ニコチンを含まないハイブリッド品種のタバコの木「Solaris(ソラリス)」は米国ボーイング社がスポンサーとなり、南アフリカでの栽培が進んでいます。ソラリスは種に約40%の油分を含み、気候や土壌への適応性があり、食用作物が栽培できない土地でも栽培が可能なので、農家の経済支援にもつながると期待されています。2016年7月、ボーイング社はソラリスから精製した燃料と通常の燃料を混合させたバイオジェット燃料で、ヨハネスブルグからケープタウンの飛行に成功しました。
日本でも、藻類のミドリムシからつくるバイオジェット燃料の実用化など、さまざまな研究が進められています。バイオジェット燃料導入の課題はコスト高になるという点ですが、イギリスの調査会社によると、非食用の植物油を原料とする次世代バイオジェット燃料は、生産効率が改善すれば、2018年までに従来の石油系ジェット燃料のコストに近づくと分析しています。
バイオジェット燃料の原料となる「ソラリス」を育てる南ア農家 (ボーイング社)
米国は国土も広く、世界の約26%と圧倒的に多くの石油系ジェット燃料を使用しているため、バイオジェット燃料の導入に熱心な国の一つです。早い時期からバイオジェット燃料の導入を推進してきた航空会社に、米国のユナイテッド航空があります。同社は、2009年に藻類由来のバイオジェット燃料を使用して、米国で初めて旅客便を運航しました。2016年から3年間にわたって最大1万7,000トンのバイオジェット燃料を購入する契約を行い、定期便の商業飛行に使用しています。さらに、2015年には家庭ごみからバイオジェット燃料をつくる技術をもった企業とも提携し、2019年から年間27万トンのバイオジェット燃料を購入し、飛行に使用する計画も進行中です。
ほかの航空会社においても、バイオジェット燃料の導入の動きが活発化しています。KLMオランダ航空では、独自でバイオジェット燃料を供給する会社を設立し、欧州域内を飛行する航空機に対して供給を開始しました。また、香港のキャセイパシフィック航空では、家庭ごみからバイオジェット燃料をつくる企業に出資して、2019年から10年間、年間使用量の2%にあたる約14億リットルの航空燃料供給を受ける長期契約を結んでいます。エールフランス航空は2014年から2015年まで国内線の一部の定期便で、サトウキビを原料としたバイオジェット燃料を使用していて、今後もバイオジェット燃料による飛行を進める意向です。
このように、多くの航空会社がIATAのビジョンに基づいたバイオジェット燃料の導入を進めるために、燃料会社などと連携した商業飛行を始めています。
バイオジェット燃料の導入に熱心なユナイテッド航空は環境負荷を抑えたフライトを拡大させている(flickr)
ここまで航空会社と燃料開発について見てきましたが、空港でもバイオジェット燃料を積極的に供給しようという動きが広がっています。
飛行機への燃料供給は、駐機している飛行機のそばへ給油車で運んで給油する「レフューラー方式」と、共同の貯油設備からつながっている空港の地下埋設管を使って飛行機に直接給油する「ハイドラント方式」に大別されます。バイオジェット燃料の場合、レフューラー方式によって専用タンクから給油されるケースがほとんどです。ユナイテッド航空では、ロサンゼルス空港をはじめとする主要ハブ空港の近くに燃料会社と連携してバイオジェット燃料製造工場をつくり、製造された燃料を給油しています。
一方、ハイドラント方式による共同の貯油設備からのバイオジェット燃料の供給も、2016年からノルウェーのオスロ・ガーデモエン国際空港で、欧州系航空会社や燃料企業が協力しあって開始しました。燃料は非食用植物油のカメリナからつくられたバイオジェット燃料を約5割混合したものです。現在、ルフトハンザドイツ航空、KLMオランダ航空、スカンジナビア航空の3社が、バイオジェット燃料購入の契約を結び供給を受けています。
このような「バイオ空港」をモデルにした取り組みは、オランダのスキポール空港やスウェーデンのストックホルム・アーランダ空港でも進められているところです。このような取り組みをさらに進めるために、北欧地域では関連する航空会社や空港、旅行会社や利用客まで関連する組織や人を連携させて、バイオジェット燃料のプレミアム分を負担する「Fly Green Fund」と呼ばれる基金の仕組みが始まり注目されています。
近年、航空業界におけるバイオジェット燃料へのニーズは高まりを見せており、航空会社から空港、燃料会社、航空機メーカーなどさまざまな航空業界のステークホルダーに影響を与えています。そして2016年に締結された「パリ協定」に代表される国際的な地球温暖化対策の推進が、さらにこの普及を後押ししようとしています。燃料の充分な供給量の確保やこれまでの燃料との価格差などの課題はありますが、解決への取り組みが進むと予想されます。
欧米に比べてまだまだ整備が必要な日本でも、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、バイオジェットフライトを実現させようという計画があります。藻やミドリムシなどを原料としたバイオジェット燃料で飛ぶ飛行機が、東京を目指して日本の上空を飛び交う様子が見られることを期待したいところです。
スウェーデンのKarlstad空港に設置されたバイオジェット燃料専用タンク(SkyNRG)
Text by Yayoi Minowa