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世界の省エネ

6月

急激な経済成長のもと、再生可能エネルギーへ大きくシフトするインド

  • インド

若年層の多いインドでは、今後急速にエネルギー消費が伸びると予想されている

若年層の多いインドでは、今後急速にエネルギー消費が伸びると予想されている(flickr

経済成長の裏で電力不足が課題に

インドは中国に次ぐ12.5億人以上が暮らし、その6割が30歳未満という若いエネルギーで満ちあふれている国です。1991年に当時のナラシマ・ラオ政権が実施した「新経済政策」によって、国内における産業規制の緩和などの経済自由化が始まりました。それ以来、2016年までに年平均6.5%のGDP成長率を記録し、中国を上回るペースで経済成長しています。

人口拡大と経済成長は、急激なエネルギー需要の増大をもたらしています。国際エネルギー機関(IEA)によれば、同国のエネルギー需要は年間4.5%のペースで増加し、2040年には世界全体のエネルギー消費の4分の1を占めると予想しています。

エネルギー需要が急拡大するに伴い、さまざまな問題も起きています。一つは電力不足の問題です。特にピーク時における電力不足が深刻で、バンガロール、ムンバイといったIT産業が発達した大都市でさえ、日常的に数時間の停電が起きているほどです。電力不足の背景には、総発電量不足のみならず、盗電や送配電ロスの多さなども原因として指摘されています(グラフ1参照)。

二つめの問題は、地方の農村部には電化されていない、あるいは送配電されていても常時電気を利用できない地域が多いことです。農村部では、電気を利用できない人々が依然として3億人以上に及びます。整備や開発が進められる都市部に対し、総人口の7割を占める農村部はその流れから取り残されているのが現状です。

グラフ1 送配電ロスの国際比較(2015年)出典・参照:EIA(U.S. Energy Information Administration)

グラフ1 送配電ロスの国際比較(2015年)出典・参照:EIA(U.S. Energy Information Administration)

2030年までに電力の4割を再生可能エネルギーで

問題解決に向けて、インド政府は2022年までに10万MWの太陽光発電と6万MWの風力発電を導入し、2019年までに農村部を含む全国規模での常時電力供給を実現するという壮大な計画を発表しました。この計画には、2030年までに発電設備に占める再生可能エネルギーのシェアを、40%まで引き上げようという目標も設定されています。

2012年に発表された「India Energy Revolution」という報告書によると、政府の政策や投資がうまく機能すれば、インドにおける化石燃料のシェアは2009年の71%から2030年には23%に低下し、風力・太陽光・太陽熱が主流を占めるようになるとしています。化石燃料の輸入を抑制することでCO2排出量と燃料費用を削減し、再生可能エネルギー関連での雇用や産業を産み出そうというシナリオです。

つまり、政府はエネルギー需要の拡大に対して、再生可能エネルギーによってCO2を減らしながら課題に対応し、さらなる経済成長をはかろうと考えているのです。これは2016年に発効された「パリ協定」*1で、インドが2030年までに2005年比CO2を33~35%削減すると定めたことを意識しています。

*1 パリ協定:2016年国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された新しい地球温暖化対策の国際ルール。産業革命前からの気温上昇を2度より低く抑えることが目標。すべての国が削減目標を自主的につくって報告し、達成に向けた国内対策が義務づけられた。

風力発電では世界4位の発電容量になったインド

風力発電では世界4位の発電容量になったインド(flickr

世界第4位を誇る、インドの風力発電・太陽光発電

再生可能エネルギーのうち、すでに風力発電と太陽光発電では世界をリードする規模となっています。風力発電では、2016年3月末時点で国内の設備容量の累計は約2.7万MWとなり、すでに世界4位の発電規模になりました。同時に、政府のミッション「Make In India(メイク・イン・インディア)」の戦略のもと、風車の国内メーカーが成長をとげています。たとえば、北西部のグジャラート州では、国内大手の風力発電メーカーである「スズロン・エナジー」が建設した高さ80~120mの巨大な風車が、750基ほどそびえ立っています。周辺には風車を据えつける土台や風車の羽などを製造する関連工場も集積。伝統工芸品が主産業だった一帯は今や風力発電の街へと姿を変えています。

インドは風力発電だけでなく、太陽光発電にも力を入れています。2017年の太陽光発電導入量は日本を抜き、中国、米国につぐ世界第3位になろうかという勢いで伸びています。インドは世界のサンベルト(ほぼ北緯37度以南の温暖な地域)にあることから、インド国内の日照時間は365日のうち300日と非常に恵まれていて、太陽光利用のポテンシャルは十分あります。現在インド全29州のうち21州でメガソーラー計画が進行中で、2,000MW~4,000MW級の大規模な計画が進んでいる州もあります(図1参照)。太陽光発電ではメガソーラーに加え、屋上型設備、さらには送電系統から独立したオフグリッド型設備などの普及が計画されています。中でも地方農村部の電化促進では、送配電網が届かない地域もあるため、自立型の太陽光発電とバイオマス発電が有望なエネルギー源です。政府は2022年までに、1万の村落を対象にバイオマスを利用した電力供給を、そして1,000の村落を対象に太陽光を利用した電力供給を行う計画を打ち出しています。これらの地方農村部における分散自立型発電の多くは、NGOや研究機関の協力により進められています。

それらの取り組みの一つが、「ミニグリッド・システム」による電力の供給です。これは村の中心にある太陽光発電ステーションで発電した電力を、村が自前で設置した送電線によって各世帯に届けるシステムです。太陽光発電ステーションの運営経費は、村落の各世帯が支払う電気料金によってまかなわれます。小規模ですが、大きな災害にも強い自立したシステムです。

また、太陽光発電による蓄電が可能な照明のソーラーランタンを、多くの村で提供しています。この取り組みを行う組織の一つが、インドの首都ニューデリーに本部を置く「エネルギー資源研究所」です。この研究所では、インドを中心に400万ヶ所を超える太陽光発電および充電ステーションを設置し、各ステーションで充電できるソーラーランタンを配布する「Lighting a Billion Lives」キャンペーンを展開しています。

図1 インドにおける大規模太陽光発電所の計画(2016年)21の州でメガソーラー計画が目白押しのインド出典:INDIA SOLAR HANDBOOK 2016

図1 インドにおける大規模太陽光発電所の計画(2016年)21の州でメガソーラー計画が目白押しのインド出典:INDIA SOLAR HANDBOOK 2016


農業を営む家庭の子どもを対象にした学校には、ソーラーパネル、ソーラークッカーといったソーラーグッズが並ぶ Nadya Peek

農業を営む家庭の子どもを対象にした学校には、ソーラーパネル、ソーラークッカーといったソーラーグッズが並ぶ Nadya Peek(flickr

家畜の排泄物やサトウキビの搾りかすによるエネルギー利用

バイオマスによるエネルギー利用では、家畜の排泄物やサトウキビの絞りかす(バガス)を、燃料として活用する事例が目立ちます。

インドは水牛をはじめ牛の飼育頭数が多く、早い時期から牛の排泄物から発生するメタンガスを調理用のガスなど燃料として活用しています。最近ではこのメタンガスを使用したバイオガス*2発電を行い、照明や地下水をくみ上げる動力源として電力利用しています。また、エネルギー利用した後の排泄物の残りかすも、乾燥させて畑の肥料に使われています。バイオガスに含まれるメタンガスは温室効果が非常に大きいため、適切に活用することで地球温暖化対策に有効です。

産業用では、製糖工場から出るバガスを燃料として、発電と熱利用を同時に行うバイオマスコジェネレーションが推進されています。インドの第11次5ヶ年国家計画(2007~2012年)では、バガスによるコジェネレーションの発電導入目標を1,200MWとしていましたが、2013年の累積導入量は目標の倍に近い2,300MWとなりました。このバイオマスコジェネレーションは製糖産業での導入が盛んで、製糖工場のエネルギー需要を補っています。


このように、インドでは国を挙げての再生可能エネルギーの導入が進んでいる一方で、農村部における自立型のエネルギー供給も模索されています。この動きに対して、日本も協力する姿勢を取っており、2014年の日印首脳会談ではインドの再生可能エネルギーや省エネに関する協力を合意し、省庁レベルの会合が開かれています。今後は、再生可能エネルギーや省エネ分野における実証事業をはじめとした日本・インド両国の共同事業がいっそう拡大するでしょう。

13億人の未来を支えるインドの再生可能エネルギー促進計画は、CO2排出量の削減だけでなく雇用や産業の産出などにつながっています。今後もインドの再生可能エネルギーに向けた動きから、ますます目が離せません。

*2 バイオガス:家畜の排泄物や食料品の残りなどをタンクに入れ攪拌してつくる。成分は、メタンガス約60~70%とCO2約30~40%が含まれ、ボイラーやガス発電機の燃料として利用することができる。

南インドで排水からバイオ燃料をつくるプロジェクトの工事 SuSanA Secretariat

南インドで排水からバイオ燃料をつくるプロジェクトの工事 SuSanA Secretariat(flickr

Text by Yayoi Minowa