「琵琶湖には、『ヌシ』と呼ばれる全長1m以上の巨大ナマズがいる」と聞きました。一般的なナマズは、その半分くらいかと思うのですが、なぜ琵琶湖にそんな大きなナマズがいるのでしょうか?探偵さん、ぜひ調査をお願いします。
巨大ナマズの調査に、琵琶湖博物館へ
全長1mを超えるナマズ!?ナマズの実物を見る機会はあまりないのですが、ヒゲを生やした愛嬌たっぷりのイメージ。それが巨大だと、いったいどんな感じになるのでしょうか?
調べたところ滋賀県草津市にある「滋賀県立琵琶湖博物館」で、いろんな種類のナマズが飼育されているとの有力情報を得ました。実はこの琵琶湖博物館、過去に2回、別の調査でお世話になったことがあり、大きいナマズに出会っている記憶がぼんやりあるんです。確か名前が、琵琶湖にいる大きいナマズで……「ビワコオオナマズ」!
連絡をとり、巨大ナマズだと思われるビワコオオナマズについてお話をうかがうため出発!
JR草津駅から30分ほどバスに揺られ、博物館に到着。久しぶりの再訪に、なんだか懐かしい気持ちがこみ上げてきました。


待ち合わせの水族展示室で出迎えてくれたのは、魚類学が専門の主任学芸員・田畑さんです。理学博士でもある田畑さんは琵琶湖の魚の起源や進化の研究を続ける、まさに琵琶湖の魚のプロフェッショナル。前に見た巨大ナマズについて詳しく調べに来たことを伝えると、田畑さんは真剣なまなざしで答えてくれました。

「琵琶湖にいる巨大なナマズ、『ビワコオオナマズ』について調べに来られたのですね。まずは実物をご覧いただきましょう」。
田畑さんに続いて水族展示室の中へと足を踏み入れました。
どっしりかまえて動かない巨大ナマズ! 展示室では、いくつもの水槽が、まるで行燈(あんどん)のように光を放ちながら並んでいます。ここでは魚だけでなく、琵琶湖とともに歩んできた生き物たちの生態や、この地に息づく独自の文化も展示されています。

淡水魚が飼育されている大きな水槽をいくつか通り過ぎ、ビワコオオナマズはいったいどこ?ときょろきょろしていたところ「あそこにいますよ」と田畑さんが指をさしました。
水槽をのぞき込むと見えたのは、岩陰にどっしりと鎮座した、丸太かと思うほどの巨大な生き物。久しぶりに再会できました!

「間近で見ると、かなりの迫力でしょう?」。
こんなに大きかったっけ!?記憶にある姿より、とても大きくてびっくりしました。どのくらいの大きさなのでしょうか?
「この個体でだいたい1mほどです。これでも十分大きいのですが、野生の世界ではさらに大きく成長するものもいるんですよ」。
1m!近くで見ると、その堂々とした風格は、まさに琵琶湖の「ヌシ」。長いヒゲも生えていて、まるで映画や漫画に出てきそうな、なんでも知っている長老を思わせる存在感です。
ナマズはまったく動かず、まるで置物のようです。水槽にさらに近づいてみても、ピクリともしません。
まったく動きませんね。
「動かないでしょう?ビワコオオナマズは夜行性なので、昼間はじっとしていて、ほとんど動きません。琵琶湖では、水深数mから20m程度の岩陰に潜み、夜になると動き出し、ウグイ、ビワマス、ニゴロブナなどの魚を、大きな口で丸ごとガブっと飲み込みます」。
丸ごとですか!?こんなに体が大きいなら、たくさん食べそうですね。
「実はそうでもないんです。半年くらいなら絶食しても平気なんですよ。自然界ではエサに出会えないこともあるので、ビワコオオナマズにとって絶食は普通のことなんです」。
えっ!そんなに長い間、絶食できるなんて驚きです。お腹が空いても平気なんですか?
「肉食魚は絶食に強いといわれています。食べなくてもこれほど大きな体を維持できるのは、生き物としての強さでもあるんです。でも、食べすぎには弱いんですよ!エサを与えすぎると“胃もたれ”で死んでしまうこともあるんです」。
胃もたれが命にかかわるとは。堂々とした体つきですが、繊細な一面があるんですね。

ビワコオオナマズの水槽のまわりにはほかの種類の琵琶湖のナマズが展示されていますがどれも小ぶりです。琵琶湖のナマズは、必ずしもすべてが巨大なわけではなさそうです。
「はい、琵琶湖にはナマズの仲間が3種類いて、そのなかでもビワコオオナマズは別格で大きく成長するんです。ほかの種は成長しても60cm程度であるのに比べて、最大で1m30cmくらいに達することもあります」。
ほかの種類の2倍以上!なぜ、そんなにも大きくなるのでしょうか?

「それには、琵琶湖という湖が持つ『特別な歴史』が深くかかわっているんですよ。パネルを見ながら詳しく解説しますので、別の展示室まで移動しましょう」。
琵琶湖にだけ巨大ナマズがいる理由とは?
ビワコオオナマズだけが、なぜこれほど巨大なのか。いよいよ謎の核心に迫ります。田畑さんの案内で到着したのは2階の展示室です。
「このコーナーでは魚などのDNAの解析結果や化石のデータから、琵琶湖の固有種たちがどう進化してきたかを紹介しています」。
DNA、化石……?なんだか難しいかも。聞きなれない話に身がまえてしまいますが、田畑さんはパネルを指さしながらやさしく言葉を続けてくれました。
「ビワコオオナマズのDNAを調べたところ、日本の一般的なナマズとは違う系統で、どちらかというとヨーロッパにいる、1mを超える巨大ナマズたちに近い系統であることがわかっています」。
えっ?ということは、ビワコオオナマズは、海外の巨大ナマズたちの親戚みたいなものなのですか?
「そのとおりです。つまり彼らは、大きく育つための素質をもともと秘めているんです」。
そうなのですね!なぜ海外の巨大ナマズが日本にいるのでしょう。
「ビワコオオナマズの祖先が生まれた時期を考えると、かつて日本が大陸と地続きだったころに日本に移ってきたためと考えられます。そのころは、西日本の各地に巨大ナマズがいたと思います」。
ということは、今は琵琶湖以外にはいないんでしょうか?
「はい、日本では琵琶湖だけです。数百万年の間に地形が変わり、巨大ナマズが生息できるような水域が次々と消えていったからです。生き残れる環境の整っていた場所が、琵琶湖だけだったんです」。

なるほど巨大ナマズが存在できる唯一の場所だったんですね!
琵琶湖だけが、特別な湖だったのでしょうか?
「そうですね。一般的な湖は、まわりの川が運んでくる土砂で埋まってしまい、数千年から数万年もたてば姿を消す、つまり寿命のようなものがあります。でも琵琶湖は約400万年も枯れていないんです」。
琵琶湖が枯れないのは、なぜなんですか?
「秘密は、湖の底を走る『活断層』です。一般的に、湖は土砂が積み重なっていつか埋まってしまいますが、琵琶湖は活断層の動きによって、今も少しずつ湖の底が沈み続けて深まっています。そのスピードは土砂がたまるスピードより速いんですよ。だから400万年もの間、なくならずに存在し続けているんです」。
あっ!以前、この博物館を訪れたときにも、同じ話を聞いたことを思い出しました!だんだん深くなっているから、土砂で埋まることがなく、枯れない、ということですね。ずっと消えずに存在した琵琶湖が、ビワコオオナマズを守ってきたんですね。なぜ琵琶湖で生き残れたのか、理由がわかりました!
「ビワコオオナマズが琵琶湖で今日まで生き残っているのは、ほかにも重要な理由があるんですよ」。

数年で大きくなり生態系の頂点に君臨
重要な理由とはなんでしょうか?
「それは、ビワコオオナマズが、琵琶湖で一番大きな魚だからです。1年で20cmも成長するので、数年もすれば巨体になり、生態系の頂点に君臨します。ある程度大きくなれば、琵琶湖には天敵がいなくなるんです」。
なるほど。ほかの魚に襲われることがない、ということですね。
「はい、あともうひとつ。琵琶湖が、ビワコオオナマズを養う環境が整った豊かな湖でもある、ということも重要なポイントです」。
たしかに!そもそも環境が整っていないと、天敵がいなくなるまで大きくなることはできないですね!
「ええ、さらに寿命も驚くほど長いんですよ。一般的なナマズの寿命は10年から15年ほどですが、ビワコオオナマズは30年以上と考えられているんです」。
30年以上!見た目だけでも「長老」の貫禄がありましたが、本当にナマズ界の長老ですね!天敵がいなくて、巨大で、しかも長生き。そんな存在が琵琶湖にいるなんて……。「ヌシ」と呼ばれるのもわかります。

琵琶湖のヌシは、めったに見られない?
知れば知るほど、琵琶湖で泳いでいるビワコオオナマズにも会いたくなってきました。琵琶湖に潜れば、見ることはできるんですか?
「実は、そう簡単に見ることはできないんです。現在は、準絶滅危惧種に指定されるほど数が減っています。漁師さんの定置網にさえ、年に1、2回かかるかどうかなんです」。
えっ、無敵を誇るほどなのに、なぜそんなに減ってしまったんですか?
「大きな要因は、環境変化により産卵に適した浅瀬や水草の生える場所が減っていることです。また、産卵場所によっては、孵化する前に水位が下がり卵が干上がってしまうこともあるようなんです」。
なるほど。産卵しても、孵化までの道のりは険しいんですね。
「ビワコオオナマズは、正確な寿命や一回の産卵数など、いまだに謎に包まれている部分の多い魚です。観察が難しいからこそ、まずは彼らが生き残れる琵琶湖の環境を守っていくことが大切だと考えています」。
まだまだ謎が多い生き物なんですね。ビワコオオナマズについて詳しく学べてよかったです!巨大なナマズは、400万年前から琵琶湖とともにあった、固有種「ビワコオオナマズ」でした。いつか、琵琶湖で泳いでいるところを見つけられたらいいな。

- ※この記事は2026年4月1日時点の情報をもとに掲載しています。




