琵琶湖の近くでブラックバス丼を食べられるレストランがあると聞きました。そもそもブラックバスってどんな魚なの?探偵さん、調査をお願いします。
ブラックバスとは、もともとは北アメリカに生息する外来種の魚で、現在では、琵琶湖をはじめ日本の各地で確認されています。年中釣れることから多くの釣り人が「バス釣り」を楽しんでいますが、釣ったブラックバスを食べるというのは聞いたことがありません。探偵たちが調査したところ、「滋賀県立琵琶湖博物館」のレストランでは、ブラックバス丼を提供しているのだとか。興味津々の探偵たちは、さっそく向かってみました。
JR草津駅からバスに乗って約30分、琵琶湖のほとりに建つ滋賀県立琵琶湖博物館に到着し、まだ見ぬブラックバス丼を想像しながら、館内に入る探偵たち。ブラックバス丼を食べられると聞いてきたのですが?とお聞きすると、学芸員の中井さんがこう提案してくれました。「レストランに行く前に、まずは博物館を見学されてはいかがでしょうか。見るだけでなく、さわったり、においをかいでみたりして、琵琶湖の自然や生き物について五感で体験できますよ」。探偵たちは中井さんに案内してもらい、展示室に向かうことにしました。
「約400万年という長い歴史を持つ琵琶湖は、日本で唯一の古代湖です。60種あまりの固有種を含めた2,000種以上の生き物たちが暮らしているんですよ」と中井さん。滋賀県立琵琶湖博物館は、「琵琶湖のすべてを体感するミュージアム」をコンセプトに、琵琶湖と生き物、そして私たちとのつながりについて学べる博物館とのこと。古代から現代までの歴史が詰まった展示の数々は圧巻です。ひときわ存在感を放つのは、中国黄河近くで発見された高さ4mのツダンスキーゾウの展示。日本に渡ってきたツダンスキーゾウから進化したミエゾウがかつて琵琶湖の周辺に生息していました。
琵琶湖の歴史を学んだ探偵たちが次に足を運んだのは「水族展示室」。展示面積が約2,000平方メートルで、淡水生物の展示としては国内最大級という規模を誇ります。入ってすぐの「トンネル水槽」には、コイやフナ、ビワマスなどが泳いでいます。さらに進むと、琵琶湖の主である最大の固有種、ビワコオオナマズが展示された水槽も見ることができます。
いろんな水槽を見てまわるうちに、外来種のコーナーにブラックバスを発見した探偵たち。あれ?想像してたのよりもずいぶん小さいな、と思っていると、中井さんから「大きいものだと60センチを超えるブラックバスが釣れることもあります」と教えてもらいました。
博物館で、琵琶湖の自然や生き物について理解を深めた探偵たち。「続いて、ブラックバス丼が楽しめる『ミュージアムレストラン にほのうみ』にご案内します。ここでは、五感のひとつである味覚で琵琶湖を体験していただけます」と中井さん。いよいよ、お目当てのブラックバス丼が登場です!
湖が望める窓際の席に着くと、「揚げたてをどうぞ」と「にほのうみ」の店長・奥長さんが「バス天丼」を持ってきてくれました。ブラックバス丼は、ブラックバスを天ぷらにした丼だったんですね!さて、どんな味なのか、探偵たちも期待が膨らみます。
ドキドキしながらいただくと……アレ?くさみもクセもまったくなく、外はサクサク、中はふっくら。まるでスズキかタイを思わせる上品な味わいです。これはおいしい!奥長さんによると、「食べるのにネックとなるくさみは皮のぬめりにあります。当店では皮を取り除いて丁寧に処理された切り身を、提携している漁協から仕入れています。仕入れたブラックバスを水でしっかり流すことで、さらにくさみを軽減できるんです」とのこと。自家製のハーブ塩で下味をつけてから揚げることで、より風味豊かな味わいに。奥長さんによると、バス天丼を食べたお客さまは、ブラックバス=食べられないというイメージが覆されたようで、「ブラックバスがこんなにおいしいとは!」と感動する方がほとんどだそう。
ところで、なぜレストランでブラックバスを提供しているのでしょうか?とお聞きすると、中井さんは「美しく豊かな琵琶湖を守るためなんですよ」と、ブラックバスと琵琶湖の関係性についてこう教えてくれました。「ブラックバスは、大正時代に『釣ってよし、食べてよし』として日本に持ち込まれた外来種です。その後、バス釣りの流行とともに「釣ってよし」だけが先行し、「食べてよし」は置き去りにされる形で日本各地に広まりました。しかし、ブラックバスは肉食で、ニゴロブナやホンモロコといった琵琶湖の在来魚の卵や稚魚を食べてしまうため、琵琶湖の生態系や漁業をおびやかす大敵として社会問題になりました」。
そこで滋賀県は、1985年からブラックバスの駆除対策にのり出します。対策をおこなった結果、水産試験場の推定によると2007年当時約450トンだったブラックバスの生息量は減り続け、2019年には約200トンと半分以下の状態になっているそうです。また、駆除をする中で、釣りの流行の陰で食用とみなされてこなかったブラックバスをおいしく食べる調理方法がないかも模索されました。
中井さんによると、にほのうみでは2001年ごろからブラックバスを使ったメニューの提供を開始。かつてはブラックバスを使ったバスバーガーを提供していたこともありますが、現在は食べられないそう。「最近では、バーガーに適した大型のブラックバスはとれなくなっていて、琵琶湖のブラックバス駆除を続けたうれしい結果だと思っています。これからも駆除が進み、琵琶湖の固有種を守っていきたいです。そして、いつかブラックバス料理を提供できなくなるのが理想ですね!」。
約400万年という長い歴史を持つ貴重な古代湖・琵琶湖。そこには数多くの生き物が生息し、また人々の暮らしに深くかかわってきました。人の手によってブラックバスなどの外来種が持ち込まれ、一時的に脅かされた琵琶湖に住む固有の生き物たちも、また人の手によって本来ある姿に戻そうとされています。これからもその豊かな自然を守り続けてほしいですね。いつかは食べられなくなるかもしれないブラックバス料理。滋賀県立琵琶湖博物館で琵琶湖の自然や生き物について学びながら、バス天丼を味わってみてくださいね!