日本最年長の切子職人さんが大阪にいると聞きました。どんな作品を作るんでしょうか?探偵さん調査お願いします!
切子とは、江戸時代後期に生まれたガラスの加工方法の一つで、ガラスの表面をカットしてさまざまな模様を描いていく技法のことです。「江戸切子」や「薩摩切子」が有名ですが、大阪にも切子を作る職人さんがいると聞いた探偵たち。しかもその職人さんは全国の切子職人の中で最年長なんだとか。調べてみたところ、職人さんがいるのは大阪市都島区の「藤本硝子加工所」だとわかりました。さっそく調査に向かいます!
JR桜ノ宮駅から徒歩5分のところにある「藤本硝子加工所」に到着した探偵たち。どんな作品を作っているのか教えてください、と探偵たちがお願いしたところ、「もちろんです、中へどうぞ」と迎え入れてくれたのは、職人歴70年をこえる藤本さん。今年93歳になられたそうです!
「これが私の作品です。切子とすりガラスの加工を組み合わせて作っているんですよ」と藤本さん。切子特有のシャープな線と、ふわりとやわらかなすりガラスの模様の組み合わせはとっても繊細でうっとりするような美しさです。
このような繊細な作品がどのように作られているのか気になった探偵たちは、作業場を見せていただくことに。藤本さんは「まずは、切子のカッティングをお見せしましょう」と案内してくれました。切子加工は、ガラス製品を両手で持ち、回転する砥石(といし)に押し当ててガラスの表面をカットし、直線や曲線を描いていきます。模様によって複数の砥石を使い分けながら、1本1本、長年の経験をいかし丁寧に線を引いていくと、あっという間に花の模様ができ上がりました!「あまり力はいりませんが、ガラスが滑るので、肘を台に固定して動かないようにするのがポイントです」と藤本さん。
続いて、すりガラス加工でぼかし模様を入れる作業へ。切子の模様を施したガラスにゴム製の型を当てて、細かい砂を吹きつけガラスの表面を加工します。すると、型の切り抜かれた部分に、ぼかし模様が入りました。線で描いた模様に、ふんわりとしたすりガラスの加工が加わることでガラリと印象が変わりましたね!
ここで、藤本さんが切子職人になったきっかけをお聞きすると、「実は、大阪はガラス産業が盛んな町だったんですよ」と教えてくれました。江戸時代に、長崎でオランダ人からガラスの製造方法を学んだ商人が大阪の天満で工房を開いたのがはじまり。江戸時代末期には数多くのガラス職人が大阪に集まっていたそうです。その後、ヨーロッパへの輸出やガラス製品の需要の高まりにより、大正時代には全国のガラス関連工場の多くが大阪にあったそうです。
ガラス産業が盛んだった大阪で、藤本さんは20歳のころから働きはじめました。大阪・天満のガラス加工所の親方のもとで切子の技術を8年間かけて習得。昭和33年に「藤本硝子加工所」を開業し、ガラス食器を中心にガラスの加工仕事をしていました。
昭和後期になると、ガラス加工の機械化が進み、安価な外国製のガラス食器が普及したことで仕事が激減してしまったそうです。「このころから、仕事の幅を広げるためすりガラス加工の設備を導入しました。ほかにも、海外で作ったものの修理や、ガラスの穴あけ作業などの仕事をしていたんです」。しかし、取引をしていたガラス食器の会社が平成10年に倒産してしまい、とうとう仕事がほとんどなくなってしまった藤本さん。それでも、趣味としてビール瓶や一升瓶に模様を入れるなどガラス加工を楽しんでいました。「もともと何かをやっていないといけない性分でしたし、親戚に配ると喜んでくれるのがうれしかったですね」。
自作のランプシェードを作業場に置いていたところ、偶然、ガラス照明器具問屋の社長さんの目にとまり、「ぜひうちで取り扱っているランプにも切子加工をしてほしい」と申し出てくれたそうです。それをきっかけに注文がどんどん増え、現在はランプシェード作りをメインにガラス加工を続けています。「納期もデザインも任せると言ってくれるお客さんもいて、どんな模様にしようか、どんな作品にしようか考えるのが楽しいです。毎日、雑誌や女性の着物の柄などにアンテナをはっていいデザインが作れないか考えています」。今もなお、新しいオリジナルの作品に挑戦しているんですね!
近年、大阪の切子作品やガラス加工技術が注目されているそう。2019年に大阪で開催されたG20サミットでは、大阪の老舗ガラス工房の切子グラスが各国首脳に贈られました。藤本さんも「同じ大阪で、同業者の方が作った作品が世界に紹介されるのはありがたい限りです。そして、若い職人さんたちが大阪の切子を絶やす事なく作り続けていってほしいですね。応援しています」と語ります。
藤本さんは、最後に「神経を研ぎ澄まして加工しないとしくじってしまうし、どれだけ作っても切子は難しいですね。でもこの年でまだ仕事がもらえるのはありがたいですし、綺麗、かわいいといってもらえることが幸せ。いただいた仕事は断らずに、毎日を大切に過ごしています」と笑顔で語ってくれました。繊細な模様が描かれた数々の作品には、70年間の切子職人歴を持つ藤本さんの技術と思いが詰まっています。大阪の地場産業として発展してきたガラス加工。これからもどんな作品が生まれてくるのか楽しみですね!皆さんも、機会があればぜひ一度手に取ってみてください。その美しさにとりこになってしまうかもしれませんよ。
- 藤本硝子加工所