依頼内容

おしゃれな「貝ボタン」が大好きです。奈良県産のものが有名だと聞きましたが、どんな風につくっているのですか?

皆さんは貝ボタンをご存知ですか?その名の通り貝でつくられたボタンで、プラスチック製よりも高級感があるので、昔からオーダーメイドのスーツやワイシャツなどに使われています。調べたところ、貝ボタンの生産で国内のトップシェアを占めるのは奈良県の川西町と判明。このエリアには古くから続く貝ボタンの製造業者がいくつかあり、町全体をあげて特産品としてアピールしています。探偵たちは詳しい話を聞くために、町内にある大正3年創業の貝ボタンの会社「株式会社トモイ」へと向かいました。

ボタンの看板がかわいい株式会社トモイ
ボタンの看板がかわいい株式会社トモイ

トモイは貝ボタンの国内シェア50%を生産する、日本一の貝ボタン屋さんです。まずは三代目社長の伴井さんから、貝ボタンの歴史を教えてもらうことにしました。

日本一の貝ボタン屋社長の伴井さん
日本一の貝ボタン屋社長の伴井さん

貝ボタンの製造技術がはじめて日本に渡ってきたのは、明治時代中期のころでした。川西町では農閑期の家内工業として、明治39年に2軒の貝ボタン製造業者が誕生したそうです。やがて洋装が一般化するとともに軒数も徐々に増え、最盛期の昭和40年代には川西町だけで約400軒もの製造業者が軒を並べることに。このころは、貝殻をくり抜く「抜き屋」・ボタン穴をあける「穴あけ屋」・表面を磨く「磨き屋」など、役割の異なる業者が軒を連ね、町全体が貝ボタン工場のようになっていたとか。しかし、プラスチックボタンが出回りはじめ、そのうえさらに不景気が長引いた影響により、現在では製造業者はわずか数軒に減ってしまいました。とはいえ、クオリティの高い貝ボタンは今でもつくられていて、町の誇りです。

高級オーダーシャツには貝ボタンがよく似合う!
高級オーダーシャツには貝ボタンがよく似合う!

さて、貝ボタンはどうやってつくられているのでしょうか?伴井さんは「主に高瀬貝・黒蝶貝(くろちょうがい)・白蝶貝(しろちょうがい)など、赤道付近やミクロネシア諸島で獲れる貝が使われているんですよ。その貝を、現地などの加工業者がボタン用にくり抜いたもの(ブランク)を輸入しています」と教えてくれました。

写真左:貝ボタンの原料となる貝、写真右:輸入されたままの状態の「ブランク」
写真左:貝ボタンの原料となる貝、写真右:輸入されたままの状態の「ブランク」

ブランクを輸入した後の製造工程は、厚さ別に選りわける「ロールかけ」、仕上がったときに最も美しく見える厚みに調整する「摺り(すり)」、ボタンの表面に膨らみや溝などの型をつける「型付け」、ボタン穴をあける「窄孔(さっこう)」と進みます。型付けでは機械が使えないものもあるので、その場合は手作業で行います。

写真左:手作業による「型付け」、写真右:裏表を自動的にセットする機械に材料を供給後、「窄孔」の作業に入ります
写真左:手作業による「型付け」、写真右:裏表を自動的にセットする機械に材料を供給後、「窄孔」の作業に入ります

それから、貝ボタンの命でもある光沢を出す作業に入ります。まずは化車(がしゃ)と呼ばれる箱にボタンを入れ回転させて丸みをつける「化車かけ」。続いて薬品と熱湯の入った木桶で約1時間回転させる「艶出し」。最後に、ロウを付着させたもみを木箱に入れて回転させる「磨き」を行い、ようやく貝ボタンが完成します。ボタン一つひとつのサイズやその日の気温によって薬品につける時間や熱湯の温度を変える必要がありますが、熟練の職人さんたちが勘で微調整しながら行っています。機械だけでは成り立たない工程が、貝ボタンの輝きを生み出しているんですね。

写真左上:化車かけ、写真右上:艶出し、写真左下:磨き、写真右下:作業完了後のピカピカの貝ボタン
写真左上:化車かけ、写真右上:艶出し、写真左下:磨き、写真右下:作業完了後のピカピカの貝ボタン

ところで、伴井さんは社長就任前の昭和58年に、古い技術を守るだけでなく最新のボタン製造について学ぼうと、イタリアにある有名な貝ボタンメーカーに単身留学していました。おしゃれに対するこだわりの強いヨーロッパでは、貝ボタンの製造技術が日本より進んでいたからだそう。留学して伴井さんが衝撃を受けたのは、艶出し作業。「トモイでは艶出し作業は10分程度なのが当たり前でしたが、イタリアでは1時間もかけていたんです!時間をかけることで薬品がじっくり浸透するため、貝ボタンの艶が全然違いました」。帰国後、さっそくその製法で製造した貝ボタンを取引先に見せたところ、「ボタンの艶に深い奥行きがある!」と高い評価をもらいました。

日本とイタリアの違いに驚いたという伴井さん
日本とイタリアの違いに驚いたという伴井さん

また、ボタンに文字などを入れる工程がある場合、それまでは先代が考案した「NC彫刻機」という彫刻機を使っていましたが、帰国後はイタリアから最新式のコンピューター制御によるレーザー機械なども導入。さらに、ボタンへのプリント加工を取り入れるなど、デザインのバリエーションを増やすことができました。

写真左:イタリア製の機械、写真右:最新の機械でつくられた斬新な貝ボタン
写真左:イタリア製の機械、写真右:最新の機械でつくられた斬新な貝ボタン

今でも伴井さんは年に数回はイタリアへ足を運んで、自社のボタンに最先端の流行を取り入れています。そして、2年ほど前からはイタリアをはじめとする海外への輸出を開始。機械による製造工程が多いイタリア製に比べ、トモイのボタンは熟練の職人技による丁寧な手作業の工程が多いことから、割れにくくて美しいと高く評価されています。「先日イタリアへ足を運んだときに、ファッション業界の方から“TOMOI is very famous!”と言ってもらえて感激しました」とうれしそうな伴井さん。今ではロベルト・カヴァリをはじめ、トモイのボタンを使ってくれる世界的な有名ブランドが増えつつあります。昔ながらの職人技を守りながら最新の技術で、これからもよりよい貝ボタンをつくり続けてほしいなと願う探偵たちでした。

あの憧れブランドのボタンに!
あの憧れブランドのボタンに!
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