大阪の街を妙な音楽をかけて走る、派手なデコ車を見ました!焼き芋を販売しているという噂を聞いたのですが、本当ですか?
デコ車といえば、車に塗装や電飾装備をしたデコトラや改造車などを思い浮かべますが、そんな車がなぜ焼き芋を販売しているのでしょうか。謎が深まる中、SNSから出没情報をキャッチし、さっそく夜の街へ繰り出し調査を開始した探偵たち。
すると、大阪ミナミのとある街角に、ギラギラと輝く電飾でデコレーションされた車が目に飛び込んできました。そのド派手な風貌に、道行く人たちがどんどん集まってきています。
ヘンな音楽も流れていますが、よくよく聞いてみると、「イシヤ~キイモ~」と重低音で独特な売り声が!?販売をしている方に質問してみると、「これは焼き芋の移動販売車で『金時(きんとき)』と言います」と教えてくれました。どうやらこれが噂のデコ車のようです。
教えてくれたのは、木崎さんと京都造形芸術大学で講師としても活躍する山脇さんによるアートユニット「Yotta(ヨタ)」。二人に詳しく話を聞いてみました。
二人の話によると、これは単なるド派手な焼き芋を売る車というわけではないようです。焼き芋を売ることから生まれるお客さまや通行人たちとのやり取り、焼き芋を食べる人、そして異質な車が路上にあるというシチュエーションなど……。「この車から生まれる、人の動きや街の変化といったもの、それら丸ごと全部が僕たちの作品なんです」とのこと。
二人が活動を始めるきっかけとなったのは、今をさかのぼること2009年。共通の知人を介して出会ったことで、「何かおもしろいことをしたい」とコンビを結成し、東京・六本木のアートイベントに参加することに。これまで、アートや美術作品は静かな雰囲気の中で鑑賞しなくてはいけなかったり、見るべきポイントがわからないと敬遠される方も少なくないと感じていたことから、「誰もが難しく考えずに、普通のおばちゃんたちが親しめるものをつくろう」と決めました。おばちゃんたちに親しみやすいものと言えば、「焼き芋」。そこに思い至ったのは、「そういえば焼き芋を売る車って、最近あんまり見ぃひんな」という話になったからです。
当初は不思議そうに眺められているだけだったのですが、東京で移動しているうちにスゴイスピードでSNSなどで拡散され、取材依頼が徐々に来るようになったのだとか。
焼き芋を売る車と言えば軽トラが定番ですが、軽トラだとこれまでのイメージと変わらない。それならば、庶民的な焼き芋とのギャップがおもしろいと、政府高官や会社の重役たちが乗っている高級セダンを母体にデコトラ風にデコレーションしました。最初こそ控えめだったものの、徐々にバージョンアップして、今はまるで盆踊りのやぐらのような、一目見ただけで度肝を抜かれる派手なビジュアルへと変貌を遂げました。
それだけでなく、できあがる焼き芋も作品の一部になるので、おいしさにも妥協しません。サツマイモには最高級の徳島県里浦産「鳴門金時・里むすめ」を使用し、じっくりと焼きあげる焼き芋は、甘くてホクホク♪
また、「金時」という車の名前は、サツマイモの「鳴門金時」と、金太郎の本名「坂田金時」に由来しているとのこと。そのため、エンブレムや山脇さんが描いたデコパーツのイラストにも、金太郎が表現されています。
Yottaは、2015年に現代アートを対象にした「岡本太郎現代芸術賞」の岡本太郎賞を「金時」で受賞しました。二人は東京・青山の「岡本太郎記念館」に新作を展示する権利をもらい、そこで披露したのが「穀(たなつ)」。ピックアップトラックの荷台に、ロケットランチャーのようなものが搭載されています。実はこれ、大砲型のポン菓子製造マシン!ド派手なパフォーマンスを見るだけでなく、製造されるポン菓子を食べることで、作品を五感で楽しめます。
その他、2004年の強制撤去を機に姿を消した、大阪・天王寺公園のかつての名物「青空カラオケ」をモチーフにした作品など、さまざまな作品づくりに取り組んでいます。
今後の目標は海外に出品すること!「これまで日本人にとって身近なものを題材に表現活動をしていますが、それらを見たこともない人がどんな反応するのか見てみたいですね」と語るYottaの二人。近い将来、デコラティブな「金時」が、パリ・凱旋門の下やニューヨークのネオン街などを走りながら、焼き芋を売る日が来るのでしょうか?想像しただけで、ワクワクしてきます。その前に、これを読んだ皆さまが、いつかどこかの街中で出合えますように。
現在「金時」は、毎年10月~4月のサツマイモが旬の時期に、東京、大阪の街に出没中。その他、日本各地のアートイベント、マルシェ、グルメや車のイベント、音楽フェスなどにも出展しています。スケジュールはHPでご確認ください。