昔のテレビCMでインパクトのある「味園ビル」に、最近若い人たちが集まってきていると聞きました。どんな感じなのか、調べてきてください!
大阪・ミナミにある味園ビルは1956年に建設され、モダンで高級感のある外観と高度経済成長期の時代背景も相まり、人気を博したレジャービル。ビル内にはキャバレー、スナック、ダンスホール、宴会場、サウナがあり、連日連夜の大盛況だったとか。その後、1980年代のバブル経済期まではミナミを代表するビルでしたが、バブル経済がはじけた後は不況で低迷したと聞きます。
そんな味園ビル、今ではどうなっているのでしょうか。
調査に協力してくれたのは、味園ビルの2階にある、バーやスナックが44軒連なる千日二番街で、「新春シャンソン荘」というバーを営む吉崎さん。吉崎さんは味園ビルで10年程務めたのちに、バーをオープン。グラフィックデザイナーとしてTシャツをつくったり、味園ビル内のお店のロゴを手がけたりなどしている、筋金入りの味園っ子です。そんな吉崎さんに、まずは味園ビルの歴史について聞いてみました。
そもそも、「味園ビル」は初代オーナーが独学で一から建築の勉強をして建てたのだそう。戦後10年という時期だったからこそ、おもろいビルをつくりたいと図面を引き、アイデアを形にするために試行錯誤したそうです。オーナーのアイデア、それは「宇宙(ユニバース)をひとつのビルで表現したい」というものでした。
オーナーが目指したユニバースへのこだわりは、日本庭園のようなエントランスやどこへ導かれるのかと思わせる螺旋階段、鍾乳洞をイメージしてつくられたサウナなど、大きなことから細部にまで表現されています。クリスマスシーズンにもなれば、どこでも見られる植木に電飾をつけたイルミネーションも、日本で最初にやったのが実は味園ビルだそうな。
また、ダンスホールでは、デビュー前の大物有名歌手が、専属歌手として歌っていたこともあったそうです。昭和の芸能史もまた、宇宙の一部なんですね。
圧巻だったのが、地下につくられたグランドキャバレーで、その名も「ユニバース」。できた当初はフロアぶち抜き、天井の高さ12mの巨大スペースだったそうです。その巨大スペースには星のごとき電飾が無限にちりばめられていて、たくさんの人たちがこの宇宙の中心に毎夜吸い込まれていったそうです。
このセンス、当時ビルを訪れた人たちはさぞかし度肝を抜かれたことでしょう。実際に、そのユニークさが評価され、アメリカの写真雑誌「ライフ」の中表紙を飾ったこともあるそうな。雑誌を見た海外からの観光客が大勢やってきたそうです。
その後1980年代に数年がかりで実施された改修工事で、キャバレーの巨大スペースを分割し、ホテル・サウナ・スナック街の3フロアが追加されました。しかし、バブルがはじけた1990年代半ば以降、長引く不況のせいで、テナントフロアの大半が空き物件となり、「ライフ」に「日本最大のクラブ」と紹介されたキャバレーも、閉店の憂き目にあいました。
普通ならこの流れで行くと、閑古鳥の鳴いた古いビルは取り壊されてかつての賑わいはどこへやら、と人々の記憶から忘れ去られてしまうものです。ところがどっこい。
2000年代半ばごろから、味園ビルの他とは違うレトロな雰囲気に目をつけた若い人たちが店を出すようになり、ビルの個性に負けないユニークな店がズラリと立ち並んだことで、老若男女が集うレジャースポットとして人気を集めるようになりました。
で、いったいどんな店があるの?と聞いてみたところ、「言葉で説明するより、見に行ったほうが早いやろ―、連れてってあげるわ!」とフットワークの軽い吉崎さんに、味園ビルツアーに連れていってもらうことになりました!ドキドキ。私を宇宙に連れてって……。
まずは、昼間に人気のお店から。味園ビルと言えば、夜に賑わう場所というイメージが強いのですが、昼間でも営業している店がいくつもあります。
まずは1Fにある、フクロウカフェ「Lucky Owl」。道頓堀にお店を構えていた店主さんが、2016年の7月より、こちらのビルに移転。店内に入ると、カフェスペースがあり、中に進むとフクロウと触れ合えるスペースがあり、かわいいフクロウの写真も撮れるため若い男女のカップルに人気です。フクロウは全17種類で、ここでしか触れ合うことのできない珍しいフクロウとも写真を撮ることができるので、遠方からお越しになる方もいるようです。
2Fの千日二番街は、元はと言えばスナック街だった場所。そこへ、「味園っておもろそうやん!」と若い人が集まってきたことで大きく変貌を遂げました。元味園電気部棟梁の岡本工さんが創業当時の味園ビルを復元した模型などを展示しているギャラリースペース(現在は土曜日のみ開館)や、夕方から深夜まで営業している美容院などがあります。お昼に不定期でオープンしているカレー屋なども、味園ビル内のホットスポットです。バーやスナックもありますが、どの店も、いわゆる「赤ちょうちん」の居酒屋や、ママと一緒にカラオケで「3年目の浮気」を歌うイメージの店とは、明らかに違います。
ちなみに、吉崎さん自身が営むお店もここ千日二番街にあり、昭和のおもちゃやアート、音楽と共にお酒が楽しめる空間となっています。
同じく千日二番街には、20代の若い方から団塊の世代にまで愛される情緒あふれる渋〜いお店がたくさんあります。中には、ノンアルコールのカクテルを提供するお店もあり、お酒を飲めないお客さんでも、味園の雰囲気を味わうことができます。
そんな中、最新のお店が2016年10月にオープンした「Individual夜香」。こちらは1956年の「味園ビル」創業当時、実際に使用されていたヴィンテージ照明や装飾品などを内装に取り入れています。落ち着いた雰囲気で大人飲みを楽しむのに最適です。昔の味園ビルの華やかさを現代風に取り入れ、新しくもどこか懐かしい雰囲気となっています。
3F〜4Fは、1980年代にビルの改装を行った際にできた「ホテル 味園」。昭和のニッポンが楽しめるホテルとして外国からの観光客に人気が高く、連日満室が続いています。大浴場やサウナも併設していたそうですが、そちらは惜しまれつつも閉館しました。
5Fには現在も賑わいを見せる「宴会天国 味園」。老舗の料亭を思わせる圧巻の出立ちです。バブル時代は、宴会場に毎日3,000人ものお客さんがお見えになっていたのだとか!宴会メニューのすき焼きで、牛1頭と白菜2トンをたったの1日で食べ尽くしたという伝説も。
宴会場の一番広いスペースにはステージがありました。吉崎さんも自身のお店である「新春シャンソン荘」が5周年を迎えたとき、こちらを借りて、落語・漫才・音楽など盛り込んだイベントを開催したのだそうです。
高度経済成長期とともに絶頂にあったころは、銀河のごとく輝いていた味園ビル。しかし、時代に翻弄され、寄りつく人もないような消えた状態だったこともありました。
宇宙に漂う分子雲が熱を帯びて圧縮され、さらに成長したものが星だと言われています。若い人たちが味園ビルに込められた発想や工夫に呼応して熱くなり、個性的な店をはじめるストーリーは、まさに星の誕生そのものです。宇宙が絶えず変化し続けるように、昭和の風情を残しながらも変化を遂げてきた味園ビル。きっとこれからも、世代を越えて私たちを楽しませてくれることでしょう
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Lucky Owl
新春シャンソン荘
マンティコア
Bar パンチェリーナ
Individual夜香
ホテル 味園
宴会天国 味園