依頼内容

あらゆるところにトラが潜んでいるお寺があるみたい。どんなところか調査してきてほしいです。

「トラ」というキーワードをヒントに調べてみたところ、どうやらそのお寺は奈良県生駒郡にある「信貴山 朝護孫子寺(しぎさん ちょうごそんしじ)」というところのようです。「あらゆるところにトラが潜んでいるって、なんだかコワイ……」と震えながら、山道を恐る恐る進んでいきました。

自然豊かな信貴山。木々の間から顔を出すトラが!じゃなくて、テラが!
自然豊かな信貴山。木々の間から顔を出すトラが!じゃなくて、テラが!

今にもトラが出てきそうな山中だったわりには、何事もなくお寺に到着。自称「日本一の信貴山ファン」の僧侶である松井介澄(かいちょう)さんが出迎えてくれました。そこでさっそく、朝護孫子寺の歴史をうかがいました。

日本一の信貴山ファンであるボクが、テラとトラのヒミツを教えましょう
日本一の信貴山ファンであるボクが、テラとトラのヒミツを教えましょう

今から約1,400年前のこと。排仏派の物部氏との戦いをしていた聖徳太子は、この山で戦勝祈願をしました。すると、天空の遥かかなたから毘沙門天王が現れて、「必勝の秘法」を授けたといいます。それが、「寅の年、寅の日、寅の刻」でした(ん?トラ?)。聖徳太子は、毘沙門天が授けてくれた秘法のおかげで戦いに見事勝利し、この山を「信ずべき、貴ぶべき山、信貴山」と名づけ、毘沙門天王を祀る寺を建立しました。その後、聖徳太子による信貴山創建の伝承から「寅の縁日(年、月、日、刻)」に信貴山の毘沙門さんにお参りをするとご利益があると信じられ、今日に至っています。

毘沙門天王は勝負運や金運に強いだけでなく、家族を大事にし、地域や社会に貢献する人の“あらゆる願い”を叶えてくれるといいます。たとえば、境内には一願成就の「空鉢護法堂(くうはつごほうどう)」、無病息災・病気全快の「剱鎧護法堂(けんがいごほうどう)」、学業成就の「虚空蔵堂(こくぞうどう)」、火難水難除けの「三宝堂(さんぽうどう)」など、さまざまな願いを叶えてくれるお堂が点在。介澄さんいわく、「朝護孫子寺は“ご利益の総合デパート”なんです!」。そういうところが庶民に人気となり、時が経つにつれ、お参りに来る方が増えていきました。

介澄さんに境内を案内してもらうことになりました。すると、入口には突如として現れた、巨大なトラ!

お寺のシンボル「世界一福寅」は全長6メートル
お寺のシンボル「世界一福寅」は全長6メートル

全長6メートルの世界一大きいトラの人形です。その名も「世界一福寅」。すごい迫力があるのですが、どこか愛きょうのあるその姿。日曜・祝日の9時から17時のあいだは、ずーっと首が電動でぐるんぐるん動いているそうです。うわ~、すごく見てみたい!

近くにはかわいい子トラたちも
近くにはかわいい子トラたちも
灯篭の下や、時計台にもさりげなくトラがあしらわれています
灯篭の下や、時計台にもさりげなくトラがあしらわれています
「渋さのある表情がカッコイイ」と松井さんいち押しのトラ。今にも檻から逃げ出しそう
「渋さのある表情がカッコイイ」と松井さんいち押しのトラ。今にも檻から逃げ出しそう
お堂の装飾にも発見。芸が細かい
お堂の装飾にも発見。芸が細かい

どうやら本物のトラにおびえる必要はなさそうと胸をなでおろした探偵。おびただしいトラたちは、どうやら聖徳太子の前に毘沙門天王が現れたという「寅の年、寅の日、寅の刻」に由来しているようです。

さて、ここでご本堂に着いたので、マイマイ姉妹とお参りです。

「毘沙門天王」の名前の横には、ムカデの装飾が。ムカデは毘沙門天王のお使いだとか
「毘沙門天王」の名前の横には、ムカデの装飾が。ムカデは毘沙門天王のお使いだとか

ご本堂の地下は暗闇の回廊となっていて、そこを進み、錠前を探しあてると、願い事が叶うとの言い伝えがあります。これを「戒壇めぐり(かいだんめぐり)」といいます。
ここには8体の仏像と、一願成就のご利益がある宝の珠「如意宝珠(にょいほうしゅ)」が収められています。

ご本堂の下にある戒壇めぐり。階段の先が真っ暗で全然見えない……
ご本堂の下にある戒壇めぐり。階段の先が真っ暗で全然見えない……

本堂の地下へと続く階段を下りると、目の前に手をかざしても見えないほど真っ暗。約5分間、静かな暗闇の中を壁に手をあてながら進んで行くと、神経が研ぎ澄まされていくような、自分の内側と向き合っているような、神秘的な気分になりました。

ご本堂を後にして、緑豊かな境内を清々しい心でしばらく歩き回ることにしました。

すると、な、なんじゃ、こりゃあ~!?

長~いトラのトンネル!?
長~いトラのトンネル!?
パクリと開けた大きな口が入口です。今にも食べられてしまいそうでドキドキ
パクリと開けた大きな口が入口です。今にも食べられてしまいそうでドキドキ

こちらは「三寅の胎内くぐり」。父寅と母寅がお尻をつき合わせた形になっていて、背中には小さな子寅が乗っています。中を通り抜けると「三寅の福」が得られるそうです。

朝護孫子寺には、ほかにもあらゆるところにトラが!介澄さんによると「こんなにトラが多くいるお寺は、日本でここだけ」なのだとか。「トラのお寺」の演出にしては、ちょっとやり過ぎ?

阪神タイガース必勝のお守りも。「お寺を上げて応援しています」
阪神タイガース必勝のお守りも。「お寺を上げて応援しています」

いったい、どうしてこんなにたくさんのトラがいるのかと介澄さんに聞いてみたところ、「すべてのトラは、私たちの演出なんかじゃありません。どれもご信者さまから奉納されたものです。古いトラは今から約4~500年前のもの、江戸・明治時代以降にかけてどんどん増えていったと寺では伝わっています」という答えが!理由はどうやら「寅の縁日(年、月、日、刻)」に朝護孫子寺へ参拝するのが流行したからのようです。

信貴山で最古と伝わる「笑寅」。意外にもニヒルな笑い
信貴山で最古と伝わる「笑寅」。意外にもニヒルな笑い

娯楽の少なかった当時、お寺や神社に参拝することは庶民にとって一大イベントでした。「1年間みんなで働いてお金を貯めて、一緒に旅行に行こう」を目標に、グループ単位で参拝する人々が多かったようです(このグループを「講」といいます)。そして、参拝の記念やご利益を授かった御礼にトラを奉納するようになったのでしょう。

金と銀の、狛犬ならぬ“あうんのトラ”
金と銀の、狛犬ならぬ“あうんのトラ”

奉納するトラのデザインは、ご信者さまとお寺の話し合いで決定するため、ご信者さまの趣味や要望が色濃く反映されるそう。そのため、いろいろなタッチのトラが存在しているのです。本物のような迫力のあるトラだけでなく、ユニークでかわいいデザインのトラもたくさんあることによって、なんとも愉快な「テーマパーク感」が出ているみたいです。

愉快といえば、毎年2月に開催し、今年で3年目となる「信貴山 寅まつり」。寅年生まれの「寅娘」に「寅男」や「寅みこし」が練り歩く日本で唯一の「寅行列」が見られる“寺のお祭り”ですが、スタンプラリーや張り子のトラの絵つけ体験、さらには地元の方々によるウクレレやマジックショーなど、もはやフェス?

オリジナルの張り子のトラをつくれるワークショップ
オリジナルの張り子のトラをつくれるワークショップ

寅まつりの会場にはフードブースなども出ていて、「今年は10店舗でしたけど、来年は30店舗にまで増やしたいんですよ」と語る介澄さんは、僧侶というよりもイベントプロデューサーの顔です。

そりゃ盛り上がるでしょうけど、寺のお祭りがフェスに!?いいのかなと心配する探偵に、「実は昔のお寺って、そんな感じだったんですよ」と語る介澄さん。「今は境内に数店舗ですが、当時はいつも参道にはお店がところ狭しと並んでいて、参拝者の楽しみの一つになっていたんですよ。当時のように、お寺はみんながワイワイ集まる場所であってほしいなとの思いから、寅まつりを計画しました。

2月は寅の月。次の寅年は2022年
2月は寅の月。次の寅年は2022年

今後も、絵の作品展やワークショップ、キャンプファイヤーなど、リクエストがあれば可能な限り対応していくと、力強く宣言してくれました。
また、この寺は年中無休24時間オープンとなっていますが、このようなお寺は全国的にもめずらしい。これも、寅の刻(午前3~4時)にお参りされるご信者さまのために、オープンしているのだそうです。

ご本堂からの眺めは最高。お正月にはご来光も見られるそうです。
ご本堂からの眺めは最高。お正月にはご来光も見られるそうです。

なぜそこまでサービス精神が旺盛なの?と聞くと、介澄さんは「長い年月の間、お参りに来られる方々とともにお寺を大事にしてきましたので」と胸を張ります。その結果、由緒あるお寺の荘厳な雰囲気と、親しみのある雰囲気をあわせもつ寺となったのです。

「トラだらけ」のウワサを聞きつけ訪れた朝護孫子寺は、世にも恐ろしい寺ではなく、常に人々に寄り添う懐の深さと、人々を楽しませる遊び心を持ち続ける世にも珍しいお寺でした。
最後にトラたちにも聞いてみました。「朝護孫子寺はみんなに愛される寺だと思いますか?」

おぉっ、みんな首を縦に振っています
おぉっ、みんな首を縦に振っています
調査完了