天王寺動物園には、人気のニワトリがいるらしいです。どんなニワトリなのか調べてきてください。
ゾウやキリン、ライオンといった動物園の花形と比べると、なんだか地味な感じがするニワトリ。人気になっているのは、一体どうしてなんでしょう?気になった探偵は、大阪市天王寺区にある天王寺動物園に向かいました。ここ、天王寺動物園は1915年に開園し、1995年には野生に近い状態で動物を展示する「生態的展示」を日本で初めて成功した、実はスゴイ動物園。そのスゴイ動物園で人気の、ニワトリ?そのギャップに謎が深まります。
お話を聞かせてくれたのは、飼育員歴2年の長谷川さん。実は飼育員さんになるのはとっても狭き門!長谷川さんも6年越し4回目の採用試験でようやく合格できたそう。今は3人の先輩たちと一緒に、ゾウと鳥類を担当されています。
さて、お目当てのニワトリはどこに?
いました、いました!こちらがウワサの雄鶏です。
見たところ普通のニワトリですが、長谷川さんにお話を聞くと、その人気の秘密が分かってきました。なんとこのニワトリ、3回もの命の危機をくぐり抜け、奇跡的に生き延びた「幸運のニワトリ」だったのです!
そもそも最初は、昨年7月、タヌキやアライグマなどがいる夜行性動物舎用の餌として業者から仕入れたヒヨコのうちの一羽でした。本来ならば、そのまま餌として食べられてしまう運命でした。
ところがちょうど同じ時期に、人工ふ化したマガモのヒナたちがいました。この子ガモたちは親が見本を見せないと怖がって餌を食べようとしないので、ものをつつく習性のあるヒヨコにしばらくのあいだ先生役をしてもらうことになりました。その先生役に、餌になるはずだったこのヒヨコが大抜擢されました。
こうして餌からマガモのヒナたちの先生役になったことで、運よく生き延びることができました。これが、まず1つ目の奇跡です。
その約2ヶ月後となる9月ごろ、鳥類の飼育展示施設「鳥の楽園」にイタチが出没する一大事件が起こります。イタチは鳥にとって天敵で、佐渡のトキ保護センターでもイタチ被害には頭を悩ませています。なんとしても捕獲しないことには、楽園が楽園でなくなってしまう!そこで、イタチ捕獲作戦に、少し成長したこのヒヨコがおとりとして選ばれます。今度こそ、絶体絶命のピンチ!
……だったのですが、ネズミ捕りの中でおとりとなっていた3日間、イタチが現れることはありませんでした。イタチはそれ以降も、鳥の楽園に現れなかったため、無事解放されることになりました。これが、2つ目の奇跡です。
ここまでなんとか生き延びてきたヒヨコは、もうすでに若いニワトリへと成長しつつありました。若いニワトリは、餌としてはヒヨコよりも上等な状態です。トラやライオンなど大型肉食獣の具合が悪い日があれば、若いニワトリが生き餌として差し出されるのは動物園ではよくあることだそうです。動物園といえど、弱肉強食の世界。あわや、肉食獣の餌食に!?
……しかし、そのような申し出はまったくありませんでした。これが、3つ目の奇跡です。
こうして3回の危機を乗り越えて生き延びた幸運が認められて(?)、その年の10月、正式に動物園で飼われることに決まりました。餌になる運命だったヒヨコを飼うなんて、101年の歴史を持つ天王寺動物園でも初めてです。
こうして名もなきニワトリは、長谷川さんと飼育員の先輩の河合さんの下の名前から一文字ずつもらって「マサヒロ」と名づけられました。今は「5番目のゾウ担当」として、4人の飼育員さんと一緒に過ごす日々です。
12月からは園内散歩をするようになりました。寝床のある「鳥の楽園」から“控室”のあるゾウ舎へ、そしてゾウ舎から「鳥の楽園」へと戻るあいだ、お客さんとの触れ合いをしています。長谷川さんには「絵本や図鑑の中でしかニワトリを知らない今の子どもたちに、昔のようにニワトリを身近に感じてほしい」という思いがあるそう。
実際に園内散歩に同行してみると、子どもたちだけでなく大人たちもマサヒロくんに興味津々。土日にはだっこ待ちの列ができるほど大人気だそうです。
できれば毎日行いたい園内散歩ですが、実際はマサヒロくんの体調や飼育員さんのお仕事、天気などの兼ね合いでまちまち。時間もはっきりは決まっていないそうです。だから余計に「出合えたらラッキーな幸運のニワトリ」として人気を集めているのでしょうね。
みなさん難なくマサヒロくんをだっこしていますが、実は雄鶏は気性が荒く、そもそも人には懐かないもの。だっこするなんてもってのほかです。それなのにどうしてマサヒロくんはこんなに人慣れしているのかというと、ひとえに長谷川さんのお手柄です。まだヒヨコとニワトリのあいだくらいのころから、よくだっこしていたのだそうです。
そんな親同然の長谷川さんに対し、発情期を境にマサヒロくんの態度が急変。4人の飼育員さんの中で、長谷川さんにだけ攻撃してくるようになったそうです。
部屋の掃除に行っても、羽を広げて威嚇し、すかさず飛び蹴り。受け身を取らずドテッと床に落ちるので、飛び蹴りをするたびにマサヒロくん自身も怪我をしてしまうそうです。それでも血だらけになりながら攻撃してくるのですから、並々ならぬ執念を感じます。どうやらニワトリは自分の優位性を示そうと相手を攻撃する習性があるそうで、飼育員の先輩いわく「長谷川さんをライバルの雄鶏だと思っているのだろう」とのこと。
あるとき、珍しく1週間会えなかったときは、再会した直後から“エンドレス飛び蹴り”がスタート。なんとか途中で止めさせることができたものの、これが雄鶏同士なら相手が倒れるまで攻撃し続けるそうです。ヒェ~!
「飼育員になって初めて悩んだのがマサヒロのことでしたよ。なんでこんなに攻撃してくるのかと……。寄り添ったり、エサをやったりと、いろいろ試してみたけどダメでしたね。今ではもうすっかり犬猿の仲です!」と達観した表情の長谷川さん。トリと人が、犬と猿の仲になるなんて!なかなかおもしろいですが、当の長谷川さんにとっては、それどころではないようです。これも飼育員としての試練でしょうか。
探偵の前でもマサヒロくんは長谷川さんに攻撃をしかけ、長谷川さんが適当にあしらう場面がありましたが、一見すると「犬猿の仲」というよりは「じゃれ合っている親友同士」のように見えるんですけどね。
そんなマサヒロくんには、実は弟分のニワトリがいます。どてどてと歩きお笑い系の風貌(長谷川さん談)のマサヒロくんに対し、スラリと伸びた脚でシュシュシュッと歩くモデル系の彼。名前はヨシトくんです。ヨシトくんも、もしかして何か幸運が?と気になるところですが、ヨシトくんはクールに黙っているだけ。うーん、いいオトコはみんなミステリアス!?
来年はちょうど酉年。年末のイベントをマサヒロくんとヨシトくんで盛り上げてもらえるよう、ヨシトくんはただ今ひそかに特訓中です。
今回の調査で、天王寺動物園で人気のニワトリは、類稀なる幸運の持ち主であることが判明しました。その人気ぶりは、わざわざ東京や京都、和歌山など遠方から見に来る人や、手術の願かけのために朝から夕方まで出待ちをする人もいるほどだそう。
もしも天王寺動物園でどてどてと歩くニワトリの姿を見かけたら、もうすでにあなたはラッキー!きっといいことがありますよ。その姿が見当たらないときは……長谷川さんと元気に格闘している最中なのかもしれませんね。