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3月
デンマークの首都、コペンハーゲンでは98%のエリアで地域暖房が普及している PRORoman Boed(flickr)
寒さの厳しい欧州では、ある地域の複数の建物すべてに、温水や蒸気などの熱を配管で供給する地域熱供給が古くから発達しています。地域熱供給には暖房だけでなく、冷水を供給する地域冷房もありますが、圧倒的に需要が多いのが地域暖房です。熱はごみ焼却所などエネルギープラントでつくられ、熱導管を通じてある一定のエリアの暖房熱を効率的にまかないます(図1参照)。地域暖房は欧州を中心に、アメリカ・カナダの寒冷地域や中国、韓国などでも広がりつつありますが、ここでは欧州各国の事例をご紹介します。
欧州の多くの地域では冬の寒さが厳しく、暖房はエネルギーの用途として圧倒的に大きいため、建物や部屋を個別に暖房するよりも地域全体を集中的に暖房する方が、はるかにエネルギー効率がいいことから地域暖房が発達しました。
そもそも電気を使った個別暖房は、発電所などで何かを燃やして電気をつくり、それを送電し、使う場所でエアコンなどによって個別に熱に変えて使うという複雑なプロセスを経て利用されています。物理学の理論※1では、熱から発電する際の発電効率は4割程度しかないことがわかっています。しかし、発電に使われなかった熱を捨てずに暖房や給湯などに利用すれば、熱を無駄にせずに効率が高まります。さらに、地域暖房の熱源として、ごみ焼却熱や工場排熱、風力発電の余剰電力でつくられた熱などのさまざまな未利用エネルギーも活用すれば、エネルギーを余すことなく有効に使えます。つまり、省エネを考えると地域暖房の仕組みは、とても優秀なシステムなのです。
気候が寒冷な北欧周辺諸国では、これまで自治体や自治体所有の公営企業が主導して、熱供給インフラを整備してきました。これらの地域では冷熱よりも温熱供給の需要が高く、冷熱用の配管を省いて温熱用の配管のみを設置することが多いため、建設コストも安く抑えられます。商業施設のみならず、住宅部門における普及率も高くなっています。
欧州熱電協会の2014年の調査では、欧州における地域熱供給ネットワークは約5,000~6,000ヶ所まで広がっており、普及率は13%前後です。また、欧州におけるエネルギー最終消費の50%以上が熱であり、欧州熱電協会ではEU全体で地域熱供給の普及率35~40%を目指す「欧州ヒート計画」を提案するなど、意欲的な計画を立てています。
※1 熱力学第二法則
図1:地域熱供給の仕組み
地域熱供給は、工場排熱、ごみ焼却熱、バイオマスなどのさまざまな熱エネルギーを、各施設や住宅などに熱導管で供給するネットワーク
欧州の中でも早くから先進的な地域熱暖房の取り組みをしてきたのが、デンマークです。ごみ処理問題の解決策として始まった地域暖房は、すでに100年以上の歴史があります。1979年にデンマークは、省エネルギー・脱石油の重点施策として地域暖房を位置づける「熱供給法」を制定しました。これは、各地方自治体が熱供給の必要なエリアを調査・特定し、適切なエリアに集合的に熱供給を行うというものでした。この法律により、地域の特性を知る地方自治体が発電に応じた最適な熱供給プランを自ら立てられるようになったのです。
1982年には、各地方自治体はすべての住民に対して、天然ガス導管あるいは地域暖房ネットワークのいずれかに接続することを義務化しました。さらに1988年には、住宅において電気による暖房を禁止しました。
1970年代後半まで、デンマークはエネルギー需要の90%以上を輸入原油に頼っていましたが、1997年には地域暖房の導入や風力発電の普及もあって、エネルギー自給率100%を達成しました。現在では、デンマーク全土の熱需要全体の約50%(家庭用需要の63%)を、地域熱供給のシステムでカバーしています。
デンマークの地域暖房の熱源は、麦わらやごみなどのバイオマス、または天然ガスを燃やして発電し、その排熱を使うコージェネレーション(熱電供給)が中心となっています。発電時の排熱を利用するコージェネは、電力と熱を合わせたエネルギーの総合効率が90%台と極めて高く、デンマークではその導入が促進されています。コージェネは大型の集中プラントもありますが、多くが小型です。小規模な発電装置を消費地の近くに分散配置し、電力の供給を行うことを「分散型電源」といいますが、これによって送電設備が小さくてすみ、送電ロスが減ります。分散型電源はエネルギーの自給やエネルギーの効率化と同じぐらい、重要なトレンドとして欧州では認識されています。
図2は、国内の発電設備の変化を示したものです。1980年代中頃まで、国内にはいくつかの大型発電所があるのみでしたが、現在は無数の小型コージェネ(図中青色の●の点)と風力発電(青色の◆の点)による分散型発電に変わっていることがわかります。
図2:デンマーク国内の発電設備の変化(出典:Danish Energy Agency)
デンマークでは、ある地域に熱を供給する場合、熱と電気の両方を供給するコージェネレーションからの熱供給に加え、ごみ焼却場や工場から出る排熱から、最近では太陽熱まで、さまざまな熱が配管を通じて送られます。コージェネレーションでは、麦わらや家畜の排泄物などの農業残渣が燃料として積極的に使われています。地域暖房の燃料についても、化石燃料からバイオマスや太陽熱といった再生可能エネルギーの活用へと移行しつつあります。
このような変化の中、デンマークで始まった第4世代と呼ばれる最新の地域熱供給システムに注目が集まっています。地域熱開発の当初、第1、第2世代は高温の蒸気や100度以上の高温水を利用するものですが、80~90度の熱供給を行う第3世代を経て、第4世代は、60~70度の低温水を利用します。
これは、家庭で必要とされる熱の多くが25度(暖房)から60度(給湯)までの温度であることに着目し、低温水を利用してエネルギーを有効利用しようというものです。最近では電気だけでなく熱の出力も制御できる熱電スマートメーターを活用し、より効率よく地域のエネルギーを活用するシステムも始まっています。これは、風力発電で過剰となった電力でお湯をつくり貯湯槽で熱として蓄えたり、風力発電の増減に合わせてコージェネの出力を上げ下げしたりで、需給の変動を調節するものです。発電と発熱を同時発生させるコージェネレーションならではの方法といえるでしょう。温水タンクを介して電気と熱の変動を吸収し、再生可能エネルギーを電源として利用するスマートシステムにおいては、現在デンマークが世界を牽引しています。
モダンな北欧スタイルの部屋の快適性は、しっかりとした断熱と地域暖房が支えている Cristina Bejarano(flickr)
欧州の他国でも、地域暖房はCO2削減や省エネにおける重要な施策として導入が進められています。
スウェーデンはデンマークと並んで、地域熱普及率が共同住宅で90%以上、熱導管が総延長22,000kmにもなる地域暖房の先進国です。地域熱供給の燃料については、以前は石油を主燃料としていましたが、オイルショック以降バイオ燃料や廃熱利用が増加し、現在の地域熱供給の燃料に占める化石燃料の割合は約7%程度と低く抑えられています。将来的な取り組みとして、植物や野菜をつくる温室や家庭にあるオーブン、洗濯機や乾燥機でも、地域熱供給の熱の利用を考える計画があります。
ドイツも比較的熱供給の導入が進んでおり、地域暖房が国全体の熱需要の約12%を占めます。“熱基金”といった資金調達を目的とした基金が設けられ、熱供給事業者がコージェネを導入したり熱導管を整備したりする際に、事業者に対する給付金の補助を手厚く行っています。
イギリスでは、1950年代から熱供給が始められたものの、当時の設備は問題も多く、国全体の熱需要に対する熱供給の割合は2%以下でした。しかし、世界的なCO2削減の動きの中で、2010年にエネルギー・気候変動省が作成したレポート「熱の将来」によって地域暖房にスポットライトがあたり、熱供給の普及が急速に進んでいます。その原動力は、デンマークと同様に地方自治体です。民間企業と地方自治体が20~40年にわたる契約を締結し、地方自治体は企業に対して契約期間中の供給義務を負わせる代わりに、プラント新設用の土地を無償で貸与。同時に建物の開発者に対して熱供給への接続義務を負わせるといった施策がとられています。地域のことは地域に采配をまかせるのが、欧州流なのです。
このように、欧州では地域暖房が電気や水道と同じ生活のインフラとして位置づけられており、省エネやCO2削減などを目的とした環境施策として国やEU全体が強力に推進し、地方自治体が主体となって整備が進んでいます。今後、デンマークが先行する第4世代の地域熱供給により、電気と熱の融合という地域暖房の新たなステージが展開しそうです。
寒さの厳しいスウェーデンでは、地域暖房は必需インフラのひとつだ Sven Lindner(flickr)
Text by Yayoi Minowa