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世界の省エネ

8月

身の回りのエネルギーを無駄なく活用
河川や下水の冷熱で、地域全体を冷房する

  • アメリカ
  • アラブ首長国連邦
  • フランス

パリでは1990年代からセーヌ川の冷熱を利用した地域冷房が行われている © Hemis / Alamy Stock Photo

パリでは1990年代からセーヌ川の冷熱を利用した地域冷房が行われている © Hemis / Alamy Stock Photo

エネルギーをかしこくシェアして、省エネ冷暖房

「地域熱供給」とは、熱をつくるプラントから導管を通し、ある地域内の多数の建物へ冷水や蒸気を供給して地域全体の冷暖房・給湯を行うシステムのことを言います。日本では、それぞれの部屋で個別にエアコンなどを設置して冷暖房を行うことが一般的ですが、地域全体で冷暖房した方がスケールメリットもあり、CO2削減による温暖化防止などの省エネ効果が高まります。

地域熱供給のメリットは、個別に行うよりも省エネになるだけでなく、河川や海水熱など未利用の自然エネルギーを使うことでさらに省エネとなり、より多くのCO2削減に寄与することにあります。設備を1ヶ所にまとめるので、建築物の景観を損なうことがなく、ビルの屋上も自由に使うことができます。一方で、地中への配管が必要なことから初期投資が大きいことが課題として挙げられますが、地域全体で熱利用することで経済的メリットが生まれるので、初期投資は大きくても最終的にはエネルギー費用を抑えることができます。

街の中にある地域冷房プラントから冷熱網を形成-米国・シカゴ

地球温暖化の進行により、地球規模で冷房需要が高まっています。日本ではあまり知られていませんが、世界では地域を丸ごと冷やす地域冷房の取り組みが、早くから始まっています。

欧米では冬が長く厳しい地域が多いので地域暖房が発達していますが、中には地域冷房だけに限って行うケースもあります。近年、オフィスでのOA機器の増加や快適性の追求を背景に、オフィスビルを中心とした地域冷房の需要が増加しているのが最大の理由です。

地域冷房では、冷熱が利用されます。温度を変化させるものは、冷たくても熱という考え方があり、その力を冷熱エネルギーと呼びます。地域冷房は、この冷熱エネルギーを利用するために熱源プラントで冷水や蒸気をつくり、これを熱媒(熱を伝える仲介物質のこと)として導管によって一つの地域、あるいは都市内にある多数の建物に送り冷房を行うシステムです。河川・海水・下水・地下水など未利用の熱媒を使う場合もあり、冷やす方法も冷凍機から地中熱ヒートポンプまで、その熱源、しくみは地域によってさまざまです。

米国シカゴ市では、1990年代から地域冷房が始まりました。シカゴはミシガン湖が近くにある影響で、冬は気温がマイナス15度になるほど寒さが厳しくなるものの、夏は一転して気温35度に上昇して非常に蒸し暑くなるのが特徴です。また、オフィスビルが多く、およそ100棟のビルにOA機器や精密機械を熱から守るために、冬でも地域冷房の需要があります。

さらに、米国では電力の自由化が早くから導入され、電力会社同士の競争が激しくなり、電力以外のサービスを付加することが重要になったことも背景にあります。電力会社が、夜間の余剰電力を有効に使って電力ピークを平準化し、電力コスト全体を下げるために地域冷房の導入を考えたのです。

シカゴの地域冷房は、夜間の余剰電力を利用して氷をつくり、それを溶かして常時1度の冷水にして冷房に使う「氷蓄熱システム」を導入しています。特徴は、プラントが街の中心にあること。最初につくられた「プラント1」は、2階が機械室、3・4階が氷蓄熱槽のプラントですが、1階にはスーパーマーケットが入っています。外観も、工場というよりは商業ビルとして街に溶け込んでいます。供給先に応じた中規模のプラントが街中にあることで、配管の長さが最小限となり、熱のロスが最小限に抑えられて安定性をもたせています。将来的には、7つのプラントと排熱網を通じ、街中の電力ピーク時の3分の2がこの地域冷房によってまかなわれる予定です。

シカゴの街の中にある地域冷房のプラント

シカゴの街の中にある地域冷房のプラント

拡大する冷房需要を地域熱供給のシステムで-UAE・ドバイ

ドバイは、アラビア半島のペルシア湾の沿岸に位置するアラブ首長国連邦(UAE)の7つの首長国の1つであり、UAE第2の中心都市でもあります。昨今、ドバイは世界一高いビルや、世界最大の人工島の建設など話題にこと欠かない都市ですが、これは政府の国家戦略によるものです。ドバイは、元々石油埋蔵量が少なく、産出量もアブダビの10分の1程度にとどまっています。 そのため、1990年代後半にドバイ首長は“脱石油”を掲げ、観光・リゾート事業に乗り出したほか、ドバイをIT事業や金融事業における中東の中心商都にして、石油に代わる産業を創出しようとさまざまな開発を推進しています。

夏の最高気温が50度にもなるドバイでは、冷房によるエネルギー消費が総電力消費のおよそ70%を占めるほど大きいため、それを抑えるために地域冷房を取り入れることが計画されました。同地では、2030年までに冷房需要の40%を満たすため、水冷却装置をはじめとするさまざまな技術を利用して、世界最大の地域冷房ネットワークが建設されています。

現在、世界で最も高いビルである地上160階・828mの「ブルジュ・ハリファ」でも、周辺の大規模複合施設と合わせて地域冷房プラントがつくられました。

ブルジュ・ハリファの冷房設備は、シカゴと同様の「氷蓄熱システム」によるもので、電力使用が減る夜間に氷を製造して蓄熱槽に蓄え、昼間の冷房ピーク時にその氷を溶かしてつくられる冷水を複合施設の空調と給水に使用するシステムとなっています。

これに使われているのは下水の再生水で、ブルジュ・ハリファの人工湖への補給水や地域冷房設備への冷却水としても利用されています。

さらに、超高層ビルが数多く立ち並ぶ同地域では地域冷房の導入により、従来の冷却設備の数分の一程度の設置面積ですむ点も大きなメリットとされています。

下水の再利用で地域冷房を行うドバイの「ブルジュ・ハリファ」Colin Capelle(flickr)

下水の再利用で地域冷房を行うドバイの「ブルジュ・ハリファ」Colin Capelle(flickr)

地域全体を効率的に冷やす地域冷房の技術に注目が集まる-フランス・パリ

フランスのパリでも、1990年代からセーヌ川の水を活用した地域冷房が行われています。セーヌ川の川沿いにプラントを建設し、河川水を利用して夜間に冷熱をつくり、導管を通じて地域に供給するしくみです。冷熱はオフィスをはじめ、銀行やホテルなど約70ヶ所に提供されています。フランス政府は、「川の冷熱を活用することは、ヒートアイランド対策にも有効だ」と表明しています。

日本では大阪万博を契機とし、1970年に大阪千里中央地区で大阪ガスグループによって導入された地域熱供給のシステムが、日本で最初のケースです。同地区では、都市ガスを利用した吸収式冷凍機やコージェネレーションの導入により、夏場の電力ピークをカットするとともに、コージェネレーションの排熱を有効利用することにより省エネルギーを図っています。その後も、地域熱供給は高層ビルが集中する都市部を中心に導入されています。また、企業によりさまざまな技術が開発されており、地域冷房が重要視される中東やアジアなど、世界各国で活用されています。

世界では地球温暖化が進み、米英の気象専門家によると、2015年の世界の平均気温は過去最高を更新しました。このような温暖化の進行とともに増えると予想される冷房需要に対して、年間を通して気温が高い中東、アフリカやアジアでは地域全体を効率的に冷やす地域冷房はさらなる活用が期待されています。

19~22度のセーヌ川の水温を活用して地域を冷やすNikos Roussos(flickr)

19~22度のセーヌ川の水温を活用して地域を冷やすNikos Roussos(flickr)

Word:Yayoi Minowa