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11月
地中熱ヒートポンプを使い、環境への負荷を最小限に抑えた米国の公共建築(Community Emergency Services Station)U.S. Army Corps of Engineers Savannah District (flickr)
私たちの身近にある自然エネルギーのひとつに、土の中にある熱エネルギーがあります。それは一般的に「地熱」や「地中熱」と呼ばれていますが、それぞれまったく違うものです。「地熱」とは、地球内部のマグマに起因する熱エネルギーのことをいい、マグマから噴出する温水や水蒸気を利用して発電や熱利用を行います。これに対して地中熱とは、地下(約5~200m)の低温の熱エネルギーのことで、地球の持つ熱というより、太陽の熱を貯めた地中の熱をさします。
「地中熱利用」は、新しい技術のように思われますが、実は昔から利用されてきた熱エネルギーです。たとえば、縄文人の竪穴式住居は地中熱をうまく生活空間に取り入れたものと言えますし、野菜やお酒を保存する室(むろ)も、地中熱利用の好例です。このような利用は、地表から深さ10mくらいのところの温度が、年間の平均気温にほぼ等しく、外気温の変化に左右されず安定しているから可能な方法です(グラフ1参照)。熊などの動物が冬眠をしても凍らないのも、この地中熱を利用しているからです。
地表から10m以深の地中熱は、およそ10度から16度に保たれています。これは、30度以上にもなる暑い夏では涼しく感じる温度となり、0度前後になる寒い冬にはありがたい暖かさとなります。この温度差をうまく冷暖房に使って、省エネに大きく貢献できます。自然エネルギーは天候や時間に大きく左右されるとよくいわれますが、地中熱は安定的にいつでも利用できる点が特性の自然エネルギーなのです。
グラフ1 年平均気温10度の地域の地中温度
地中熱の利用方法としては、地中熱を直接利用する「熱伝導」方式や、空気や水、熱媒体を地中に循環させる「空気循環」「水循環」などのさまざまな方式がありますが、世界で最も普及しているのは、「地中熱ヒートポンプ」と呼ばれる方式です。
ヒートポンプとは、「熱(Heat)を汲み上げる(Pump)」ことから名づけられている通り、一定温度に保たれている地中の熱を室内に取り入れることで、冬は室温を上げ、夏は下げるシステムです。一般的に家庭のエアコンや冷蔵庫は、この技術を用いて空気との間で熱交換していますが、地中熱ヒートポンプは、これを地中で熱交換します。熱を移動させる動力は、温度差が拡がれば拡がるほど大きくなるので、地中熱を使うことで外気温に比べて室内との温度差が小さくなり、必要な動力が小さくてすむことで省エネにつながります。
欧米では、1980年代から地中熱ヒートポンプシステムが普及しはじめました。2000年代に入ってからは、利用が急拡大しています。特に米国は世界のトップを走っており、地中熱ヒートポンプの導入数は100万台を超えています。1993年に米国環境保護庁(EPA)が、「土壌に熱源をもつヒートポンプシステムは、年間エネルギー効率が最も高く、かつ環境負荷が最も低いシステムである」というレポートを発表したことで、普及が進みました。
一般的な地中熱ヒートポンプシステムは、地上部のヒートポンプユニットと地下の熱交換器で構成されます。熱交換器は垂直埋設型(A)と水平埋設型(B)に大別されます。そのほかにも、地下水が豊富な場所ではその水を直接熱源として循環させて使うタイプ(C)や、近くに湖沼があれば、コイルを水没させて熱交換を行うタイプ(D)もあります(図1参照)。
米国では、垂直埋設型(A)と水平埋設型(B)で8割を占めます。垂直タイプは水平タイプに比べて高価ですが、比較的小さな面積ですみ、効率も高いというメリットがあります。これに対して水平タイプは、広い面積を必要とする反面、掘削が少なく工事費が比較的安くすみます。地中熱ヒートポンプシステムを導入する場合で効率がいいのは、冷房暖房両方の需要があり、季節の温度変化の大きいエリアにおける導入です。こういったエリアでは、一般的なエアコン利用だと電力コストが高く、ピーク期の負担が大きくなるので、地中熱を利用するメリットが大きくなります。
米国での水平埋設型の地中熱採熱のしくみ geo thermal heating from pool - Google otsing
図1 出典:(財)ヒートポンプ・蓄熱センター論文
ドイツでは、2009年に施行された「再生可能エネルギー熱法」により、新築で地中熱利用のシステムを導入する場合、給湯および冷暖房のために必要な熱需要の5割以上を、地中熱でまかなうことが義務付けられています。欧州では、地中熱も太陽熱利用の形態のひとつであり、再生可能エネルギーとして認められているのです。
このような法律があるので、ドイツでは地中熱を利用したゼロエネルギー住宅が拡大しています。これは「パッシブハウス」と呼ばれていて、窓には3重窓ガラスを採用し、屋根と床と外壁には分厚い断熱材をはって、優れた断熱性能を実現します。24時間換気が基本ですが、各部屋に供給する外気は地下を通して地中熱を利用する「空気循環」方式が多く使われています。これは、室内に取り入れる空気を地中に埋設したパイプに通して暖め(あるいは冷やして)、室内に取り入れるものです。このシステムによって、夏の暑い空気は地下を通して冷やされ、冬の冷たい空気は地中熱によって温められます。
これに加え、パッシブハウスでは屋内で発生した人体や家電製品の放出する熱も無駄にせず、熱交換器に通します。このしくみによって、地中熱で温められた空気をさらに加温して室内に入れるため、熱の損失が少なく省エネとなります。もちろん、空気循環ではなく、地中熱ヒートポンプを使う場合もあります。
ドイツでは、こういったパッシブハウスは一戸建て住宅だけでなく、公団住宅や学校、老人ホーム、消防署などの公共建築にも採用されて、快適な住環境を提供しています。年間の平米あたりのエネルギー消費は、ドイツの古い家屋では平均して300kWh程度ですが、パッシブハウスでは15kWh程度にまで抑えられます。しっかりとした断熱と地中熱利用により、ほぼゼロエネルギー住宅を実現していると言えるでしょう。
ドイツ中央部に位置する、ホルツミンデンにある地中熱利用のパッシブハウス(出典:西方設計)
欧州ではドイツだけでなく、地中熱利用のシステム導入が盛んな国が増え(グラフ2参照)、スイスやスウェーデンでは、地中熱利用の住宅がわずか10数年で新築住宅の約6割になるほどです。
中でもスウェーデンは、ヒートポンプの販売台数が1995年以降から急激に増加しています。特に既存住宅でのセントラル暖房システムに、熱源である灯油ボイラーに替えて、地中熱ヒートポンプに交換するケースが増えています。多くの場合、地下水と熱交換器による地中熱の採熱が行われ、給湯にもこの熱を使います。灯油の価格が政府の政策によって高く設定されているため、給湯と暖房に地中熱ヒートポンプを使って大きな経済効果、省エネ効果が生まれます。これにより、灯油から地中熱利用への切り替えが進んでいます。
日本でも導入規模は小さいですが、地中熱ヒートポンプでの冷暖房が注目され、拡大しています。日本地熱学会の調査では、地中熱をエアコンのシステムに組み入れて利用すると、従来の空冷式エアコンと比較して、電力費が冬場で30%以上、夏場だと65%以上カットできると報告しています*1。
世界中で、都市部における夏場のエアコン利用によって出る排熱は、ヒートアイランド現象の原因のひとつとなっていて、地球温暖化問題の課題ともなっています。一方、地中熱ヒートポンプは熱を地中に逃がすので、大気への排熱という熱公害を発生させないメリットがあります。このことからヒートポンプを使った地中熱利用には、都市部のヒートアイランド現象の抑制効果があるとされています。地中熱利用は太陽エネルギーの活用方法のひとつとして、その省エネ性、環境への負荷抑制などの効果により、今後普及が進むことが期待されています。
*1 平成23年日本地熱学会地中熱利用技術専門部会
グラフ2 出典:環境省 水・大気環境局
Text by Yayoi Minowa