天然記念物のニワトリが
境内を自由に歩く!?
奈良県の石上神宮を調査
2024/06/03

先日、天理市の石上神宮(いそのかみじんぐう)に参拝したところ、たくさんのニワトリが境内を自由に歩きまわっていてとても驚きました。なぜ石上神宮にはニワトリがいっぱいいるのでしょうか?探偵さん、調査をお願いします!
日本最古の神社のひとつ「石上神宮」へ
ニワトリが境内を自由に歩いている神社があるなんてはじめて聞きました!
調べてみると石上神宮は、『古事記』と『日本書紀』にも記載がある日本最古の神社のひとつとのこと。そのような神社になぜたくさんのニワトリがいるのでしょうか?また、自由に歩きまわるニワトリたちは逃げたりしないのでしょうか?さっそく奈良県天理市の石上神宮へと向かいます!
JR万葉まほろば線・近鉄天理線の天理駅から車で10分ほど。布留山(ふるやま)のふもとにある石上神宮に到着しました。


木々がしげる参道を歩いていくと、大鳥居が見えてきました。その高さはなんと7メートル!とても神々しく、眺めているだけで清らかな気持ちになってきます。
一礼をして、鳥居をくぐろうとした瞬間!「コケコッコー」と元気な鳴き声がこだましました。まるで私たちを歓迎してくれているかのようなその鳴き声に、ワクワクしてきます!
約50羽のニワトリに会える神宮 どんなニワトリたちに会えるんだろう!と期待に胸を膨らませて参道を進む探偵たちに、「ようこそ石上神宮へ」とおだやかに声をかけてくれたのが、神職の藤野さんです。

「当神宮のニワトリについて調べに来てくださったそうですね。少し歩くだけでも、ニワトリが見られますよ。ほら、あそこに」。
藤野さんが示すほうに目をやると……、茶色や黒色のニワトリたちが!依頼者さんのいうとおり、境内の中を自由に歩いています。
さらに進むと、池のほとりで3羽の白いニワトリがひなたぼっこをしていたり、石灯籠のそばで赤と黒のコントラストがきれいな2羽のニワトリが羽づくろいしていたりと、見わたす限りニワトリでいっぱいです。奥の休憩所のあたりでは数羽が集まってエサをつついています。

本当にたくさんのニワトリがいるんですね!全部で何羽ぐらいいるのでしょうか?
「自然と卵が生まれたり、ご奉納いただいたりして、今はだいたい50羽のニワトリを飼育していますよ」。

50羽もいるなんて驚きです。話を続けていると、探偵たちの足もとにニワトリさんが歩いてきました!写真を撮ったり撫でたりしてもいいのでしょうか?
「はい、特に決まりはありませんので自由にふれあっていただけますよ。実際にご覧いただくとわかりますが、人が近づいても逃げないですし、エサをねだることもないので、とても鑑賞しやすいですよ。ただニワトリが驚くようなこと、たとえば追いかけまわしたり、抱きかかえたりはしないであげてくださいね」。

確かに探偵たちが近寄っても、どのニワトリも自然体です!人とニワトリのいい距離感ができているんですね。
昭和40年代後半ごろから飼育がスタート
石上神宮でニワトリを飼いはじめたのはいつごろからでしょうか?
「正確な時期を示す資料は残っていませんが、昭和40年代後半から昭和50年ごろに飼いはじめたと聞いています」。
半世紀近くの歴史があるんですね。なぜニワトリを飼いはじめたのでしょうか?
「戦後から昭和40年代にかけて参拝者が少なくなった時期があったそうなんです。そこで、石上神宮にもっと親しみを感じてもらい、より多くの方に参拝していただきたいという思いからニワトリを飼いはじめたといわれています。なぜニワトリだったのかという理由については、残念ながらはっきりとはわかりません。ただ、ニワトリは『古事記』や『日本書紀』で神様のお使いとされており、神宮とかかわりの深い鳥であったことが理由のひとつかもしれません。余談ですが、『鳥居』の語源も『ニワトリのとまり木』→『鳥のいる木』→『鳥居』だとする説もあるんですよ」。

神宮とニワトリは、遠い昔からの深いつながりがあったんですね。
「加えて、飼いはじめた当時はニワトリの飼育が今よりもポピュラーでしたし、ほかの動物よりも手がかからないので、飼いやすかったという事情もあったかもしれないですね」。
ニワトリは、ほかの動物よりも飼育しやすいのですか?
「はい。私たちがおこなうのは基本的に朝にエサをあげることと、夕方に鶏舎に戻すことくらいです。しかもほとんどのニワトリは日が暮れると自分から鶏舎に戻っていくんですよ。夜間はイタチやテンなどに襲われるリスクが高まるので、本能的に安全な場所を好むんだと思います」。
ニワトリは賢いんですね。ちなみにどのようなエサをあげているんですか?
「お米や野菜などです。近所の方や農家の方が余ったお米や農作物を『ニワトリさんにあげてください』といって分けてくださるので、本当に助かっています。当神宮のニワトリたちは地域の方々に支えていただいているんですよ」。
安心して放し飼いできるニワトリたち
放し飼いはいつからはじまったのでしょうか?
「当初から、日中はニワトリが自由に歩きまわれるようにしていたそうですよ。ニワトリは習性上、自分の家だと思っている境内の外には出ないんです。また、当神宮には国宝や重要文化財に指定された建物が多くありますが、それらにも登ったりはしません。だから安心して放し飼いできるんです」。
なるほど。柵などがなくてもニワトリたちが境内から出ていかないから、放し飼いができるんですね。
たくさんの種類のニワトリがいますが、はじめからですか?
「いえ、最初はチャボという小型の品種だけだったそうです。種類が増えた理由は、『ニワトリが境内にいる神宮』として有名になったことで、さまざまな種類のニワトリをご奉納いただくようになったからなんです」。

「今ではチャボ以外にも天然記念物の東天紅(とうてんこう)や烏骨鶏(うこっけい)をはじめ、ミノルカなどの種類がいます。自然に交配することでハイブリッドなニワトリも多いんですよ」。

ということは、タイミングがよければヒナを見られるんですね!
「そうですね。ただ、当神宮のニワトリは毎日卵を産む種類ではありません。長年の飼育記録から、産卵は主に春と秋のようです」。
桜や紅葉が美しく映える境内を、ぴよぴよ歩くヒナたち……、想像するだけで、心が癒やされます!
ニワトリがモチーフのかわいい絵馬やおみくじが人気
石上神宮のニワトリについてたくさん教えてくださったあと、藤野さんは、国宝に指定されている拝殿を案内してくれました。その脇にニワトリが描かれた絵馬がたくさん奉納されています。ニワトリの絵馬ははじめて見ました!
「当神宮オリジナルの御神鶏絵馬(ごしんけいえま)です。馬の絵が描かれた絵馬もありますが、ニワトリの絵馬は非常に人気ですね」。
ニワトリの絵馬はどんな方に人気なのでしょうか?
「特に合格祈願する受験生や仕事運を上げたい方などが多く奉納されています。実は絵馬のモチーフになっている尾長鶏などは、夜、木の上にとまって眠る習性があります。眠りながらでも決して落ちないところから、『試験に落ちない』『業績・人気が落ちない』といったご利益があるとされているんですよ。加えて、『災いをトリ除き、幸福をトリ込む』といった縁起のいい意味も込められています」。

ニワトリには、そんなご利益があるといわれているんですね!
授与所に並んでいるニワトリのかわいい置物はなんでしょうか?
「これは御神鶏(ごしんけい)みくじというおみくじなんです。お尻のヒモを引くとおみくじが出てくるんですよ。御神鶏絵馬・御神鶏みくじはご参拝の記念としてもとても喜んでいただいています」。
置物として持ち帰ることができるおみくじなんですね。とてもキュートですし、部屋に置くと運気が上がる気がします!

ニワトリが結ぶ人と神宮との縁
調査中も、老若男女さまざまな方が歩きまわるニワトリたちに笑顔を浮かべ、撮影をしたり、エサをあげたりしていました。
「ニワトリを目当てに参拝してくださる方も多く、近年は海外の方も少なくありません。ニワトリをきっかけに石上神宮とのご縁ができることは本当に素敵だと感じています。だからこそ人とニワトリがいい距離感で接することのできるこの環境をこれからも守っていきたいと思います」と藤野さんは力強く語ります。

探偵たちもかわいいニワトリたちから元気をもらいました!皆さんも、たくさんのニワトリが境内を自由に歩く石上神宮を訪れてみてはいかがでしょうか?きっと楽しくて朗らかな気持ちになれますよ。

