置くだけで福を呼び込む?
信楽でたぬきの置物を徹底調査
2024/03/04

友人宅の玄関にかわいいたぬきの置物が飾られていました。友人いわく「縁起物としてプレゼントされた」とのこと。確かに、たぬきは縁起がいいというイメージがありますが、なぜ縁起がいいのかについてはよく知りません。探偵さん、たぬきの置物がなぜ縁起がいいといわれているのか調査してください!
たぬきの置物を調べに滋賀県の信楽を訪問
たぬきの置物は縁起がいいとされ、飲食店の店先などにもよく置かれていますね。でも、「どうして縁起がいいのか」と聞かれると、探偵も答えられません……。ぜひ調査してみましょう!
たぬきの置物だと信楽(しがらき)焼が有名ですよね。ということで、まずは信楽焼の産地である滋賀県信楽について調べてみました。すると、たぬきの置物が1万体以上もある「たぬき村」という施設があるとのこと。今回の調査にぴったりの予感がします。さっそく現地へ向かいました。

信楽高原鐵道の信楽線雲井駅から徒歩約10分。陶芸品の販売所や陶芸教室、お食事処などがある観光施設「信楽陶苑たぬき村」にやって来ました。

信楽のたぬきの置物に秘められた八相縁起
たぬき村に到着してまず目に飛び込んできたのは、入口にある巨大なたぬきの置物!圧倒される探偵たちに、「ようこそ、たぬき村へ」と笑顔で声をかけてくれたのが、信楽陶苑たぬき村の3代目社長で陶芸作家の大熊さんです。
「信楽のたぬきのことなら、なんでも聞いてくださいね」。

では、お言葉に甘えてさっそくおうかがいします。たぬきの置物はなぜ縁起がいいとされているのですか?
「たぬきの置物は『他抜き』という語呂合わせから、お店の入口に置いておくと、他店よりも抜きん出て商売繁盛につながるとされているんです。なかでも笠をかぶり徳利や通い帳を持つたぬきの置物は、八相縁起(はっそうえんぎ)という8種類の意味が込められていますよ。
8種類ですか!?そんなにいろいろな意味があるなんて知らなかったです!詳しく教えてください。
「八相縁起は、天台宗の高名な僧侶であり、たぬき文化の研究もされていた石田豪澄(いしだ ごうちょう)さんが伝承をベースに考案したとされています。たとえば、大きなお腹は冷静さと決断力を合わせ持つ、笠は思いがけない災難から身を守る、徳利は人徳を身につけて飲食に困らない、などの意味があるんですよ」。
なるほど、たぬきの置物は見た目から持ち物にいたるまで縁起がいいのですね!「たぬきの置物は縁起がいい」とされる理由がよくわかりました。


信楽のたぬきの置物は、踊るたぬきからはじまった!?
信楽でたぬきの置物がつくられはじめたのは、いつごろからでしょうか?
「110~120年くらい前からだそうです。京都清水焼の窯元で修行していた藤原銕造(ふじわら てつぞう)氏が竹林で踊っているたぬきを見て、つくったのがはじまりといわれています」。
踊るたぬきですか!?まるでおとぎ話みたいですね。
「おもしろいエピソードですよね。藤原氏は自身が見たたぬきを『焼き物でなんとか再現したい』と強く思われたそうです。それもあってか当時の作品は、現在の丸みがあってかわいくデフォルメされた作風とは違っていたんです。具体的には、耳が顔の上部にあったり、鼻が前に飛び出していたりと非常にリアルな顔立ちだったんですよ」。
そういって大熊さんは、当時の作風に似せてつくったたぬきの置物を見せてくれました。確かに、野生のたぬきの強い生命力を感じさせる表情です。現在の愛らしい雰囲気とはまた違った魅力がありますね。

「当時のたぬきの置物は、中の空洞にろうそくを入れておき、夜には穴が開いた目からあかりがとれるようにもなっていたんです」。
夜には目が光って見えるということなんですね。想像してみましたが、とてもインパクトがありそうです。そういったリアル重視の作風から、どのように現在のかわいいたぬきの作風に変わっていったんですか?
「たぬきの置物をたくさんつくり続けるなかで、藤原氏をはじめ当時の職人の方々が『信楽のたぬきの置物をより多くの人に愛されるものにしたい』と考えるようになったそうです。そして徐々にかわいらしい見た目へと改良していき、老若男女に愛される愛嬌たっぷりの信楽たぬきが完成したといわれています」。
信楽がたぬきの置物で有名になった理由とは?
大熊さんいわく、たぬきの置物自体は江戸時代から全国でつくられていたとのこと。ではどうして「たぬきの置物といえば信楽」といわれるほど有名になったのでしょうか?
「昭和26年に昭和天皇が信楽に行幸された際、日の丸の旗を持った大量のたぬきの置物を地元の人々が沿道に設置したんです。たぬきがたくさん並んだ光景に昭和天皇が感動されて『おさなとき あつめしからになつかしも しがらきやきのたぬきをみれば』という歌を詠まれました。その逸話が報道され、全国的に信楽のたぬきの置物が知られるようになったんです。報道された時期は正確にはわかっておらず、一説には昭和40年代ともいわれています」。

なるほど、「沿道に並べられた大量のたぬきの置物」というインパクトの強い光景が報道されたことで、「信楽=たぬきの置物」というイメージが定着していったんですね。
ちなみに、昭和天皇が感動されて詠まれた歌はどのような意味なんですか?
「『信楽のたぬきの置物が並ぶ光景を見ると、たぬきの置物をコレクションしていた幼いころの記憶が懐かしく思い出される』という意味だそうです。昭和天皇は、幼いころにたぬきの置物を集められていたそうなんですよ」。
たぬき以外に縁起物として人気の動物の置物とは?
「実は信楽には、たぬき以外にも、縁起物として人気の動物の置物があるんですよ」と、大熊さんはかえるとふくろうの置物も紹介してくれました。
かえるは、「無事にかえる」や「お金がかえる」という語呂合わせで縁起がいいとされていますよね。
「そうですね。それに加えて、信楽のかえるの置物は『福かえる』と呼ばれ、たくさんの縁起のいい意味が込められています。たとえば、口は災いをぱくりと飲み込む、おへそがないお腹で落雷から守る、そろった前足は礼儀ある行動がとれる、などです」。

信楽のかえるの置物に、そんなにたくさんの意味があるとは知りませんでした。
ふくろうは「不苦労」という語呂合わせで縁起がいいと聞いたことがあります。
「語呂合わせですと『福来郎』ともいわれています。日本では昔から「幸せを運ぶ」と伝えられていますよね。世界的にもふくろうは幸福や知恵の象徴とされていますよ。夜目がきくため『ものを見通せる力が得られる』とも考えられているそうです」。

かえるやふくろうは縁起物だとは知っていましたが、思った以上にいろいろな意味が込められているんだとわかりました!


大きなたぬきの置物をつくるのに適した信楽の土
たぬき村にあるたぬきやかえるの置物を実際に手にとってみると、独特の質感に気づきます。なんだか、すごく癒やされる感じがしますね。
「信楽焼は素朴だし温かみがありますよね。粘土自体がザラザラとした粗い感じなのが信楽焼の特徴で、魅力のひとつです。また、信楽の土は強いんですよ。角張った砂粒が骨材として働いて変形を防ぐため、飲食店の入口に飾られているような、大きなサイズのたぬきの置物をつくるのにも適しているんです」。

なるほど、信楽の土が強いからこそ、たぬき村の入口にあるような巨大なたぬきの置物もつくれるんですね。
「そのとおりです。岡本太郎さんの『太陽の塔』背面の『黒い太陽』も信楽焼の黒色陶器なんですよ。また、ほかの産地の焼き物にも信楽の土がブレンドされていることはよくあります。信楽の土を加えることで強度が増しますからね」と大熊さんは説明します。
たぬき村では、そんな信楽の土を実際に使って陶芸体験ができるそうです。
「お客さまオリジナルの信楽焼の器をつくれますよ。たぬきの置物を手づくりすることも可能です!実際に老若男女多くのお客さまが、たぬき村で陶芸を体験してくださっていますね。近年では外国人の観光客も増えており、たぬきの置物を購入されたり、陶芸体験をされたりしていますよ」。
探偵たちもたぬきの置物づくりをしてみたいです!
「ぜひ、挑戦してください。また、カフェやバーベキュー施設、ドッグランなど体験型施設を増やしています。信楽で楽しい時間を過ごしていただいて、さらにたくさんの方々に信楽焼の魅力を知っていただきたいんです!」と大熊さんは目を輝かせます。

今回調査をして、たぬきやかえる、ふくろうの置物には、縁起のいい意味がたくさん込められていることがわかりました。
信楽が生み出すご利益いっぱいの動物の置物に触れて、探偵たちもなんだか運気が上がった気がします!
2024年の運気を上げたい方は、信楽を訪れてお好みの動物の置物を探してみてはいかがでしょうか?

