チョコレートと醤油がコラボ?
和歌山県湯浅町で生まれた
新しい調味料とは
2024/02/05

先日友人から、「最近はまっているお醤油があって。おいしいからぜひ使ってみて!」と『カカオ醤(ジャン)』をいただきました。はじめて手にしたので使い方がよくわからず……。探偵さん、おすすめの食べ方をぜひ調べてください!
カカオ醤の正体を探りに和歌山へ!いったいどんな味?
カカオといえば、チョコレートの原材料ですよね。スイーツみたいに甘いのでしょうか?調べてみると、カカオ醤は和歌山県湯浅町にある「湯浅醤油有限会社」で製造されているとのこと。古くから醤油をつくっている会社のようです。さっそく、現地へ向かいます!
JR紀勢本線湯浅駅から車で走ること約5分、ど~んと大きな醤油瓶が見えてきました。風格のある瓦屋根が印象的な「湯浅醤油」に到着です。さっそく中に入ってみると、カレー醤油や黒豆醤油など、あまり見かけたことのない醤油や、漬物、味噌、お菓子などがズラリと並んでいます。どうやらここで、湯浅醤油の商品が購入できるようです。


まずはカカオ醤を探してみよう、と店内を見まわしていると、「いらっしゃいませ。この先にある蔵カフェもぜひご利用ください。当店人気の湯浅醤油ソフトクリームをご用意していますよ」と声をかけられました。醤油ソフトクリーム!?と振り向くと、そこには笑顔の男性が。代表取締役の新古敏朗さんです。


人気のソフトクリームもとっても気になるのですが……。今日はこちらでカカオ醤という調味料をつくっていると聞き、おいしい食べ方を知りたくて、調査に来ました!
「それはそれは、カカオ醤のためによく来てくださいました。でしたらまずは、カカオ醤をぜひ味わってみてください」と、試食用の瓶を持ってきてくれました。「カカオ醤は、粒タイプとペーストタイプの2種類あるのですが、こちらはカカオの粒を感じられる粒タイプです」。

フタをあけて顔を近づけてみると、チョコレートの甘さと醤油の香ばしさがからみあった、豊かな香りが漂ってきます。いったいどんな味が……?とドキドキしながらスプーンですくい口に運ぶと、チョコレートのように甘く……ない!ビターで濃厚な風味と醤油のコクが、口いっぱいに広がります。カカオの粒のザクザクとした食感がアクセントになって、今までに食べたことのない新しい味です。

これは、おいしい……。と味を確かめるように何度も口に運んでいると、「どうですか?想像していたお味でしたか?」と新古さん。名前から醤油を甘くしたような味なのかなと思っていたのですが、香ばしいお味噌のようで、とってもおいしいです!「気に入っていただけてよかったです。開発に時間をかけた渾身の自信作なんですよ」と満面の笑みを浮かべました。
カカオ醤のアイデアを生んだ、醤油への熱い想い
売店から事務所へ移動し、カカオ醤について詳しく教えていただきます。
「ここ湯浅町は、『醤油発祥の地』のひとつとして知られており、文化庁による日本遺産にも指定されています。その歴史は鎌倉時代にまでさかのぼり、宋にわたった禅僧が『金山寺味噌』の製法をこの地に持ち帰ったのがはじまりでした」。
醤油の歴史は、味噌からはじまったのですね。「そうなんです。『金山寺味噌』を製造する過程で、染み出てくる液体がおいしいということに気づき、調味料として改良したのが今の湯浅醤油の起源といわれています。湯浅は水質がよかったこともあり、盛んに醸造されるようになっていきました」。
「以来、湯浅醤油は最高においしいものをつくるために、原材料の選定や職人の技術、醤油への愛情など、こだわりを丁寧に積み上げてきました。そして今、伝統を大切にしながらも新しい醤油の可能性を広げて、『世界一の醤油』をつくりたいと日々チャレンジをしています」。
なるほど、そんな想いで誕生した商品のひとつが、カカオ醤なのですね!

アイデアのきっかけになった「醤油とチョコレートの共通点」とは?
醤油とチョコレートを合わせようと思ったのはなぜですか?「醤油は『大豆』などを発酵させたもの、チョコレートは『カカオ豆』を発酵させたもの。どちらも発酵食品なんです。それなら、『大豆』の代わりに『カカオ豆』を使って醤油をつくってみたらおもしろいんじゃないかと思いました」。
なるほど、それぞれの製造工程に共通点があったのですね。「カカオと醤油の両方の風味を感じることができれば、今までにない奇跡の調味料がつくれてしまうのでは。その味を追い求めてみよう、と思ったんです」。

「調べてみるとカカオ豆は、生産国で発酵してから日本に届けられていることがわかり、発酵施設を見ることができるベトナムのカカオツアーに参加しました」。さっそくベトナムにまで行かれたのですね。行動力がすごいです!
「そのときはまだ商品化までは考えてはいなくて。思いついたことを実験してみたい、そんな好奇心のほうが強かったですね。ツアー中にカカオ豆を分けてもらって、持参していた醤油づくりに使う麹菌との融合を試してみましたが、そんな簡単にいくはずはなく……。このときは失敗に終わりました。実験を続けるためにカカオ豆を特別に分けてもらい、日本に持ち帰りました」。

実験を繰り返して理想の味に。カカオ醤がついに完成! 「帰国後、醤油づくりの実験を進めたのですが、大豆をカカオ豆に替えただけでは、思っていたような醤油はつくれませんでした。カカオ豆を茹でたり、原材料の配合を変えたり、数々の実験に挑戦し続けましたが、チョコレートの風味を出すことができず、『味の薄い醤油』になってしまうんです」。

「薄い醤油のあとは酸っぱい醤油が生まれるなど、なかなか思いどおりの味が生まれなくて。チョコレート感が出ないと悩むなか、3年目にはつくり方を見直し、製造過程にもっとカカオを加えてみたのですが、それでもまだまだ違うなと」。
3年間ずっと実験を続けられたのですね。「そうなんです。そして何度も実験を繰り返していくうちにようやくわかってきたことがあって。チョコレートのあの独特の甘い香りは、焙煎をしないと出ないんだなと。だったら焙煎したカカオ豆を使ってみようと試してみたところ、これがとてもいい感じに仕上がり、ついに方向性が見え実験がスピードアップしていきました」。
「そしてついに、チョコレートと醤油がきれいに重なった試作品ができあがり、関係者からもおいしい!という声をもらうことができました。あとはブラッシュアップするだけというところまでたどり着いたんです」。3年目にしてついに商品化につながるのですね。「そう、やっと商品化だ!と思うでしょ?でもここでは商品化しなかったんです(笑)」。
「いろいろな醤油との相性を試しながら見つけた組み合わせだったのですが、カカオとの相性を試していない醤油がひとつ残っていたんです。それが、湯浅醤油のはじまりとなった『金山寺味噌』のたまりからつくった醤油。そもそもチョコレートと合うとは思ってはなかったのですが、最後の最後に試しておこうと思ったんです」。

おいしいものができているのに、それでも念のためと試作品をつくられたのですね。「はい。そうしたら、えらいこっちゃ、こっちのほうがチョコも醤油もしっかり共存して、さらにおいしいやないかって。成分表示をラベルにいれたら商品になるところまできていたのですが、これはもうリセットしてやりなおすしかないなと。それで4年目にしてやっと商品化することができました」。
4年もの間、本当においしいものを求めて突き詰められてきた様子が伝わってきます。しかも、湯浅醤油の原点につながっているなんて、探偵は運命を感じてしまいました。「今思えば、よくつくれたなと。ビジネスというよりも、遊び心からはじまったからこそ、ここまでできたんだと思います」。

カカオ醤のおいしい食べ方は?どこで買える?
こうして発売されたカカオ醤は、新しい組み合わせがおいしい、とすぐさま評判となり、初回生産の3,000個はわずか2週間で完売。2023年にはカカオ醤の開発をもって、新古さんと湯浅醤油の工場長が、「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞を受賞されたそうです。
「湯浅に伝わる昔ながらの醤油づくりと、おいしさを生み出す遊び心や好奇心を大切にしながら、これからも新しい商品をどんどんつくっていきたいですね。いずれは、世界中の人に湯浅醤油の商品を味わっていただきたいです」と新古さん。その目は少年のようにイキイキと輝いていました。
カカオ醤のおすすめの食べ方はありますか?「カカオ醤は一般的な醤油と同じ感覚で召し上がっていただける調味料で、幅広い食材にマッチしますよ。豆腐や刺身、卵かけごはんなどに添えてもいいですし、肉を漬け込んで焼いたり、カレーの隠し味に使ったりすると、深みのある味わいを楽しめます。カカオが入っていることで、醤油よりもコクのある風味になります。お客さまからは『バゲットに塗るとおいしい』『納豆やチーズとの相性抜群』というお声をいただいたこともあります」。いろいろな食べ方がありますね!ふだんの料理に気軽に取り入れられそうです。

「実験するような気持ちでいろいろな食材に合わせてみてください。ちなみに、僕はバニラアイスに乗せて食べるのが好きです」。自分だけのお気に入りの食べ方を探すのも楽しそうです。甘いものが苦手な方へのバレンタインの贈り物にも喜ばれるかもしれませんね。
カカオ醤は直営の売店のほか、WEBショップでも販売しています。皆さんも、カカオ醤をいつもの食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか。

