汗に強い真珠!?
大阪・和泉の名産「いずみパール」
2023/05/08

娘が、真珠のネックレスをつけたままスポーツをしていたので、「真珠に汗がついたら傷むわよ」と伝えると、「これはいずみパールだから大丈夫」といわれました。「いずみパール」という名前をはじめて聞いたのですが、汗に強い真珠があるのでしょうか!?探偵さん、調査をお願いします!
「いずみパール」、探偵たちもはじめて耳にしました。真珠についてあまり詳しくはないのですが、冠婚葬祭などのフォーマルな場でつけるアクセサリーで、天然のものだとお手入れも大変、というイメージがあります。「汗に強い」とはいったいどんな真珠なのでしょうか!?さっそく調査に取りかかります。
いずみパールについて調べてみると、真珠づくりが盛んな和泉市でつくられているパールとのこと。和泉市で真珠がつくられているとは知りませんでした。今回は、70年以上の歴史を持つ「堰口(せきぐち)真珠工業株式会社」を訪れてみたいと思います!

JR阪和線信太山駅から徒歩10分、住宅街の中にある堰口真珠工業に到着しました。
出迎えてくれたのは、堰口真珠工業株式会社取締役の小島さんです。「いらっしゃいませ。いずみパールのことならなんでも聞いてくださいね!じっくりご覧いただけるように、いずみパールでできたネックレスをご用意しておきましたよ」。


「どうぞ、ご自由に手に取ってみてください」と小島さん。なんと、手袋もなしで触ってもいいとのことで、並んでいるネックレスの中から、一番大粒のネックレスを手に取ってみました。しっかりとした重みがあり、粒の大きさも均一で、ツヤツヤ光っています。
真珠というと、素手でべたべた触ってはいけないと思っていました。気軽に触ってしまいましたが、大丈夫でしたか?と心配になり質問をすると、「お気遣いありがとうございます。ご安心ください、いずみパールは素手で触っていただいてもまったく問題がないんです」とのこと。「本真珠と見分けがつきにくいかもしれませんが、こう見えて人工真珠なんですよ」と教えてくれました。
人工真珠?このきれいなネックレスが?と驚く探偵たちに、「和泉市の職人がつくった人工真珠。それが『いずみパール』です」と、小島さん。なるほど……とうなずいてみたものの、人工真珠が何かいまいちよくわかっていない探偵たちに、続けて説明をしてくれました。
「真珠といえば、天然や養殖の真珠が知られていますよね。『核』と呼ばれる芯に、貝から分泌される真珠層が何層にも重なり合ってできるもので、本真珠に分類されます。対して人工真珠は、芯の部分に『原玉(げんだま)』と呼ばれるものを使い、真珠層に似た輝きを持つ塗料を塗り重ねていったものです」。
人工真珠は、貝から生まれるのではなく、人の手によってつくられるのですね。「そうなんです。何層もコーティングしていくところは同じなのですが、すべて人工なんですよ。原玉は、ガラスや貝、プラスチックなどを用いるのですが、何を使うかで重さなども調節することができますよ」。

人工真珠は人の手でつくられるということですが、なぜ和泉市でつくられるようになったのでしょうか。「原玉のひとつにガラスが使われていること。これが、和泉市で人工真珠づくりが発展した理由です」と小島さん。「和泉市は昔から、泉州玉というガラス玉づくりが盛んで、その技術が人工真珠づくりとマッチしたんです」。
小島さんはさらに、人工真珠の歴史について教えてくれました。「人工真珠の研究が始まったのは、明治末期。フランスでつくられた人工真珠が日本に輸入されたことがきっかけでした。この美しい真珠を日本でも製造できるようにと、長い研究を経て原玉に真珠のような光沢を持つ『パールエッセンス』を塗装する方法が確立されたんです」。
和泉市でつくられていたガラス玉が人工真珠づくりに使われるようになり、いずみパールが誕生したのですね。「はい。最盛期には100社以上もの人工真珠の事業者が和泉市に集中していたんですよ」。

「それでは、私たちの自慢の技術を見ていただきましょうか。工場の中へご案内しますね。今ちょうど、原玉にパールエッセンスを塗り重ねる作業中なんです」。おお、人工真珠ができ上がっていく工程が見られるんですね!さっき手に取ったネックレスが、どうやってつくられているのか大変興味深いです。
「こちらをご覧ください」と、小島さんが見せてくれたのが、いろんなサイズの丸い粒。「これらが原玉と呼ばれるもので、使うのはガラスや貝、プラスチックです。専用の木枠に並べるように取りつけて、パールエッセンスを流し込んだトレイに浸していきます」。塗料に浸すのは機械ではなく手作業とのことで、工程を教えていただきました。
「塗料をつけたら引き上げて乾かし、乾いたらまた塗装をする。この乾燥と塗装を何度も繰り返し重ねていきます」。本真珠のような深みのある光沢感を出せるかは、このときの技術によるところが大きく、職人による手作業が欠かせないとのことです。
「気温や湿度によって仕上がりの風合いも異なってくるので、一粒一粒の真珠の顔を見ながら、毎回引き上げるタイミングや乾燥させる時間を調節しているんですよ。判断を間違えるとムラになってしまうなど、仕上がりに影響が出てしまいます」。手作業によるこだわりが、いずみパールの品質を支えているとのことで、この技術は世界中でも大変高い評価を受けているそうです。

「いずみパールの特長は、美しさだけではありませんよ。本真珠は酸に弱いため、汗や皮脂などの弱酸性に触れると変質してしまったり、輝きが鈍くなったりします。しかしいずみパールは、塗料でコーティングしているため比較的耐久性に優れており、汗や皮脂に強いだけでなく、傷もつきにくいという特長があります」。
だから手で触っても大丈夫だったのですね。しかも、汗にも強いのなら、依頼者の娘さんのように、運動中に身につけることができるのも納得です。「シーンを選ばずお使いいただけるのも、いずみパールの特長のひとつです。保管やお手入れにそれほど気を遣う必要がないので、日常使いをしたい方には大変おすすめです」。

また、原玉の形を変えることで、丸い形状だけでなく、しずく型や卵型など、いろんな形をつくることもできるとのこと。色も顔料の組み合わせ次第で、なんと100種類以上のカラーバリエーションがあるそうです。
小島さんは、和泉市の地場産業を絶やさないために、いずみパールがめざすこれからについて語ってくれました。「本真珠に近い人工真珠をつくるための技術を磨き続けることはもちろんですが、人工真珠ならではの特長をいかし、いずみパールはさまざまなデザインにチャレンジしています。人工真珠にしかできない自由な色や形、また手軽に日常で使っていただける耐久性。これらの可能性をファッションに取り入れて、真珠をもっと身近に感じていただきたいです」。

汗や皮脂などを気にせず身につけられるいずみパール。職人たちの想いがつまったこだわりの人工真珠を、普段使いのアクセサリーのひとつに加えてみてはいかがでしょうか。

