和傘が室内で活躍!?
最近の和傘事情を調査
2022/07/04

「家の中で使う和傘がある」と聞きましたが、本当ですか?どんな使い方をするのでしょうか?探偵さん、調査をお願いします。
雨の日の外出に欠かせないものといえば傘。ところが外だけでなく、家の中で使う和傘があるとか。どういうときに使うのでしょうか?家の中で頭に浮かぶことといったら、雨漏りとか……?思いをあれこれめぐらせながら、探偵たちは京都の老舗和傘屋「日𠮷屋(ひよしや)」へ向かいました。

格子戸をあけて中へ入ると、棚には茜色や橙色、藤色、漆黒など、趣のある和傘がズラリと並んでいます。「ようこそおいでくださいました」と声をかけてくれたのは、日𠮷屋マネージャーの中村さんです。「和傘には、四季折々の自然を表現した日本の伝統色を使用しています。よろしければ手に取って広げてみてください」。茜色の傘をさしてみると、傘から天井のあかりが透け、さし込む光がとてもきれいです。


「今開いていただいている傘は、『蛇の目(じゃのめ)傘』という名前で、軽さと、内側に施されている糸飾りが特徴です。その名の通り『蛇の目』に似ていることから名づけられました。また、男性に好まれるのは「番傘」で、持ち手が太く、骨組みがしっかりとしています」と中村さん。


職人さんのこだわりが伝わってきますね。いつごろからつくられるようになったのでしょうか?中村さんに和傘の歴史を教えてもらいました。4世紀ごろ中国から日本へ伝わった和傘は、最初は雨具ではなく、日除けや魔除けとして使用されていました。また今のように開閉する機能はなく、従者が主人にさしかけていたそうです。
雨除けとして使われるようになったのは、鎌倉時代に入ってから。貴族や武士、僧侶など地位のある人が使うもので、庶民には手が届かなかったそうです。
その後、改良が進み、安土桃山時代には開閉できる、現在の和傘の形になりました。江戸時代になると、製造工程が確立されたことにより、庶民にも広く普及。昭和に入ってからも終戦前まで日常的に使われていました。しかし、戦後になると洋傘が普及し、和傘は急速に衰退していきます。昭和初期には京都に200軒以上あった和傘の製造元も、現在は日𠮷屋だけになってしまったそうです。

和傘の長い歴史を途絶えさせてしまうのはもったいないですね……。職人さんも減っているのでしょうか?「うちには若手の職人も多く在籍しています。今ちょうど2階の工房で職人たちが傘をつくっているので、ぜひご覧になってください」。
出迎えてくれたのは和傘職人の竹澤さん。「和傘はできあがるまで、竹割り、骨組み、和紙張り、油塗り、姿つけという5工程に大別できます」と教えてくれました。中でも「油塗り」は耐水効果を持たせるための重要な工程。日𠮷屋ではアマニ油を和紙全体に塗布したあと、夏場は2週間前後、冬場は1ヶ月ぐらいかけて天日干しを行うそうです。
アマニ油は、空気中の酸素に触れることでしっかりと固まり、耐水の役目を果たします。一度塗るだけで、何年間も雨をはじく効果が持続するそう。「和傘を開いたとき、香ばしい香りがしませんか?これがアマニ油の香りなんです」ともう一人の和傘職人・小野寺さんが教えてくれました。和傘を広げてみると、確かにいい香りがします。この油が雨をはじいてくれるんですね!

「先ほど和傘が衰退しているといいましたが、歴史はここで終わりではございません!和傘が形を変えて私たちの生活に溶け込む姿をぜひ見てください」と意気込む中村さん。探偵たちを再び1階に連れて行ってくれました。
「生活に溶け込む」という言葉を聞いて、はっとわれに返る探偵たち。和傘の美しさに見とれて忘れるところでしたが、今日は「家の中で使う和傘」を探しに来たのでした。その答えがついにわかるかも!?店内をキョロキョロしていると、「さあ、あちらをご覧ください」と中村さん。
さし示された天井に目をやると、そこには青緑色のランプシェードが吊り下げられていました。「この照明のカバーも、実は和傘でできているんです」。その言葉を聞いた瞬間、お店で最初に和傘をさしたときの透けたあかりがきれいだったことを思い出しました。和紙を通すことで、光がほどよく透け、お部屋全体が心地よい明るさになっています。
和傘と同じ素材を使用してつくったランプシェードは、折りたたむこともできます。「家の中で使う和傘」というのは、なるほど、ランプシェードだったんですね。


中村さんがランプシェード誕生のきっかけを教えてくれました。約20年前、日𠮷屋の5代目となった今の店主は、存続が危ぶまれる和傘を後世に残すために、新たな使用法を模索していました。
そんなある日、和傘を干していたら、和傘越しに見る太陽の光がやさしく美しいことに気づきます。「そうだ!和紙ならではのこの特徴を生かせば、通常の照明器具では出せない美しい光をつくることができるのではないか」と考えました。
5~6年の歳月をかけて試作を重ねたのち、和傘と同じ素材を使った照明が完成。和傘と同じように職人が一つひとつ手づくりする照明は、海外で開催されたインテリアの見本市で高く評価されました。現在は国内の高級ホテルや旅館、レストランに加え、海外からの注文が相次いでいるそうです。「新しい使い方を見つけることで、京都から世界へ和傘の魅力を発信することができました」と中村さん。

中村さんは、最後に和傘の魅力について語ってくれました。「竹と和紙と糸という素材のみを使って、芸術的な美しさが表現できること。また、その美しさを飾っておくだけでなく、実用的なところでしょうか。時を経てなじんでいき、唯一無二の風合いになるところも魅力ですね」。
部屋の中でも活躍する和傘の正体は、なんと雨用ではなく、日𠮷屋5代目が生み出した「和傘と同じ素材を使ったランプシェード」でした。今後、和傘がどのような広がりを見せてくれるのか楽しみです。皆さんも、雨の日のお出かけや、お部屋のインテリアとして和傘を取り入れてみてはいかがでしょうか。

