「山伏女将」の宿!?
奈良・吉野の魅力に出会える
ゲストハウスを調査
2021/12/06

「山伏の女将がいる宿」が吉野にあると聞きました。どんな宿なのでしょうか?探偵さん、調査をお願いします。
皆さんは「山伏(やまぶし)」をご存じですか?山伏は、神聖とされる山にこもり厳しい修行を続けている人たちのことです。白い装束を着て、法螺貝(ほらがい)を吹いている姿をなにかで見たことがある人もいるのでは?調べたところ、山伏の女将がいるのは奈良・吉野にあるゲストハウスのことだとわかりました。いったいどんな宿なのでしょうか?気になる探偵たちはさっそく調査に向かいます。

訪れたのは、桜の名所であり、四季を通じて多くの観光客が訪れる奈良の吉野。古くから神さまが宿る神聖な場所とされてきました。中でも、世界文化遺産にも登録されている金峯山寺(きんぷせんじ)本堂は、全国の山伏が集う場所として知られています。

吉野大峯(おおみね)ケーブル「吉野山」駅から坂道を登っていくと「ゲストハウスKAM INN(カムイン)」に到着。中に入ると受付があり、1階はキッチンやリビングルーム、2階がゲストルームになっているそう。リビングルームの本棚をよく見ると、山伏に関する本がびっしりと並んでいました。

キョロキョロと見ていると、「いらっしゃいませ」とにこやかな表情で話しかけてくれたのは、作務衣(さむえ)姿の女性・片山さんです。ここが山伏の女将がいる宿なのでしょうか?と尋ねると、「はい、私が山伏としても活動しているKAM INNの女将です!」と答えてくれました。白装束も着てないし、一見普通の女性にしか見えませんが本当に山伏なんでしょうか?探偵たちは片山さんの「山伏・女将生活」をちょっぴり覗かせてもらうことにしました。

片山さんは現在半分山伏、半分女将として生活しています。片山さんによると「山伏は、普段は仕事をしながら修行を続けるという、『半僧半俗(はんそうはんぞく)』のスタイルがほとんどなんですよ」とのこと。山伏というとずっと山にこもって修行をしているイメージでしたが、違うんですね!
片山さんの毎朝の起床は5時40分。6時半からはじまる朝座勤行(あさざごんぎょう)のためKAM INNから徒歩10分の金峯山寺本堂へ向かいます。朝座勤行とは修行の一つで、法螺貝や太鼓の音が鳴り響く中で約40分間読経するというもの。その後宿に戻り、出発するゲストの見送りや部屋の掃除など宿の仕事をして、夕方からは新たな宿泊客を出迎えるのが一日のルーティンです。

片山さんが山伏であることはわかりましたが、そもそもなぜ山伏になろうと思ったのか、そしてなぜゲストハウスの女将になったのかを聞いてみることにしました。
岡山県生まれの片山さんは「人のためになる仕事がしたい」と東京で理系の大学に入学。「ところがいざ大学に入ってみるとまわりはできる人ばかり。やればやるほど研究職に向いていないことを実感しました」。一度頭をゆっくり休めようとひとり旅に出たことが、片山さんの人生を大きく変えることになります。片山さんは当時をこうふり返りました。「たまたま泊まった東北の民宿で、まるで田舎にある親戚の家に来たような安らぎ、なつかしさを感じて、心も体もすごく楽になったんです」。それ以降、民宿での体験を忘れることができず、自分も人に安らぎを与えられる場所を作りたいと決心します。
その後、ゲストハウスをはじめるために大学院で経営を学び、資金をためるため奈良県の化学系メーカーに就職することに。ゲストハウスに適した物件を探すため奈良のあちこちをめぐるうちに、奈良には古くから続く独自の文化や習慣が地域ごとにあり、それらが現在まで受け継がれていることを知ります。奈良の奥深さに気づいた片山さんは、自分の宿はただ泊まる場所ではなく、奈良の魅力を発信できる場所にしたいと考えるようになりました。その後、吉野で旅館を営むオーナーが、ゲストハウスの女将を探していると知人から教えてもらったことがきっかけとなり、吉野でゲストハウスKAM INNをはじめることとなったそうです。

ゲストハウスをはじめたものの、「吉野の魅力を伝えていくにはあまりにも知らないことが多い」と感じた片山さんは、まず吉野の文化を知るために実際に体験しようと考えました。そして、近くにある金峯山寺が山伏修行の中心的なお寺だと知り、朝座勤行に足を運ぶことに。勤行とは、朝と夜に仏前でお経を唱える山伏の基本的な修行の一つ。「はじめて勤行に参加したとき、お経を唱えるだけじゃなくて、法螺貝(ほらがい)、木魚(もくぎょ)、太鼓などが加わり、40分をかけて盛り上がっていく様子が、まるでライブみたいでカッコイイ!と思いました」と片山さんは笑います。そして毎朝通ううちに、勤行を通じて自分の心がリセットされて、すっきりとした気分になることを実感。いつの間にか他の山伏修行にも興味を持って足を運んでいたそうです。そうするうちにお世話になった山伏から弟子入りを認められ金峯山寺で得度(僧になること)をして、山伏と女将を両立するようになりました。

山伏の女将が営むKAM INNならではの魅力は、女将と一緒に金峯山寺で勤行ができること。加えて滝行や山歩きといった山伏体験を盛り込んだ2泊3日のプログラムも定期的に開催しており、大変好評だそうです。他にも山伏や吉野の文化について、地域のイベントや観光客の方に向けて講演をおこなっています。現在、KAM INNには、吉野の文化や歴史に興味のある方、勤行を体験したい方、吉野で気持ちをリセットしたい方などが多く訪れています。お客さんからは「山伏に興味があったので体験できてよかった」、「吉野にきたらモヤモヤした気持ちが解消されました」などの感想が寄せられるとか。

最後に、片山さんはゲストハウスの今後について、にこやかにこう話してくれました。「ゲストハウスに泊まってくれたお客さんが、古くからの文化が今も息づく吉野に魅了されて『また来ます』と言ってくれるのがうれしいです。これからも山伏修行を続け、吉野の素晴らしさを自らの言葉で語っていきたいですね。そして、宿泊客の皆さんにほっと安らぐことができる場所を提供し続けていきたいと思っています」。
取材に来る前は、「山伏の女将がいる宿」とはどんな宿だろうと疑問ばかりでしたが、心安らぐ素敵なゲストハウスだとわかりました。そこでは、実際に山伏として修行する片山さんから話を聞いたり、山伏の体験プログラムに参加したりすることができます。探偵たちも、ゆったりとした時間が流れる吉野で心が休まりました。皆さんも吉野を訪れて、古くからの文化が現在まで受け継がれる吉野ならではの魅力を感じてくださいね!

