炎の探偵社

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次世代につなげたい!
和歌山・天神崎の自然を守る
47年間の活動を調査

2021/09/06
依頼内容

和歌山県の天神崎の自然は、ナショナル・トラスト運動で守られていると聞きました。どんな活動なのでしょうか?探偵さん、調査をお願いします。

ナショナル・トラスト運動という言葉をはじめて聞いた探偵たち。調べてみると、ナショナル・トラスト運動とは、人々からの募金で自然や歴史的建造物を買い取り、保全する運動のことだとわかりました。産業革命が進む19世紀のイギリスで美しい自然や歴史的建造物が急速に失われていく中で、ボランティア団体(ナショナル・トラスト)によってはじまり、世界中へ広がったそうです。日本でのナショナル・トラスト運動の先駆けは、和歌山県・田辺市の「天神崎」とのこと。どのような活動がおこなわれてきたのか気になった探偵たちは、さっそく天神崎を訪れることにしました。

天神崎に到着!きれいな景色が広がります(提供:田辺観光協会)
天神崎に到着!きれいな景色が広がります(提供:田辺観光協会)

JR紀伊田辺駅から車で10分ほどの「天神崎」は、田辺湾の北側に突き出た岬です。探偵たちが訪れた時間はちょうど潮が引いて、目の前に平らな岩礁や潮だまりがず~っと先まで続いていました。水面が鏡のように周囲の景色や青空を映して、とってもキレイ!

干潮で無風のときは、こんな景色が見られるのだとか(提供:田辺観光協会)
干潮で無風のときは、こんな景色が見られるのだとか(提供:田辺観光協会)

このような美しい自然が見られるのも、ナショナル・トラスト運動のおかげなのでしょうか?詳しい話を聞くため、47年にもわたって天神崎の自然を守る活動を続けている「公益財団法人天神崎の自然を大切にする会」を訪れることにしました。

出迎えてくれたのは、高校で生物の教師として勤務する傍ら、「天神崎の自然を大切にする会」の理事として活動してきた玉井さん。和歌山県生まれの玉井さんにとって、天神崎は幼いころから釣りをしたり、磯や森でいろんな生物を捕まえたりして過ごした身近な遊び場だったそうです。

「天神崎の自然を大切にする会」の理事・玉井さん
「天神崎の自然を大切にする会」の理事・玉井さん

さっそく探偵たちは、玉井さんに会の活動がどのようにしてはじまったのか、お聞きしてみました。「1974年、天神崎に別荘地開発の計画が持ち上がり、別の高校で教員をしていた故・外山八郎先生から相談を受けたことが発端なんですよ」。幼いころから親しんできた天神崎の自然がなくなることに危機感を覚えた玉井さんは、外山さんと「天神崎の自然を大切にする会」を同年に設立したそうです。

47年もの歴史を持つ「天神崎の自然を大切にする会」の会議の様子
47年もの歴史を持つ「天神崎の自然を大切にする会」の会議の様子

玉井さんと外山さんは、保全を訴える広報活動や署名活動を開始します。「どんな課題にも、外山先生は穏やかに粘り強く取り組んでいました。そんな外山先生の話に耳を貸し、活動に賛同する人々が増えていきましたね」と玉井さんは当時をふり返ります。発足からわずか2年後の1976年には、集まった寄付金ではじめて土地を購入、1985年には別荘予定地をすべて買い取ることができました。その後も、天神崎の自然を保全するために土地の購入を続け、現在は「天神崎の自然を大切にする会」と田辺市で、天神崎の土地約49%を所有しています。

「天神崎の自然を大切にする会」の歴史を話す玉井さん
「天神崎の自然を大切にする会」の歴史を話す玉井さん

現在、同会は土地の買い上げを進める一方で、自然を守り、次世代へつないでいくさまざまな活動を実施しています。例えば、森に緑を増やす「植樹活動」や、海岸や海底のごみを集める「清掃活動」、小・中・高の学生たちに天神崎の生態系を紹介する「自然観察教室」、自然をテーマにした「子どもふるさと絵画展」など。「本場イギリスでも、ナショナル・トラスト運動で守られた土地は、入っちゃダメ・触っちゃダメと規制するのではなく、『楽しむ場』『学びの場』として活用されているんですよ」と玉井さんは話します。

写真左:市民たちがボランティアとして協力しておこなう年4回の清掃活動、写真右:海底の掃除は地元のダイバーがおこないます。粗大ゴミはクレーンで持ち上げることもあるのだとか
写真左:市民たちがボランティアとして協力しておこなう年4回の清掃活動、写真右:海底の掃除は地元のダイバーがおこないます。粗大ゴミはクレーンで持ち上げることもあるのだとか
磯の生物を観察する「自然観察教室」の様子
磯の生物を観察する「自然観察教室」の様子

玉井さんが講師として担当する自然観察教室では、海の生物が天神崎の自然を支えていることを子どもたちに教えています。例えば、ナマコは海底の泥を浄化し海をきれいにしていることを伝えながら、子どもたちにナマコと直に触れてもらいます。子どもたちの無邪気な反応をいつも楽しみにしているそうです。そして、玉井さんは「あるエピソード」を笑顔で話してくれました。「自然観察教室に参加した小学生たちが、『天神崎のナマコを守ってください!』とバザーの売り上げを会の活動に寄付してくれたんです。子どもたちに自然を大切にしてほしいという思いが伝わった!と、この上なくうれしかったですね」。

自然観察教室の様子を話す玉井さん
自然観察教室の様子を話す玉井さん

このような活動を続けて守ってきた天神崎は、水面に青空や夕景が反射して神秘的な風景を楽しめる絶景スポットとして話題を集めているそうです。「私たちが大切にしてきた天神崎が、多くの方に知っていただけることに喜びを感じますね」と玉井さん。

こんな写真が撮影できるかも!?(提供:田辺観光協会)
こんな写真が撮影できるかも!?(提供:田辺観光協会)

玉井さんは、47年間に渡っておこなってきた会の活動をふり返り、こう話します。「正直、苦しくてしんどいことばかりでした。土地の交渉が難航し、何度も『何のために活動を続けるのか』と自問自答しましたね。続けてこられたのは、『未来の子どもたちのために自然を残したい』という思いがあったから。天神崎の自然に触れた子どもたちの、輝くような笑顔を見ることができて、これまでの活動が価値のあるものだったと実感しています」。

玉井さんや「天神崎の自然を大切にする会」の皆さんを中心に、市民の皆さんの参加もあって美しい自然が守られている天神崎。次に訪れる際は、清掃活動や自然観察教室にも参加して、もっと天神崎の自然に触れてみたいと思いました。皆さんもぜひ天神崎を訪れて、玉井さんたちが守ってきた美しい自然を堪能してくださいね!

今度は夕景も見てみたいな~
今度は夕景も見てみたいな~
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