伝統の着火技術で未来を灯す!
播磨のマッチ会社の新たな取り組みとは
2020/08/17

最近マッチを全然使わなくなりましたが、マッチを作っていた会社は現在どうなっているのか気になります。探偵さん、調査をお願いします。
皆さんが最後にマッチを使ったのは、いつでしょうか。ケーキのろうそくや花火の火種など、以前はマッチで火をつけていたようなものも、今は着火ライターで済ませることが多くなった気がします。探偵たちがマッチを製造している会社について調べてみたところ、現在国内で生産されているマッチの約9割が兵庫県で作られているとわかりました。マッチ業界の現状を探るため探偵たちが向かったのは、姫路市の西に位置する揖保郡(いぼぐん)に本社を構える神戸マッチ株式会社です。

お話を聞かせてくれたのは、3代目社長の嵯峨山さんと営業部課長の内田さん。まずは、内田さんにマッチ業界の歴史について伺うことにしました。海外から日本にマッチの製造技術が伝わったのは、明治初期。東京を中心にはじまったマッチ製造業は徐々に全国へと広がり、1890年ごろからは、海外にも輸出されるようになりました。1960年代には、企業やお店のノベルティとして広告マッチの需要が高まり、マッチ業界は急成長!生産量は増え続け、1973年にピークを迎えます。しかし、その後は使い捨てライターなどの普及によって、需要が徐々に減少していったそうです。

このようにマッチ業界が衰退していく中、神戸マッチも例外ではありませんでした。1999年に外資系メーカーを辞めて家業を継ぐために戻ってきた嵯峨山さんに、2代目社長であるお父さんは「この業界は今後10年で廃れていく。戻ってくるなら腹をくくれ」と告げたそうです。その言葉どおり、2010年頃にはマッチの市場規模は最盛期の約50分の1まで縮小。同社はマッチ製造の他に、印刷業などへの事業展開を図ってきました。嵯峨山さんは「このままでは時代の変化とともに、当社もマッチ製造から撤退することになり、伝統の着火技術が失われてしまう」と危機感を強く感じたそうです。
そこで、まずは日々の生活の中で使用する機会が少なくなったマッチを、身近に感じてもらうプロジェクト『マッチデザインファクトリー』を2009年に立ち上げました。デザイン会社とタッグを組み、レトロなマッチ箱のデザインを活かしたTシャツやトートバッグ、昔懐かしいラベルを再現したデザインマッチなどを制作しました。そのデザイン性の高さから、今までマッチを手に取ったことがなかった若者など新たな顧客層にも注目されたそうです。嵯峨山さんは当時の様子を振り返り、「この取り組みによって、お客さまとの接点を増やすことができ、デザインという付加価値の大切さを再確認することができました」と話します。

また、その一方で自分たちの強みである着火技術を他に活用できないかと考えた嵯峨山さん。「箱側面の赤(セキ)リンとマッチ先端の頭薬をすり合わせて火をつけるという技術を応用して、マッチのように擦って着火できるお香があったら面白いな」と、ふと思い付きます。馴染みの卸売業者さんにそのアイデアを話してみると、トントン拍子で淡路島にある老舗のお香の製造会社さんを紹介してもらうことができました。実は淡路島は、国内の生産量約7割を占めるお香・お線香の一大産地。マッチと同じく、お香やお線香も需要が減ってきていたので、新たな市場を模索していたそうです。新しく何かを生み出したいという同じ思いを持った兵庫県のふたつの伝統産業の担い手たちが意気投合し、マッチとお香のコラボレーション商品の共同開発をスタートさせることになりました。

両社が取り組んだのは、お香の先端にマッチの着火用の頭薬をつけた、着火具のいらないお香の開発。手軽に使えるよう、マッチ箱サイズの大きさにもこだわりました。「商品を開発する中で一番苦労したのは、マッチのように擦っても折れないお香をつくることでした」と振り返る嵯峨山さん。はじめてでき上がったサンプルは、強度を保つために割り箸くらいの太さになってしまいました。マッチ棒ぐらいの細さで強度をもたせるよう試行錯誤した結果、お香部分に和紙や炭を練り込む方法にたどりつきました。さらに「マッチデザインファクトリー」の仲間たちにも加わってもらい、ロゴや箱のデザインにも思いを込めました。
こうして約3年の月日をかけて完成したのが、マッチ感覚でシュッと火をつけて香りを楽しめる新しいスタイルのお香。日々の生活の中で10分間、気分やシーンにあわせて香りを手軽に楽しんでほしいという思いから、「hibi 10 MINUTES AROMA(ヒビ テンミニッツアロマ)」と名付けられました。

「hibi」は、2015年の発売以来少しずつ販路を拡大し、現在はセレクトショップや書店など国内400店舗(2020年7月現在)で販売される人気商品に成長。さらに、海外の展示会などにも出展し、国外でも多くの人々から高く評価されています。お客さんからは「どこでも持ち歩けるのが手軽で良い」「hibiでマッチを初めて擦りました」「この商品を機に、お香を始めました」などの声が寄せられているそうです。

最後に、嵯峨山さんはこう話してくれました。「この『hibi 10 MINUTES AROMA』は、廃れゆくマッチ業界に新しい道を示してくれました。マッチの着火技術は、まだまだたくさんの可能性を秘めていると私は思います。今後も、さらに他業種とのコラボレーションを考えていきたいですね。そして、こんな取り組みを通じて、次の世代の若い人たちがマッチの世界に希望をもって飛び込んできてくれたらいいなと思います」。時代の流れによって苦境に立たされながらも、新しい取り組みにチャレンジしてきた神戸マッチ。脈々と受け継がれてきた伝統の着火技術は、今後、私たちの暮らしにどんな火を灯してくれるのでしょうか?今回の取材を通じて、これからのマッチの進化がとっても楽しみになってきた探偵たちでした。

さて、神戸マッチさんの取材を終えて、マッチについてもっと知りたくなってきた探偵たち。さらに詳しく知りたい!と思っていろいろ調べてみると、神戸市に約3万点ものマッチ箱を収集しているという「たるみ燐寸(マッチ)博物館」があることが判明しました。次回はそちらの調査に行ってみたいと思います。お楽しみに!
