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炎の探偵社

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思わずよだれが出ちゃう!
大阪が生んだ食品サンプルの進化に迫る

2020/01/06
依頼内容

飲食店での入り口で見かけた食品サンプルが、本物とそっくりでびっくりしました!あんなにリアルな食品サンプルは、どうやって作られているのでしょうか?

飲食店の入り口に並んでいる、とても目を引く食品サンプル。最近は本物と見分けがつかないほどリアルなものをよく見かけます。そんな食品サンプルは、いったいどのようにして作られているのでしょうか。探偵たちは、「食品サンプルのパイオニア」といわれている株式会社いわさきのことを聞きつけ、大阪市東住吉区にある現場を訪ねました。

株式会社いわさき本社に到着
株式会社いわさき本社に到着

お部屋に案内していただいた瞬間、目に飛び込んできたのは、机の上にこぼれたコーヒーとお味噌汁!探偵たちはびっくりしましたが、これは食品サンプルドッキリ。あまりにリアルでまんまとだまされてしまいました!

リアルすぎてびっくり
リアルすぎてびっくり

ドッキリの仕掛人は、製作本部の北出さんと広報担当の向尾さん。早速お2人に、食品サンプルについてのお話を色々お伺いすることにしました。

向尾さん(左)と北出さん(右)。大きなおにぎりは、もちろん食品サンプル
向尾さん(左)と北出さん(右)。大きなおにぎりは、もちろん食品サンプル

食品サンプルが使われるようになったのは、大正時代から昭和初期。とはいえ種類はまだ少なく、専門に扱う会社もありませんでした。そこに目をつけたのが、のちに株式会社いわさきの創業者となる岩崎瀧三さん。当時のまだ完成度が低い食品サンプルを見て、もっと精巧に作ることができれば、今後必ず需要が増えると感じて事業化を決意したそうです。瀧三さんは、独学で試行錯誤を重ねながら研究し、1932年に食品サンプルを専門に製造する岩崎製作所を設立。その後も、日々改善を続け、より精巧に作る方法を模索し続けました。龍三さんが考えた食品サンプルの作り方は、寒天で作った型にロウを流し込み冷やし固めるというもの。この方法で作られたより本物に近いサンプルは飲食店で徐々に評価されはじめ、店頭のディスプレイとして採用してくれるお店も順調に増えていきました。

株式会社いわさきの創業者、岩崎龍三氏
株式会社いわさきの創業者、岩崎龍三氏

北出さんが入社した頃も変わらず同じ作り方をしていましたが、ロウで作った食品サンプルには簡単に壊れやすく、熱に弱いという欠点がありました。そのため、裏から綿や針金で補強するなどの工夫をしていたそうですが、熱に弱いという一番の問題は改善できず、日差しで高温になったショーケースの中で溶けてしまうことも少なくありませんでした。北出さんは、昔を思い出しながらこう話します。「若いころ、納入先に食品サンプルを納品しようと営業車のトランクを開けると、暑さですっかり溶けてしまっていたことがあって、その時はかなり怒られましたね。車のトランクの掃除も大変でしたよ」。

当時のロウ製食品サンプル。こちらはステーキです
当時のロウ製食品サンプル。こちらはステーキです

その後、食品サンプルの製造方法は、1970年代~80年代にかけて徐々に進化を遂げていきます。サンプルの主原料は、ロウに代わり丈夫で熱に強いビニール樹脂に、型取りに使う材料は、寒天に代わり細かい表現が可能なシリコンを使うようになりました。樹脂製の食品サンプルは、従来品よりも長持ちするようになり、お客さまからも好評だったそうです。

写真左:型取ったシリコンに樹脂を流し入れます。写真右:オーブンで焼いて成形します
写真左:型取ったシリコンに樹脂を流し入れます。写真右:オーブンで焼いて成形します

北出さんによると、実は食品サンプルの製作方法は標準化されているわけではなく、天ぷら1つとってみても、職人さんによってさまざまな作り方があるのだとか。いわさきの職人さんたちは、それぞれが創意工夫をこらし日々サンプルづくりの技術を磨きこんでいます。また、偶然のアクシデントがきっかけで、サンプルづくりに役立つヒントを得られることもあるそうです。例えば、とある職人さんは、樹脂が入った缶を片付けている時、缶から漏れ出た樹脂が油の中にポチャンと落ちて固まったのを見て、「これは何かに使えるかも!」と閃きました。そこで、油に落とす樹脂の量を調整したり、色々な形を試してみたり、さまざまな試行錯誤を重ねた結果、粒の大きさや形がちょっと不揃いなところも含めて、とってもリアルな天かすのサンプルを作ることができたそうです。

うどんなどに欠かせない天かすのサンプル
うどんなどに欠かせない天かすのサンプル

そんな職人さんたちが日頃ストックしてきたアイデアを形にしたり、磨いてきた技術力を競い合う機会として、株式会社いわさきでは年に一度製作コンペがおこなわれています。ここで、北出さんにコンペ入賞作品をいくつか見せていただきました。ニューヨーク生まれの朝食メニュー「エッグベネディクト」や、タイで食べられている青いパパイヤを使ったサラダ「ソムタム」……半熟卵のとろりとした見た目や、野菜のみずみずしさが見事に表現されています。どれも、思わずよだれが出ちゃうほど美味しそう!職人さんの卓越した技術に感心しつつも、なんだかとってもお腹がすいてきました。

半熟卵が食欲をそそる!エッグベネディクト
半熟卵が食欲をそそる!エッグベネディクト
野菜のみずみずしさまで表現!ソムタムとタイカレー
野菜のみずみずしさまで表現!ソムタムとタイカレー

ここで北出さんは「飲食店の店頭に食品サンプルが並んでいる光景は、実は日本ならではのものなんです。海外ではあまり目にすることがないんですよ」と教えてくれました。そんなお国柄の違いもあって、いわさきのリアルな食品サンプルを初めて見た海外の方は「美しい!これは芸術品だ!」と感動する人も多いそうです。

「食品サンプルを世界に広めたい」と意気込む北出さん
「食品サンプルを世界に広めたい」と意気込む北出さん

また、いわさきは食品サンプルで培った技術を武器に、新たな事業にもチャレンジを始めました。それは、なんと「医療」!医師や看護師、医学生のトレーニング用に、人体の一部を再現した医療教材シリーズを提供しています。例えば、人間の血管をリアルに再現した模型は、カテーテル(消化管や血管に挿入し、注入点滴などに用いられる医療器具)を血管に挿入する練習に活用されています。シリコン樹脂の一体成型技術をフル活用し、カテーテル挿入時の感触が人体そっくりに再現できている点が演習に最適なんだそうです。

食品サンプルの技術で血管もリアルに再現!
食品サンプルの技術で血管もリアルに再現!

最後に、北出さんにいわさきの今後の展開をお聞きしました。「さきほどご紹介した医療分野では、医師の協力も得ながら医療の発展に貢献できる新たな製品を投入していきます。そして、食品サンプルについては、店頭でのアイキャッチャーとしてはもちろん、アート作品の一つとして世界に向けて広めることができればと考えています。2025年の大阪・関西万博をきっかけに、本物そっくりの食品サンプルを知ってもらえるようにアピールしたいですね!」と北出さんはやる気満々です。職人さんたちの熱い想いで進化しつづける食品サンプルは、ワールドワイドにまた新たな発展を遂げ、世界各国に浸透していくのかもしれません。皆さんも、飲食店の店頭で美味しそうな食品サンプルを見かけた際は、お店に入る前に少し立ち止まって、その美しさをよ~く味わってみてくださいね。

なんだかお腹がすいてきたな~!
なんだかお腹がすいてきたな~!
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