手がかりは1枚の絵だけ!
幻の彦根りんごが復活するまで
2018/09/18
![依頼内容](./img/outline_ttl.png)
滋賀県で200年も前のリンゴが復活したと聞きました。一体どうやって復活させたのか気になるので探偵さん、調べてください!
秋といえば実りの季節。この時期に旬を迎える果物の代表と言えばリンゴですよね。ふじ、ジョナゴールド、つがる、王林、紅玉といった品種がよく知られています。実は、国内で食べられるこれらの品種は、明治以降に欧米から輸入されて品種改良された西洋リンゴばかりなのです。
![よく見るリンゴは欧米の品種](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img01.jpg)
そのため、200年前のリンゴというのは、西洋リンゴのことではありません。調べたところ、奈良時代のころに中国から遣隋使が持ち帰った1300年以上の歴史がある和リンゴがあるようです。今回の依頼を受けて探偵たちが調べたところ、江戸時代には彦根藩の武家の農園で栽培され、後に彦根市内に普及した和リンゴの一種「彦根りんご」の存在にたどりつきました。昭和30年ごろには最後の一本が枯れてしまったそうで、今では「幻のリンゴ」とも呼ばれています。それを現代に復活させようという活動が行われているとの情報を入手。一度絶えたリンゴを復活させるなんて、そんなことができるの!?半信半疑の探偵たちは現場へ向かいました。到着したのは、JR南彦根駅近くの福満公園裏にある「尊和林庵(そわりあん)」。
![リンゴ園の「尊和林庵」はこちらです](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img02.jpg)
足を踏み入れてみると、青々と生い茂る葉っぱの中に、黄緑色をしたリンゴの実がたくさんついています。大きさはピンポン球くらいの小さなものばかり。まだ収穫前で、秋ごろになればもっと大きくなるのでしょうか?
![たわわに実っています](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/12/0918_img03.jpg)
「これでも成熟している大きさなんです。一般的に流通しているリンゴと比べても、小さいんですが、あと少しで収穫できます」と声をかけてくれたのは、「彦根りんごを復活する会」の事務局長を務める尾本さん。収穫時にはゴルフボールくらいのサイズになり、形はやや横にずんぐりとした形です。今年は酷暑の影響もあり、例年より小さいものが多いとか。つまり、このたくさんある小さなリンゴが、復活した彦根りんごってこと?
![リンゴ畑の前で、尾本さんとマイマイ姉妹](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img04.jpg)
「そうです、これが平成の彦根りんごです。どうぞひとつお召し上がりください」とすすめてくださったので、探偵たちがガブリと一口食べると……。皮部分はサクサクと歯切れのいい触感。果肉は甘酸っぱさとやや渋みが強いように感じられます。探偵たちが訪れたのは7月末ですが、「熟期のお盆ごろには、柔らかくなって甘味がもう少し増すんですよ」とのことです。
![小さい見た目がかわいらしいリンゴをガブリ](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img05.jpg)
それにしても、昭和30年ごろに絶滅した彦根りんごが、こんなにたくさん実っているなんて!いったいどうやってここまで復活できたのでしょうか。不思議でしかたない探偵たちは、尾本さんに話をうかがうことにしました。
「彦根りんごのことは、『彦根市史』などのいくつかの古い郷土資料に記述があります。これらの資料には、江戸時代の後期に藩士が苗木を購入したことやそれ以降栽培が盛んになり、明治・大正のころには彦根名物となったとされています。当時は薬として使われたり、熟期が8月なのでお盆のお供え物として重宝されていました」とのこと。しかし、熟した実が傷みやすく、明治半ばごろから出回りはじめた甘くて実の大きい西洋リンゴに押され、残念ながら昭和30年ごろに栽培は途絶えてしまったそうです。
![彦根りんごはツボミがピンクで、開くと白い花を咲かせます](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img06.jpg)
話はかわって、尾本さんが彦根りんごの存在を知ったのは、2002年ごろのことでした。当時、尾本さんは植物園をつくろうと考えていたのですが、そこへ以前から彦根りんごの復活を願っていた知人より「何とか彦根りんごを復活できないか?」と相談が持ちかけられました。それをきっかけに、「誰も見たことがない、誰も食べたことがない。実物がないからこそ、いったいどんなリンゴだったのか」と好奇心をそそられ、「彦根りんごを復活する会」を立ち上げて本格的な活動をはじめました。
![尾本さんほか、市民有志約30人からスタート](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img07.jpg)
復活する会を立ち上げてみたものの、肝心の彦根りんごの木は一本も残っていません。そこでまずは和リンゴの調査を進めたところ、彦根市出身の画伯によって描かれた岡島徹州画「彦根りんごの図」(八木原邸の木)の存在を知りました。この絵を頼りに、似た和リンゴにルーツを求めて、和リンゴの品種を保存している岩手県や青森県、石川県などをはじめとした全国各地の農業関係機関を訪れたのです。
![唯一の手がかりだった「彦根りんごの図」](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img08.jpg)
各地で和リンゴ、および野生種を収集し、開花や実がなる時期には各機関を訪ねて、花や果実の撮影や収穫などを行って比較しました。そして、絵と比較して彦根りんごに最も近いと思われる「加賀藩種」という品種を使うことに決定します。持ち帰った加賀藩種の穂木を接いだ苗木は順調に育ち、ついに3年目に実がつきました!
![はじめての接ぎ木の様子](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img09.jpg)
昔の彦根りんごは残っていませんが、接ぎ木によって彦根の土や水で育まれ、その土地に根ざした新たな『平成の彦根りんご』の栽培が、ようやく成功したのです。現在この尊和林庵には、彦根りんごの穂木を接ぎ木して育てている約50本の成木と約20本の幼木が並び、100人ほどの会員がオーナーとなって育てています。
![木に変化がないか、細かくチェック](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img10.jpg)
「復活する会」は、知事や市長を招いた記念植樹や講演会、各地の和リンゴ関係者が参加するサミットなどの活動を続けたのち、江戸時代後期に彦根藩士が苗木を植えてから200年が経過したのを記念して、「幻の彦根りんご復活200年祭」を2017年7月に開催しました。
![彦根りんご園で開催した200年祭のイベントには多くの方が参加](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img11.jpg)
その後は、「保存会」として名称を変更。さまざまなメーカーとの連携により、果汁を使った商品開発も進めているそうです。
![開発中のジュースはスムージーのようなとろみ感が魅力](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img12.jpg)
尾本さんは「全国各地にいる彦根りんごの復活を通じて出会った人たちは、自分の財産やね」と語ります。日本各地でルーツを探す旅からはじまり、長い年月を経て平成の時代によみがえった彦根りんご。皆さんも歴史ロマンを感じながら200年前のリンゴを味わってみてはいかがでしょうか。
![彦根の名物だよ](/portalc/contents-2/sp/tantei/__icsFiles/afieldfile/2018/09/11/180918_img13.jpg)
![調査完了](./img/finish_img.png)
- 尊和林庵(そわりあん)