食べられないなら、見て楽しむ!
ウナギ尽くしの水族館
2018/08/20

世界中の珍しいウナギをたくさん見ることのできる謎の場所があると聞きました。探偵さん調べてきてください。
日本では昔から、暑い時期を乗り切るために土用の丑の日にウナギを食べる習慣があります。昨今ではだんだん手の届かない存在になりつつありますが、展示物として世界中から集めたウナギを鑑賞できるところというのは、聞いたことがないような……。
調べてみると、大阪・堺市にある「うなぎミュージアム&Café 雑魚寝館(ざこねかん)」が、どうやらその謎の場所のようです。南海電鉄浅香山駅にある現場へ向かうと、ひっそりとたたずむ一軒家にウナギらしき絵と人形を発見。

ふと見ると、「世界のウナギと日本の淡水魚」の看板があります。看板を眺めていると、「たくさんウナギがいるので自由にご覧ください」と声をかけてくれた方がいました。館長の亀井さんです。足を踏み入れてみると、水槽がズラリと並んでいます。

水槽の中には奄美大島で獲れた全長135cm・体重8kgもあるオオウナギや、くりくりした目がかわいいインドネシアのウナギ、日本初お目見えというミャンマーのウナギなどが泳いでいます。世界には19種類のウナギが存在するそうですが、ここにはそのうちの11種類が展示されています。こんなにウナギの種類が多い水族館は、日本ではここだけ。世界でもなかなか見当たらないというからすごい!「ウナギの水族館をやろうなんて変わった人、そうおらんやろ?」と笑う亀井さん。
しかしながら、ここにいるウナギたちは素人目にはどれも同じに見えてしまいます。いったい、どうやって見分けているのかと亀井さんにお聞きすると、「私も見ただけじゃわからないんですよ」という衝撃の発言が!館長でもわからない!?「捕獲されたウナギは、北里大学や九州大学などの研究所へDNA鑑定を依頼して、種類を判別してもらっています」と種明かししてくれました。

それにしても、どうしてウナギを集めた水族館をつくろうと思いついたのでしょうか。亀井さんはもともと追手門学院大手前中学校・高校の日本史の先生で、同校の校長も務めた経歴があります。校長からなぜ、ウナギ水族館の館長に?

あるとき、自宅の庭にあった石鉢にボウフラがわいて困っていた亀井さんは、友人から「メダカを飼ったらいい」とアドバイスをもらい、メダカを飼いはじめました。その後、メダカだけだとつまらなくなり、自分で淡水魚を捕ってくるようになりました。次第にその数が増え、ついに1995年、淡水魚を見学できる水族館として「雑魚寝館」をオープンさせるに至ったのです。

雑魚寝館のテーマをウナギに特化させたのは、約11年前から。大学の依頼で、市民講座の講師を務めたのがきっかけです。そのとき、ウナギをテーマに話そうと決めたところ、幻の超高級天然ウナギの「アオウナギ」を思い出しました。川に上がらないで汽水域で育つアオウナギは、あまり市場には出回らないけど、たいそうおいしいらしいという噂です。そこで漁師さんに直接話を聞いて、全国各地に生息しているウナギについて調べはじめました。「知れば知るほど奥深く、ウナギの魅力にどんどんハマっていきました」とのこと。それから雑魚寝館は淡水魚ではなく、ウナギがメインの水族館になったのです。「当時から今まででアオウナギはたくさん試食してきましたが、これからはどんどんと食べられなくなりそうで残念です」。

亀井さんは、人間とウナギとのかかわり方やその文化についても研究しています。ウナギのかば焼きは関西では腹開き、関東では背開きにしますが、背開きにするのは江戸の武士社会で切腹を嫌ったからなどの諸説がありますが、亀井さんは「関東ではウナギは30分から1時間ほど蒸すから、身がトロトロになります。腹から裂くと身が崩れやすくなるから、背開きになったのではないですかね」と独自の説を提唱しています。ほかにも、ウナギは人々に知恵を授けてくれる菩薩さま(虚空蔵菩薩)の化身とも言われているとのこと。知恵が詰まった菩薩さまの化身であるうなぎの頭(半助)を食べれば賢くなるなど、独自の仮説を熱く語ります。こんな風に、学者でも研究者でもない自由な立場で研究するのが楽しいのだそうです。
さらに、ウナギ研究のテーマは、国内だけでなく世界へも。東南アジア、ニュージーランドやヨーロッパなど国外にも現地調査へ出かけました。「イタリアのコマッキオという町では日本と同じように白焼きで食べています」と語ります。遠く離れていても、ウナギのおいしい食べ方は世界共通のようです!

実は、雑魚寝館にはカフェスペースがあり、ウナギの創作料理も食べられます。おすすめは、ウナギの頭を佃煮にした「半助」。骨が多い頭は調理が難しいため捨てられるものですが、亀井さんは「半助と豆腐を一緒に炊く大阪の郷土料理『半助豆腐』は食い倒れの街・大阪ならではの“始末の精神”から生まれた料理。食材を無駄なく使うことで、命を粗末にしないことを意識しています」と語ります。ほかにも、身を開くときに取り除かれた骨を粉末にしたものを入れた「うなぎ塩パン」などがあります。

今後の目標は、ウナギの種類を増やしてもっと大規模なウナギの水族館をつくること!「ウナギの寝床と言われる京都の町家で水族館ができるとおもしろいね」と楽しそうに語ります。また、亀井さんならではの研究成果をまとめた本も出版したいと語ります。ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されるなど、ウナギに関することで明るい話がなかなか出てこない近ごろですが、ここ雑魚寝館ではいろんなウナギたちに出合ったり、亀井さんのありあまるほどのウナギ愛を感じたりすることで、食べなくても楽しむことができます。この機会にウナギの料理で腹を満たすのではなく、ウナギの知識で頭を満たすのもいいかもしれませんね!

※雑魚寝館は普段金曜日しか営業しませんのでご注意を。
