パワフルなおばちゃんが山奥につくった行列のスゴイ店
2018/08/06兵庫県の山奥にある田舎町に、巻き寿司で行列ができる「マイスター工房八千代」というお店があるそうですが、なんでそんなに人気なのでしょうか?
大阪市内から車で約1時間半。周囲を緑豊かな山に囲まれた兵庫県多可町に、噂の「マイスター工房八千代」があるようです。多可町は日本の棚田百選にも選ばれたところで、古きよき日本の原風景とも言える、のどかな田園風景が続く場所です。こんな場所に、寿司の人気店があることが不思議でなりません!
こんな場所に本当にあるの?と不安になりつつ、県道を移動していると突如として「マイスター工房八千代」と書かれた巨大な看板が現れました。確かに人だかりができている店があり、その駐車場にも車がいっぱいです。どうやら気軽に入れる複合施設みたいです。
勝手がわからずキョロキョロしていると、案内係の方が「まずは整理券をもらってくださいね」と親切に教えてくれました。そこで購入本数を伝えると整理券と巻き寿司の引換券がもらえます。なんでも9時オープンの1時間前ぐらいに店頭で配布されるとか。早朝から整理券をもらいにくる人が、かなりいるようです。
なんとか整理券と引換券を手に入れて、「天船(あまふね)巻き寿司」をゲット。ワクワクしながら包みを開けてみると、ゴロンと大きなきゅうりが目につきました。ほかにも厚焼き玉子、肉厚のシイタケやかんぴょう、高野豆腐などのよくある具材が入っていますが、どれもデカい!具が大きいこと以外はいたってフツーののり巻きです。
さっそくほおばってみると、具材は濃いめに味つけされていて、最初にそのうま味がジュワーッと広がります。続いて訪れるのはきゅうりのみずみずしさ。たっぷりの水分が濃いうま味をさっぱりとした後味へと導いてくれます。具の大きさに比べて、シャリの量は控えめ。このバランスもおいしさに関係があるようです。遠路はるばるやってきて、朝から待った甲斐があったと思えるおいしさです!
あっという間に午前中で約1,200本が完売。午後に来た人は完売と知り、残念そうに帰っていきます。こんな不便な場所で1,000本以上の見た目もフツーの巻き寿司が、午前中の数時間で完売してしまうなんて!そのすごさが気になってしかたない探偵たちは、「マイスター工房八千代」の施設長・藤原さんに巻き寿司の秘密をお聞きしました。
藤原さんは2001年に、町の協力を得て「マイスター工房八千代」をオープン。「わざわざ遠方から足を運んでくれたお客さまのためにも、家に遊びに来てくれたお友だちにお茶やお菓子を出すのと同じ気持ちで、おもてなしの心を込めて、試食用に用意した巻き寿司をふるまいました」と語ります。それが、「おいしい!」という口コミが広がる大きな要因となり、いつの間にか新聞やテレビにも取り上げられるようになったのだとか。工房初年度の経営は赤字でしたが、2年目から黒字化。右肩上がりで伸びる売り上げは、年間2億7,000万円にまで成長しました。
藤原さんは成功の秘訣を、「親から授かったベロメーター(舌の感覚)、カンピューター(勘のよさ)、ハンドパワー(手先の器用さ)の3つのおかげ」とユーモラスに語ります。マイスター工房ではこのスキルで、巻き寿司だけでなくさまざまな商品が生まれてきました。たとえば、巻き寿司に使われなかったきゅうりのへたでつくられた「びっきゅうりジャム」、きゅうりの皮を揚げて甘辛く味付けをした「はたけの野李何(のりか)」など。ほかにはないユニーク商品が意外なほどおいしいのは、ベロメーターのおかげ。“びっくり”と“きゅうり”をかけた遊び心があふれる商品名は、カンピューターによるもの。また、看板になっているマスコットやオリジナルの商品パッケージの文字は藤原さんのデザインで、ハンドパワーが生かされています。
ところで、天船巻き寿司の具はなぜあんなに大きいのでしょうか。藤原さんいわく、「きゅうりも玉子も最初はもう少し小さかったんやけど、私の性分で売れれば売れるほど、もっとお客さまに喜んでほしくて」。その結果、どんどん具材が大きくなったのですが、それを控えめな量のシャリで崩さずきれいに巻く技は、藤原さんからスタッフの皆さんにハンドパワーが伝わっているからこそ。ハンドパワーの威力は無限大です。
藤原さんは、子どものころにお父さんが営んでいた播州織の工場が倒産したり、やることなすこと親戚や知人から反対されたり……と、これまで歩んできた人生は苦難の連続でした。しかし、藤原さんは辛い経験が今の自分の糧となると考えて努力した結果、マイスター工房の経営を軌道に乗せることに成功しました。そのうえで大事にしてきたモットーがあります。それが、『あいうえおの心』。「ありがとう いつもにこにこ うれしさを えがおにかえて おかえしを」。マイスター工房八千代の巻き寿司が人気なのは、このおもてなしの心と働く方々のお人柄が、おいしさとなって食べる人に伝わるからなんでしょうね。これからも元気いっぱいの笑顔を振りまいて、田舎町「多可町」を盛り上げ続けてほしいと思った探偵たちでした。
「マイスター工房八千代」では人気のため、9時オープンの1時間前ぐらいに店頭での整理券の配布が始まります。土日や連休、年末などは朝8時に行っても遅いそうなのでご注意ください。
- マイスター工房八千代