墨はどうやってつくるの?
調べたら奈良の墨がすごい!と判明
2018/01/09

筆で書かれた年賀状って、かっこいいですよね!ところで、墨ってどうやってつくっているのでしょう?探偵さん調べてきてください。
墨は今から約2200年前、漢の時代の中国で発明されたと言われています。日本では「日本書紀」に記載されている墨の記録が最も古く、610年に高麗の僧・曇徴(どんちょう)が来朝した際に、松ヤニを使う「松煙墨(しょうえんずみ)」の製法を伝えたとのこと。昔は読み書きのできる人が少なかったため、身分・教養の高い人しか使えない貴重品でしたが、写経をする寺社で墨づくりが盛んになり、奈良の興福寺では菜種油の灯明から出る煤(すす)を利用した「油煙墨(ゆえんずみ)」がつくられるように。その時代に都があった奈良を中心に、墨づくりは徐々に近畿地方を中心に増えていきました。江戸時代には庶民にも文字の読み書きが普及して全国へと広まりましたが、古くから墨づくりが行われている奈良には、40軒を超える墨屋が構えられ、特産品としても知られるようになりました。
そこで調べたところ、奈良市内では今も伝統的な墨工房があると聞き、現場へ直行!やってきたのは、JR奈良駅から徒歩3分のところにある「錦光園(きんこうえん)」です。

「ようこそいらっしゃいました」と声をかけてくれたのは、六代目の長野さんです。江戸時代から続く墨職人の家系で、奈良でも由緒ある墨工房の四代目が独立し、明治初頭に創業したそうです。六代目にあたる長野さんは数年間に渡り海外生活を送っていましたが、日本文化のすばらしさを再発見したことで、歴史のある家業を継ごうと決意しました。

さっそく墨の製造工程を見学!必要な材料は煤(すす)・膠(にかわ)・香料の3つのみ。固形墨の種類は主に、赤松の煤が主原料の「松煙墨」と植物性油の煤が主原料の「油煙墨」があります。今回は、現在流通している固形墨の大半を占めるという油煙墨をつくります。

まず「かわらげ」と呼ばれる土器に油を入れ、ひも状の灯芯に火をつけて蓋をし、蓋の裏側につく煤を集めます。煤は、動物のゼラチン層でできた膠(にかわ)を湯煎して溶かし、そこに煤と水を混ぜ合わせてなじませます。モチ状になった墨に、膠の臭い消しのため、樟脳(しょうのう)という香料を加えます。

そして機械で約30~40分練り合わせ、仕上げに約15分足踏み。墨の中に空気が入らないように十二分に練ったものを、一旦保温します。長年の勘で必要な分量を取り、ぴったりの長さに伸ばしたものを型に入れて、万力でしっかり締めつけます。

写真右上:それを手で練って成形
写真左下:さらに長細く伸ばして型に入れたところ
写真右下:万力で締めて、文字や模様がついたところ
型から出してすぐの墨はまだ柔らかく、弾力があってようかんみたいな感触ですが、しっかりと伝統的な墨の形になっています。その後、乾燥や磨き、彩色という工程を経て、完成となります。

長野さんは海外生活時代も含めて、休暇時はさまざまなところへ旅行に行くのが趣味だそう。旅先で観光名所を見学するだけではなく、その土地ならではのことを体験すると、印象が強く残ると実感したそうです。もう一度奈良へ来たいと思ってくれる人を増やすには、観光客の心に残る“おもてなし”が必要だと感じた長野さん。そこで、約16年前から、生の墨を握って自分の手形や指紋のついた世界にひとつしかない墨をつくる「にぎり墨体験」をはじめました。

探偵もマイマイ姉妹と一緒に、にぎり墨づくりに挑戦!生墨を手に乗せてもらうと、ほんのりとあたたかくて、独特の弾力感、柔らかさがあります。墨って堅いと思い込んでいたから、予想外の感触にびっくり!ギュッと握りしめて、指紋や指の形がくっきりと残れば完成です。桐箱に入れて持ち帰って3ヶ月間乾燥させれば、墨としてだけではなく、筆置きなどにも活躍します。

戦後、墨汁の普及によって墨屋や墨職人が減少していき、現在奈良では墨職人がたったの10人ほどしかいません。このわずか10人ほどで、日本の固形墨の95%を手がけているのだとか!
「固形墨は色の濃淡や滲み、かすれ具合など、豊かな表現ができる魅力にあふれています。また、墨をする工程には、気持ちを落ち着かせて、書作に挑むのに必要な集中する心を育んでくれます。これらを含めて“書道”なんです」と長野さんは語ります。「学校では墨汁が使われているため、若い方の中には固形墨を見たこと、触ったことがない方も少なくありません。この体験を通じて、一人でも興味を持ってくれる人がいたらうれしいですね」とのこと。墨の未来が心配になりつつも、長野さんの言葉を聞き、墨や書道の魅力が多くの人たちに伝わることを願う探偵たち。

現在、錦光園には外国人観光客も多く訪れ、長野さんが英語でレクチャーしています。彼らは、墨の歴史を聞いたり、実演見学や体験を通じて、「日本の素敵な文化をぜひとも未来に残してほしい」と口をそろえて言っているそうです。
奈良に調査で訪れて墨の魅力を再確認した探偵たち。千年のときを超えて育まれたこの文化を、大切にしていきたいと強く思いました。

