キュートなお猿で厄がサル!?
2017/12/04
奈良町の軒下に、赤くて丸い物体がぶら下がっているのを見かけますが、あれって何でしょうか?
近鉄奈良駅より東向商店街を南下するように15分ほど歩くと、江戸時代の町家が多く存在する通称「奈良町(ならまち)」にたどり着きます。最近では町家をリノベーションしてカフェや雑貨屋、レストランが出店するなど、今注目されているおしゃれエリア。調査のつもりであたりを見渡しながらブラブラ歩いていると、確かにこちらのおウチにも、あそこのお店にも赤い物体がぶら下がっています。これは何かの目印なのでしょうか?

奈良の貴重な資料、民具、絵看板などを公開展示している「奈良町資料館」に、奈良の文化や風習に詳しい人がいると聞きつけた探偵は、現場へ行ってみることにしました。資料館の入口にもたくさんぶら下がっていて、まるでのれんのよう。


中に入ると、赤い物体が4cmほどの小さなものからジャンボクッションソファのような特大サイズまで、所狭しと並んでいました。

「これは、災いを代わりに受けてくれる『身代わり申(さる)』なんですよ」と声をかけてくれたのは、奈良町資料館館長の南さんです。言われてみれば、猿が両手足をくくられているように見えます。「魔よけみたいなもので、家の中に災難が入ってこないように吊るしているんです」と教えてくれました。

身代わり申は、奈良時代末期に日本へ伝来した中国三大宗教の一つである道教と、日本固有の信仰が交じり合い発展した「庚申信仰(こうしんしんこう)」に由来するものです。仏教が極楽往生を説くのに対し、庚申信仰は現世利益が叶うと教える点が民衆に支持されて徐々に広がり、江戸時代以降全国各地に広まりました。

ところで、「庚申」とは一体何なのでしょうか?「その昔、年や日、時間、方位などを示すのに用いられた十干(じっかん)と十二支(じゅうにし)の組み合わせからきています」と南さん。その要素の組み合わせで庚と申(さる)が組み合わさるのが60日に1回あり、その日を「庚申の日」としてお参りをするのが習わしとされていました。
それにしても、なぜ猿が魔よけに役立つのかが気になるところ。「人の体内には三尸(さんし)の虫という害悪をなす虫がいて、庚申の日の夜中に体から抜け出し、その人がしてきた悪事を天帝に告げ、それを聞いた天帝が天の邪鬼(あまのじゃく)に命じてその人に罰を与えると信じられてきました。そこで、天の邪鬼が嫌いな猿をかたどった身代わり申を軒先に吊るしておくことで、家の中に天の邪鬼が災難をもたらさないようにしたのです」。鬼を追い払うとは、厄除け効果抜群ですね!

身代わり申を手にとってまじまじと見てみると、背中に何か書かれていますが、これは何でしょう?「家内安全、無病息災、商売繁盛など、背中に願いごとを書いて吊るすと願いが叶うと言われているんですよ」。と南さん。どうやら絵馬みたいな効果もあるようです。

約1年間取りつけた後や、身代わり申が落ちたり、紐が切れたりした場合は、自分が受けるべき災難を申が引き受けてくれたと理解して新しいものに取り替えます。古い身代わり申は、以前は「庚申堂」へ持って行くと、お焚きあげして供養してくれていました。今はその役割は奈良町資料館が担っています。

ちなみに、飛騨のさるぼぼと同じものと間違われることも多いそうですが、さるぼぼは庚申信仰とは無関係だそう。猿の赤ちゃんをモチーフにした民芸品で、身代わり申はお守りです。同じ赤い猿でも、その成り立ちや役割が全然違うそうです。

探偵たちは奈良町資料館を出た後、地域住民から「庚申さん」と親しみを込めて呼ばれる「庚申堂」にも訪れてみました。こちらに庚申信仰のご本尊である青面金剛像(しょうめんこんごうぞう)が祀られており、毎月23日に開帳されます。

南さんは最後にこう話してくれました。「故郷に誇りを持つこと、先人への感謝尊敬を忘れないこと、未来を担う人たちへ伝えていくこと。この3点を大切に、これからも守り伝えていきたいです」。
最近は日本国内だけでなく、海外からの観光客が爆発的に増えており、身代わり申は地元住民だけではなく、奈良を訪れる観光客の間でも人気の高まりを見せているそうです。厄除けに加えて、家内安全、無病息災、商売繁盛なども叶えてくれるすごいお猿さん。新しい年の始まりにおウチに飾って、厄除け&願かけしてみてはいかがでしょうか?

