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2月
スコットランド北部で実験中の波力発電装置「Pelamis」Jumanji Solar(flickr)
グラフ1 各国の主要な海洋エネルギー技術開発件数(2011年)
(出典:NEDO 再生可能エネルギー技術白書 第2版)
波や潮流など海洋エネルギーを利用する海洋発電は、同じ自然エネルギーである太陽光や風力よりも天候などの条件に左右されることが少なく、安定して発電できるとされています。海洋発電の代表的なものに、「潮力発電」「波力発電」「海洋温度差発電」「海流発電」などがあります。海洋温度差発電(ハワイの温度差発電例)は以前紹介しましたが、これらの中でも開発が進んでいるのが、「潮力発電」と「波力発電」です。欧米では、数年前から実用化を目指した開発競争が始まっています。 潮力発電は、大別して「潮流そのものを利用する潮流発電」と「潮の干満差を利用する潮汐(ちょうせき)発電」にわけられます。潮流とは、太陽、地球などの天体運動から起こる力によって発生する海の流れのことをいいます。地球の自転に伴って1日2回の干満、また、15日周期の大潮、小潮によって流れが変動しますが、その流れは海岸の地形や水深などにも影響を受けます。 潮流発電は、一般にどんな潮流でも規則正しく起こるため、潮流のスピードと水量によって、発電量が予測できます。また、潮流発電はタービンを海底に設置するため、景観にも影響を及ぼさないというメリットもあります。世界で発電されている海洋発電は2014年時点で530MW*1ですが、そのほとんどが潮流発電によるものなのは、利点が多く信頼性の高いエネルギー資源であるという理由がありそうです。 イギリスでは、さまざまな潮力発電や波力発電のプロジェクトが進行中ですが、潮力の中でも中心になるのは潮流発電です。政府が開発資金を助成するなど国をあげて推進し、大規模な実証実験施設を設置して、世界を1歩リードしています(グラフ1参照)。 背景には、スコットランド周辺海域が、ヨーロッパ全体がもつ潮力の4分の1、および10分の1の波力を有する、海洋エネルギーの潜在能力が極めて高いエリアということがあります。推計では、スコットランドの島々の周辺での潮力および波力による発電量は、年間で3,850万MWhになると示唆されています。 欧州海洋エネルギー協会のロード・マップでは、潮力発電や波力発電を含む海洋エネルギーによる発電量が、EU全体で2020年には3,600MWに達するとの将来予測を示しています。今後、技術開発が進み、投資が活発化した場合、2050年には18万8,000MWに達し、EU電力需要の15%を海洋エネルギーでまかなえるだろうと考えています。海洋発電は、風力発電や太陽光発電と並ぶ、再生可能エネルギー発電の主要な柱に成長する可能性を秘めています。
*1 REN21 自然エネルギー世界白書2015
潮流発電は風力発電と同様に、タービンの回転軸の方向によって「水平軸型」と「垂直軸型」に分けられます。現在は「水平軸型」を採用するシステムが主流ですが、これは海水の流れに対して水平な回転軸に取りつけた羽根(ブレード)により、潮流の運動エネルギーを回転運動に変え、発電機を回して発電します。最も代表的な方式はプロペラ式であり、多くのプロジェクトで採用されています。 潮力発電の中心的な施設としてあるのが、オークニー諸島(図1参照)のEMEC(European Marine Energy Center)です。EMECは英国政府、スコットランド自治政府、EUなどが出資する民間研究機関で、2003年に設立されました。 オークニー諸島周辺の海域は、潮の流れが時速14.4kmと速く、毎時5億トンの海水を押し流しています。その潮流の強さは、黒潮と並んで世界最大級と言われており、実験場所としても理想的です。波力発電のテストサイトは5つ、潮流発電のテストサイトは8つ用意され、両サイトにおいて、陸上までの海底ケーブル、変電所、風速・波高などの計測所、オフィス・データ解析施設などを備えています。 オークニー諸島の約80km北にあるシェトランド諸島では、0.1MWhの潮力発電設備をこれまでに2基設置し、将来的には計5基が稼働する見通しです。2016年からは、規模は小さいものの、ほかのプロジェクトに先駆けてシェトランド諸島の一般世帯への送電を開始しています。 スコットランド西海岸にあるアイラ海峡でも、強い潮流を利用して潮力発電を行う計画が進んでいます。潮の速さが時速約11kmと、強く安定した潮が流れるこの海底に10基の潮力発電装置「HS1000」を設置して、世界初となる「潮流発電ファーム」を構築する予定です。アイラ島はスコッチウイスキーの生産地としても有名ですが、この計画が実現されると、同島にある5,000世帯とウイスキー蒸留所の電力需要を十分に満たすため、海流の力でつくられたウイスキーが誕生しそうです。 課題はまだ技術開発の過程にあるため、導入コストが高いことです。海洋発電が価格競争力をもつためには、技術開発を進めることと装置の量産化により発電コストを引き下げることが急務となっています。
図1 スコットランドの海洋エネルギー実験施設がある場所
スコットランド、アクアマリン・パワー社の波力発電『オイスター』Scottish Government(flickr)
波力発電とは、その名の通り波の力を利用した発電方法です。タービンを回す動力として波の力を使います。形状は、海底に設置するもの、海面に浮かべるものなどさまざまです。現在、どのタイプにおいても実証試験の段階にありますが、スコットランドでは先進的でユニークな波力発電の実証実験が行われています。 2009年からEMECにおいて実用実験を開始したのが、ユニークな形の波力発電「オイスター」です。海底10~16mに固定された波力発電機が、波の動きを捉えるフラップによって水圧ピストンを作動させ、陸上に設置された発電プラントに高圧水を送り、タービンを回転させることによって発電します。将来的には20基(1基2MW)の「オイスター」が並ぶ波力発電ファームが計画されています。 また、へびのような形をした可動式の波力発電装置「Pelamis」もEMECにおいて実験中です(巻頭写真)。これは4本の円筒形のシリンダが「ヒンジ」というちょうつがいで一直線につながり、海面に浮かびます。波を受けるとシリンダ同士の角度が変わり、ヒンジが曲がり、これを油圧に変えて発電機を回転させるしくみです。さまざまな強度の波に耐え、水深50m以上というテストサイトの条件下で年間90%稼働し、100年に1度の大波にも耐えられるというデータが得られています。
スコットランド自治政府は、2020年までに再生可能エネルギーで域内の全電力をまかなうことを目標に掲げています。海洋エネルギー技術はこの目標を達成するうえで、重要な役割を果たすと期待されています。 オークニー諸島とスコットランドの間にあるペントランド海峡では、EMECでの実証実験を経て、2016年9月中旬、「メイジェン」と呼ばれる世界最大規模の潮力発電プロジェクトにて組み立てた、4つのタービンを海底に設置しました。タービンは1基あたり1.5MWの発電能力を持ち、11月からはついに送電を開始しました。メイジェンは今年中にさらにタービンを追加設置して、400MWの発電量を達成することが計画しています。今後、269基のタービンが完成すれば、17万5,000世帯の電力需要をまかなえる大規模な潮力発電ファームとなる予定です。
このほか、世界ではフランスや韓国で潮汐発電が開発され、潮汐発電所が稼働しています。2011年に発電を開始した韓国西海岸の「始華湖(シファホ)潮汐発電所」は規模が大きく、防潮堤に設置された発電設備は10基合計で254MWに達します。これは1967年から稼働しているフランスの「ランス潮汐発電所」を上回る総発電量です。韓国では海域の潮の干満差が8mに達するほど大きいため、始華湖潮力発電所の他にも、西海岸4ヶ所で、潮汐発電所の建設が推進されています。 地球表面の約7割は海。海洋エネルギーは大きな潜在能力を秘めています。その可能性を最大限に活かし、エネルギーを生み出そうとイギリスをはじめ各国では着々と政策や研究開発を進めています。
「メイジェン」で使われる潮力発電用タービン(英北部スコットランド)
Text by Yayoi Minowa