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世界の省エネ

11月

省エネと観光促進を両立した
サスティナブル・リゾート ツェルマット

  • スイス

省エネと観光促進を両立したサスティナブル・リゾート ツェルマット

マッターホルンをはじめとするアルプスの名峰を擁するスイス。自然豊かなこの国には例年多くの観光客が訪れる

世界一の路線密度を誇るスイスの鉄道網は都市部のみならず、山間部にも及ぶ

世界一の路線密度を誇るスイスの鉄道網は都市部のみならず、山間部にも及ぶ


スイスの電力を支えるGrande Dixence ダムは重力式コンクリートダムとしては世界一の大きさを誇る

スイスの電力を支えるGrande Dixence ダムは重力式コンクリートダムとしては世界一の大きさを誇る

旅行者からも好評の、鉄道王国スイス

アルプスの山岳地帯が、国土の大半を占めるスイス。九州よりやや小さい国土に、鉄道路線が網目状に張り巡らされています。「世界で国民が最も鉄道を利用する国」としても有名で、登山列車をはじめ大自然の中を走る鉄道が観光客を魅了し続けています。その中でも主要な役割を果たす「スイス国鉄」は使用電力の約9割を自社で所有する水力発電でまかなうなど、豊かな水資源を利用した取り組みが行われています。
公共交通を主体にしながら、自転車や車を組み合わせる「コンビ移動」と呼ばれる思想が浸透しているのもスイスならでは。この思想は同国における交通戦略の柱であり、利用者の利便性向上とともに大きな省エネ効果を生み出しています。例えば「パーク&レイル」という手法では、国鉄駅の駐車場整備を推進し、バスの便が悪い地域でも、自家用車を使ってスムーズに鉄道にアクセスできるようになっています。また、目的地の最寄り駅までは鉄道に乗り、その先はネットで予約したカーシェアリングやレンタカーを利用する「クリック&ドライブ」も好評。カーシェアリングはスイスで生まれた取り組みで、すでに「クリック&ドライブ」はスイス国内駅のうち約半数の350駅に備わっています。駅を出てすぐにネットで予約済みの車に乗れるのでとても便利です。 スイスでは、山岳地帯に広がる鉄道を軸に、長い歴史の中で地域や環境に適した交通網が発展してきました。このような背景にあるのが、連邦制の下で進んだ地方分権制度。地方自治体が、それぞれ自分たちの地域に合ったきめ細かな鉄道網を整備してきたことが、現在の発展へとつながっています。 旅行者から、その交通の便の良さに定評があるスイス。移動が不便になりがちな山深い国だからこそ、より工夫のある交通網が根付いているようです。

リゾート地 ツェルマットが選んだ
「カーフリー」という選択

人口5,700人の小さな町でありながら、年間約170万泊の滞在者を受け入れる、世界でも有数の山岳リゾート「ツェルマット」。ツェルマットでは、公共交通が発達したスイスの中でも、さらに独自の交通戦略を推進しています。マッターホルンなどの名山に囲まれ、アルプスの雄大な景色を眺めながら走る氷河急行や登山鉄道の起点でもあり、スイスの観光基地としても機能する町です。
この自然豊かなツェルマットは、一般のガソリン車を入れない「カーフリーリゾート」としても知られています。 いまから50年以上も前の1961年、ツェルマットの住民から、氷河をはじめとする豊かな観光資源の保護やエネルギー消費の抑制を目的として、ガソリン車の乗り入れを禁じる「カーフリー」という先進的な構想が提案されました。すぐに実現には結びつかなかったものの、その後、この構想について20年以上にわたり継続的な話し合いが行われることとなりました。そして、1986年に、400年以上つづく地域共同体「ブルガーゲマインデ」が中心となって再度村民投票を実施したところ、9割以上の村民が「ツェルマットに車は要らない」という意思を表示。ここから、ツェルマットでは、車による集客や利便性よりも、美しくクリーンな町を維持するための取り組みをスタートすることになりました。

澄んだ空気と静寂を楽しめるカーフリーリゾート・ツェルマット photo: Kosala Bandara

澄んだ空気と静寂を楽しめるカーフリーリゾート・ツェルマット
(photo : Kosala Bandara)

ツェルマットでは、馬車も人や荷物を運ぶ交通手段として活用されている  photo:Taxi Svizzero

ツェルマットでは、馬車も人や荷物を運ぶ交通手段として活用されている
(photo : Taxi Svizzero)


ツェルマット駅前に駐車している電気自動車のタクシー

ツェルマット駅前に駐車している電気自動車のタクシー

環境への配慮と旅行者への配慮を両立したサスティナブル・リゾート

ツェルマットのカーフリー施策では、ガソリン車の乗り入れを厳しく規制しています。それは観光客に対しても、住民に対しても同じ。誰が乗っていても、ガソリン車やバスはツェルマット市街地から数キロ離れた「ターシュ」という小さな村までしか入れません。一部の特殊車両をのぞいて、市街地に入れるのは馬車や電気自動車だけ。太陽光発電パネルを屋根に設置したバスが最高制限速度の20km/hで走るなど、街全体がのんびりとした雰囲気に包まれています。
ツェルマットで見かける電気自動車は、直線的なラインで作られた独自のフォルムが特徴。電気自動車は、すべて地元にある2つの町工場で製造されています。もちろん、メンテナンスを手掛けるのも地元工場。また、電気自動車で使う電気も、アルプスの豊かな氷河を活用した水力発電で半分以上をまかなうなど、エネルギーの地産地消がしっかりと根付いているようです。 いま、ツェルマットは、自然環境・地球環境・来訪者への配慮を観光の基本理念においた「サスティナブル(持続可能な)・リゾート」として注目を集めています。この町をお手本にしたカーフリー施策は、サース・フェーやブラウンヴァルドなどスイス国内の9つの自治体にも拡大中。1988年からは「スイス・カーフリー観光地共同体」を結成し、技術や情報の連携を図っています。

省エネは、自分たちのくらしや経済を守ることにもつながっている

ツェルマットをはじめ、国内各所で公共交通を活かした省エネ活動に取り組んでいるスイス。その背景には、地球温暖化や気候変動による氷河の後退があります。化石資源の少ないスイスでは、氷河をもとにした水力発電が欠かせません。しかし、20世紀に入り地球規模での気温上昇が起こる中、アルプス山脈の気温は地球平均の2倍以上のスピードで上昇しています。氷河は1960年代から現在までに4割が消失するなど、重大な危機に直面しています。また、氷河は、アイスクライミング・スキー・登山などの観光資源でもあります。観光立国であるスイスにとっては、氷河の後退はエネルギー問題であると同時に、大きな経済問題でもあります。
そのため、徹底した環境への配慮とエネルギー使用の抑制は、ツェルマットだけでなくスイス全土の人たちにとって当然の流れといえるのかもしれません。そして、彼ら独自の取り組みは今、美しい景観やきれいな空気を守るだけでなく、経済と環境に配慮したサスティナブルな事例として、注目を集めています。

危機に瀕している氷河を守るための国を挙げた取り組みが行われている

危機に瀕している氷河を守るための国を挙げた取り組みが行われている

word&photo:yayoi minowa