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世界の省エネ

12月

非電化地域に明かりを。
自然エネルギーで未来を切り拓くケニア共和国

  • ケニア

非電化地域に明かりを。自然エネルギーで未来を切り拓くケニア共和国

自然と都市という2つの魅力をあわせもつケニア共和国

非電化地域では照明のための燃料代は家計支出の1割近くを占める(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)

非電化地域では照明のための燃料代は家計支出の1割近くを占める
(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)


農村部では電化率5%、都市部では停電。
山積みする電力課題

ケニア共和国は、多くの人がイメージするように、さまざまな野生動物が生息する豊かな自然が特徴の国。アフリカを代表する国立公園や国立保護区も多数点在しています。その一方、首都ナイロビは近代的なビルが建ち並び、東アフリカの政治・経済・文化の中心を担う人口200万人の大都市。このように、ケニアは、自然だけでなく都市の顔もあわせもっています。
現在、ケニアはインフラ整備にいくつかの課題を抱えています。特に電力事情については、都市部では電化率が高いものの、国全体を見渡すと16%、特に農村部では5%にとどまります。(*1 2011年時点) 農村部で電化が進まない主な原因は、広い国土のあちこちに小さな村が分散しているために、電気をとどけるための送電網を設置する費用や時間がかかることにあります。それぞれの自治体に、小型のディーゼル発電機を分散して設置することもできますが、燃料の輸送費がかさむことに加え、輸送中の強盗被害や輸送業者による転売などの問題が起きるケースもあるようです。 一方、都市部では、経済の発展とともに増大する電力需要に供給が追いつかない状況が深刻化しています。ケニアでは、総発電量の50%を水力発電でまかなっていますが、干ばつによる水不足から稼働率が低下傾向にあります。たとえば、雨期の降水量が不足した2000年には、首都ナイロビで約4ヶ月にわたって1日12時間の計画停電が実施され、市民生活から産業まで大打撃を受けることになりました。 そこで、ケニア政府は、2020年までに地方電化率を40%まで引き上げる「地方電化マスタープラン」を策定しました。非電化地域の解消のため、送電網の延長と並行して、太陽光発電などの分散型再生可能エネルギーの導入を推進しています。また、民間レベルでも農村部に電力を届ける取り組みが始まっており、官民双方で電力課題の解決を目指しています。

「地球の割れ目」大地溝帯の地熱を活かし、
都市部の電力需要増に対応

ケニア政府は「国家開発計画Vision2030」の中で、2030年までに国内の総発電量を1,750万kWに拡大する計画を打ち出しています。そして、その中でも「オルカリア地熱発電所」は最優先プロジェクトとして推進されています。
オルカリアは、首都ナイロビから北西に100kmほど離れた地域。ヘルズ・ゲート国立公園の中にあり、「地球の割れ目」と呼ばれる大地溝帯(グレート・リフト・バレー)が貫いている場所で、すでに4つの地熱発電所が運営されています。その発電量は合計で480MWに及び、国内の総発電量の約25%をカバーしています。 ケニア国内における地熱発電候補地は、オルカリアだけでなく、大地溝帯沿いに20カ所以上。日本企業も、複数社がプロジェクトに参加して開発を行っています。ケニア政府は、地熱発電を現在の10倍程度に増やし、都市部を中心に増大する電力需要に対応していこうと意欲を燃やしています。

日本企業の技術により新設されたオルカリア4号地熱発電所

日本企業の技術により新設されたオルカリア4号地熱発電所

村のキオスクに電気がやってくる日。子供たちも興味しんしん(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)

村のキオスクに電気がやってくる日。子供たちも興味しんしん
(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)


「WASSHA」のチャージャーボックス。これに太陽光パネルや携帯電話等をつないで充電する(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)

「WASSHA」のチャージャーボックス。これに太陽光パネルや携帯電話等をつないで充電する
(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)

「IT×ソーラー」で、農村部にも電気を供給

ケニアの農村部では、太陽光発電を用い、送電網が整備されていない非電化地域でも携帯電話やLEDランタンの充電などをおこなうことができる「WASSHA」というサービスがはじまっています。
ケニアの村々には、「キオスク」とよばれる、日用品や飲料などを取り扱う小規模商店があります。WASSHAのスタッフはキオスクを訪ねてまわり、サービスに同意してくれたお店に、150Wの太陽光パネル・バッテリー・チャージャーボックス(充電器)・コントローラー代わりの携帯電話を無償貸与します。キオスクの店主は、太陽光パネルで発電した電気をバッテリーに貯め、電気を必要な分だけ住民に量り売りすることで、売上の一部を受け取ることができます。さらに、キオスクでは電気を売るだけでなく、充電式LEDランタンやラジオのレンタルも行っています。 このサービスは、東京大学発のベンチャー企業「デジタルグリッドソリューションズ」が開発したもの。東大の阿部力也特認教授が開発したデジタルグリッド(*2)技術がきっかけとなって生まれました。WASSHAのサービス運営においては、各所でITが活用されていますが、中でも重要なポイントが2つあります。1つめは、各キオスクに貸与している携帯電話からインターネットに接続し、発電量・購入量・充電量などが随時本部で把握できるようになったこと。これにより、現地に行かずとも、各キオスクの状況を一括管理できるようになりました。 そしてもう1つは、WASSHAと店主、消費者が決済を携帯電話で行えること。店主は、あらかじめ、WASSHAからプリペイド式の電力チケット「エアーワット」を携帯電話で購入します。店主が購入したエアーワットは、携帯電話のアプリにチャージされ、チャージされた分だけを利用者に販売することができます。決済の際には「エムペサ(M-PESA)」という電子マネーサービスが利用されています。ケニアでは農村部の電化率は低いものの、携帯電話の普及率は70%を超えるほど。遊牧民のマサイ族も携帯電話を利用しています。そして、携帯電話で使える「エムペサ(M-PESA)」も広く普及しており、これをサービスに組み込んだことが、「WASSHA」を普及させるひとつの要因になっているようです。

再生可能エネルギーの活用が
非電化地域の暮らしを変えるきっかけに

赤道直下にあるケニアでは太陽光発電の効率も良く、また、地熱発電や水力発電のポテンシャルも高いため、再生可能エネルギーを推進するための資源には事欠きません。さらに、独立以来一度も内戦を経験していないなど、政治的に安定していることもあり、各国からのケニアの再生可能エネルギー事業への投資額は、2011年には25億ドルに到達。このことからも、ケニアの再生可能エネルギー開発に対する世界の関心の高さが伺えます。
そういった投資も後押しし、徐々に電気利用が浸透してきた農村部では、少しずつ変化の兆しが見え始めました。「予想外だったのは、携帯電話よりもLEDランタンの充電需要が多い店もあること」と語るのは、デジタルグリッドソリューションズの飯沼俊文さん。露天商が営業用の照明に活用したり、子どもが勉強のために利用したりするなど、「明かり」へのニーズが大きいと話します。 従来、非電化地域では、照明が必要な際はケロシン油と呼ばれる灯油でランタンを灯していました。ケロシン油からは有害物質が発生するため、健康被害が懸念されてきましたが、充電式LEDランタンの利用が広がれば、この問題も解決することができます。現在、「WASSHA」は隣の国タンザニアと合わせて150カ所ほどで稼働。このシステムを手掛けるデジタルグリッドソリューションズは、今後もセネガル、ウガンダやルワンダなど、サービス提供エリアを拡大していく意向を示しています。 さまざまな新しいテクノロジーを組み合わせることで、農村部でも明かりが灯りはじめたケニア。再生可能エネルギーの活用は、アフリカの非電化地域での人々の生活を、少しずつ変えつつあります。

*1 IEA, World Energy Outlook2011
*2 電力をインターネット化する技術。発電設備と需要及び蓄電のまとまり(セル)を多数作り、その間をアドレス付きルーターで結び付ける。

「デジタルグリッド技術を応用して、将来はモバイルラーニングや医療にも役立てたい」と話す飯沼俊文さん(右)(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)

「デジタルグリッド技術を応用して、将来はモバイルラーニングや医療にも役立てたい」と話す飯沼俊文さん(右)
(Photo:デジタルグリッドソリューションズ)