親戚の家にあった掛けぶとんが、とても寝心地がよくて感動しました。ふとんに入った瞬間、体になじんでじんわり暖かくなって……。翌朝聞いてみたところ、「真綿(まわた)」という素材のふとんだそうです。とっても気になるので、探偵さん、調査してください!
体になじむふとんって本当に気持ちいいですよね!「真綿のふとん」は探偵もはじめて聞きましたが、どんな特徴があるのでしょうか。
調べてみると、「真綿のふとん」の中に入っている素材「真綿」を生産しているのは全国でもわずか数軒。そのうちの1軒が滋賀県にあり、「近江真綿」として生産されているそうです。今回は、近江真綿の製造・販売をおこなっている滋賀県米原市の「山脇源平商店」を訪れてみたいと思います!
JR米原駅からタクシーで約10分、「山脇源平商店」に到着しました。
出迎えてくれたのは、9代目社長の山脇和博さんです。「ようこそお越しくださいました。真綿のふとんのこと、なんでも聞いてくださいね」と、とても元気なお声で歓迎してくれました。
さっそくですが、真綿のふとんを見せていただけないでしょうか?「はい、まずは寝心地を体感いただきたくて、掛けぶとんを準備しておきました。触れたり、寝転んだりしてみてください」。
わぁ、ありがとうございます!それでは、さっそく触らせていただきますね。
掛けぶとんを抱き抱えてみると、フワフワな感触にびっくり。さらに、ふとんの中に入って横になると、体全体がやさしく包まれている感覚です。ずっと入っていると眠ってしまいそうです……。
気持ちよさにうっとりしていると、「気に入っていただけましたか?真綿はしなやかに体を包んでくれます。さらに、暖かい上に吸湿・放湿性にも優れているので、汗をかいても心地よく眠ることができるんです。その掛けぶとんの中身も、真綿100%でできているんですよ」と山脇さん。なるほど、本当にやわらかくて絶妙に体になじみます。依頼者さんが寝心地に感動したのも納得です。
ところで、そもそも真綿とはどんなものなのでしょうか?
「真綿は『綿』という字を使うので木綿などと混同されがちなのですが、蚕の繭(かいこのまゆ)を煮て引き伸ばしたもので、シルク(絹)なんですよ」と山脇さん。えっ、ふとんの中身がシルクなんですね!ふとんカバーなどは聞いたことがありますが、中身がシルクとは驚きました。
「そうなんです。これがふとんの中に入っている、真綿の原料です」と、山脇さんは大きさ3cmほどの蚕の繭を見せてくれました。「この小さい繭ひとつの重さはわずか2gほどなのですが、約1,300mもの糸が取れます。先ほど持っていただいたシングルのふとんを1枚つくるには、約3,000個の繭が必要なんですよ」。そんなにたくさん必要なんですね!繭を手に持つと、とても軽くてさらっとした手触りです。この小さな繭が、どのようにしてふとんになるのでしょうか。つくられているところも見せていただけますか?
「もちろんです。こちらへどうぞ」。
真綿づくりの作業場に案内してもらいました。水を張った桶の中で、職人の皆さんが忙しく手を動かしています。
皆さん四角い木の枠に白いものを重ねていっていますね。これは何の作業をしているところですか?「真綿ふとんの中に入る『角真綿』というものをつくっているところです。厚さにムラが出ないように繭をひとつずつ手作業で広げ、4枚重ねて乾かすと、1枚の角真綿ができあがります」。
あの蚕の繭が布のようになっていくんですね。「はい、じっくり煮込んでやわらかくした繭を、中にいるサナギを取り除きながら丁寧に伸ばしていくんです。機械を使わず、職人が手間ひまをかけてつくり上げていきますよ」。
これがふとんの中身になる角真綿なんですね!触ってみると、フワフワとしたやわらかい感触です。あの蚕の繭がこんな形になるなんてびっくりです。
「この角真綿を、さらに加工していきますよ」と山脇さんは建物の奥へと案内してくれました。「ここでは、角真綿を伸ばす『手引き』という方法でふとんをつくっていきます。これも一つひとつ職人の手作業なんです」。
2人の職人さんが息を合わせ、「せーの!」の掛け声とともに角真綿を両側に引っ張ります。すると、1辺20cmほどだった角真綿が、スーッとふとんサイズの幅へと伸びていきます。「シングルのふとんひとつをつくるのに、この『手引き』の作業を600回以上くりかえすんですよ」と山脇さん。
ティッシュペーパーサイズの角真綿が、みるみるふとんの横幅サイズに!
繭から角真綿をつくり、ふとんが完成するまで、約3週間の期間を要するそうです。たくさんの手間ひまをかけ、あのフワフワのふとんができあがるのですね!
ふとんづくりの様子を見せていただいたあと、事務所で山脇源平商店と真綿の歴史についてお聞きしました。
「当社は約290年、真綿とともに歩んできました。真綿はかつて『背負い真綿』といって着物の背中に当てる防寒具として重宝されており、真綿からつくった糸で織りあげた着物も庶民の間で親しまれていました。当社も昔はふとんだけではなく、防寒具や着物用の真綿をつくっていたんですよ」。
「しかし、戦後以降、海外製の安価な絹製品や化学繊維が台頭したことで、真綿の需要がどんどん落ち込んでしまいました。人々の服装が着物から洋服に変わったのも理由のひとつです。そこで、1960年代の高度経済成長期のころから当社も着物から離れ、真綿のふとんをメインでつくるようになったのです」。時代とともに、真綿を使った製品の需要も変わっていったのですね。
真綿と養蚕業の今後の展望についてもお聞きしました。
「真綿の原料となる蚕を育てる農家が減り、真綿をつくっている事業者も数少なくなりました。でも、蚕や真綿にはまだまだ可能性があります。真綿を後世に残していくために、できることにはどんどん挑戦していきたいですね」。
山脇さんは、蚕のエサを確保する桑園づくりなど、真綿だけでなく養蚕業全体を守るための活動もおこなわれているそうです。さらに、繭に含まれる成分を利用した化粧品づくりや、蚕の糞を染料として染色会社に使用してもらうなど、蚕の新たな活用の道を探るために多方面でチャレンジを続けています。
「たくさんの人に真綿を身近に感じてほしいという思いで、どなたでも参加できる角真綿づくりの体験会も開催していますよ。ぜひ参加してみてください」と、語ってくれました。
しなやかに体になじむ、抜群の寝心地の真綿ふとんには、山脇さんの思いがたっぷり詰まっていました。
皆さんも、真綿のふとんで眠ってみませんか?フワフワに包まれて、いい夢が見られると思いますよ。