保育園に通っている孫が「毎日、おでんで手を洗うんだよ!」というんです。アツアツのおでんで手を洗うなんて!?孫がやけどをする前に、「おでんで手を洗う謎」を解き明かしてください!
「おでんで手を洗う」という不思議な話に、探求心をくすぐられた探偵たち。調べてみると、「変わった形の蛇口」を製造している会社を発見しました。もしかしてこれかも?探偵たちはさっそく調査に向かいます。
到着したのは、「株式会社カクダイ」。蛇口などの水道用品を製造しているメーカーです。ここに「おでんで手を洗う」の答えがあるのでしょうか?謎を解明すべく、さっそく突入です。
ワクワクしながら中に入ると、広報担当の川端さんと能島(のうじま)さんが出迎えてくれました。「おでんで手を洗っている子どもたちがいると聞いて、来てくださったんですね。はい、当社でもおでんで手を洗えますよ。ショールームにご案内しましょう」。なんと答えがすぐそこに。今回の調査は、早く終わってしまうかもしれませんよ!
ショールームには、さまざまなデザインの蛇口がズラリ。学校の手洗い場などで見かける蛇口をはじめ、高級ホテルのバスルームにありそうなおしゃれな蛇口、見たことがない形の蛇口まであって、「こんなにいろんな形があるんだ!」と驚きました。
端から順番に蛇口を見ていると、ん?三角頭の、見慣れた形……。形は見慣れているけれど、蛇口としては見慣れない!おでんの蛇口がありました!
三角のこんにゃく、真ん中に玉子、横一文字のちくわ!竹串に刺されたおでんは、本物と見間違えそうなくらい!お皿に置いてあったら、思わず口に入れてしまうかも!?
さて、どこをひねると水が出るのでしょうか?「ははは、すぐにはわからないですよね(笑)。こんにゃくの部分をひねると竹串から水が出る仕組みです」と川端さんが教えてくれました。なるほど、依頼者のお孫さんがいっていた「おでんで手を洗う」とは、おでんの蛇口のことだったんですね!こんなにおもしろい形の蛇口なら、手を洗うのが楽しくなりそう!
「おでんの蛇口のような『おもしろ蛇口』はほかにもたくさんありますよ。こちらをご覧ください」と示された方向を見ると、寿司下駄の上に握り寿司の乗った蛇口が!ショウガやバランまで添えられていて、脂が乗ったツヤ感まで本物そっくりに再現されています。「おもしろいでしょう?これは『まぐろ蛇口って言うてるヤツ、誰や?』という名前の蛇口で、トロをひねればトローッと水が出る仕組みなんです(笑)」。
トロからトローッと(笑)。一見蛇口とは思えない、ひねりのきいたデザインの蛇口に、思わず爆笑してしまいました。
おもしろ蛇口は、食べ物をモチーフにしたデザインだけではありません。ほかにも、蛇口の一部がおなかのように膨らんでいたり、ひねる部分と水の出る部分があべこべになっていたりと、おもしろおかしいデザインの蛇口が並んでいます。
見ているだけでも楽しいおもしろ蛇口の数々。このユニークな蛇口は、何がきっかけで生まれたのでしょうか?能島さんが教えてくれました。
「世の中にないものをつくろう、という企業戦略からなんです。おしゃれな蛇口は、大手メーカーや海外メーカーが手がけていて競争するのは難しい。ではどうやって独自カラーを出すか?と考えたときに、大阪ならではの『お笑いの要素』を取り入れてはどうか、という案が副社長から出たんです。手を洗うとき、おもしろい蛇口を見て笑顔になってほしい、という思いも込められています」。
社内の反応はどうだったのでしょうか。おもしろ蛇口をつくることに、皆さん賛成だったのでしょうか?当時を知る川端さんいわく、「こんな変わったものをつくる必要があるのか?という声もありました。実は私もそのひとりです。変わった蛇口をつくるには新しい技術が必要で、その開発には労力もお金もかかりますからね」。
しかし、不安をよそに「お笑いの要素を取り入れて独自路線をいく」という狙いは、見事成功。2012年に発売した「誰や!メタボにしたん?」を皮切りに、さまざまなおもしろ蛇口が飲食店や学校施設などに採用されはじめたそうです。テレビ番組で取り上げられるなど世間で少しずつ話題になるにつれ、当初は消極的だった社員の皆さんの意識にも変化が現れたのだとか。
「実は、おもしろ蛇口で培った技術が、製品の幅を広げるようになったのです。ひとつの製品を完成させるたびに、開発部門が何度も試行錯誤してオリジナル製法を編み出し、ほかの蛇口製品にも応用しています。おもしろ蛇口を製品化することは、私たちのスキルを磨いて、会社を強くしているんだと皆が気づいたんです」。
おもしろ蛇口シリーズは、これまで約70種類を発売。給水管の長い「びよ~ん」や、本物のヤカンから水が出る「魔法の水」など、大阪ならではの「ウケ狙い」が功を奏し、いずれも大好評を博しているのだとか。
最近では、「おもしろい蛇口がある」というSNSの投稿を見かけることもあるのだそう。能島さんは「特に保育園や動物園などでは、子どもたちが楽しく手を洗えるようにと選んでいただくこともあるようで、とってもうれしいです」と笑います。
今後の展望について尋ねると、能島さんが「今、当社で力を入れているのが、ハンドルについた汚れを水で洗い流すことができる『衛生水栓』などです」と話してくれました。「ハンドルが清潔であることが求められています。そこで、ハンドルが吐水口の下部にあって、水を出すたびにハンドルの汚れを洗い流す蛇口や、レバーを手首で押して水を出す蛇口など、ハンドルの清潔さを重視したいろんな種類の蛇口を製造しているんですよ」。おもしろさだけじゃなく、実用性を備えた蛇口も開発されているんですね。
最後に、「これまでに培ったものづくりの技術や視点をいかして、これからも新しい『カクダイならでは』を展開していきます!」と語る能島さんの目はキラキラと輝いていました。
皆さんも、見て楽しい、使っておもしろい蛇口をぜひ探してみてください!