依頼内容

自転車を漕いでマフラーや手袋といったニットアイテムを作れる機械があると聞きました。調査をお願いします。

だんだん肌寒くなってきて、ニットの暖かさが恋しい季節になってきましたね。さて今回の依頼、自転車で発電する装置は聞いたことがありますが、自転車を漕いでニットを編む機械とはどういうものでしょうか……?探偵たちが調べたところ、その機械は和歌山市の「フュージョンミュージアム」というニット編機の博物館にあるようです。探偵たちは、和歌山駅からバスで約10分の、ショッピングモール内にあるフュージョンミュージアムを訪れてみました。入口で迎えてくれたのは館長の藪田さんと、ミュージアムスタッフの和泉さんです。

左:館長の藪田さん、右:ミュージアムスタッフの和泉さん
左:館長の藪田さん、右:ミュージアムスタッフの和泉さん

お二人の案内で中に入ってみると、見たことのない機械が音を立てて動いています。これが、ニットを編む機械なのでしょうか?藪田さんに聞いてみると、「はい、その通りです。ここは、さまざまなニット編機の展示を通して、編機開発の歴史と『ものづくり』の面白さを学べる体験型ミュージアムなんですよ。ニット編機メーカーの株式会社島精機製作所が運営しています」と教えてくれました。

同社の設立者・島正博会長は、「紀州のエジソン」と呼ばれるほどの発明家だそうです。島会長が初めて開発したのは16歳のとき。それは手編みの内職をする母の負担を減らそうと、手袋本体と手首部分を縫い合わせるための「二重環かがりミシン」でした。そして、1962年、24歳のときに島精機製作所を設立。以来、革新的な編機の数々を作り出し、世界のニット産業を支えてきました。現在、同社が手がける編機は国内外でトップシェアを誇り、エルメスやプラダなど世界的ブランドの洋服の製造にも使われています。

高校時代の島正博会長
高校時代の島正博会長

そもそもどうしてニットミュージアムを設立したのでしょうか?藪田さんはこう教えてくれました。「自分で手と頭を動かしてこそ新しいものを生み出せる、というのが島製機製作所の創業当時からの理念です。ものづくりの面白さを多くの人に伝えるため、このミュージアムを2008年にオープンしたんですよ。それでは、一緒に展示を見て回りましょうか」。

展示コーナーには、古いものから最新のものまで編機が年代順にずらりと並んでいます。まず目に飛び込んできたのが、イギリスで作られた世界最初の靴下編機です。世界に数台しか現存しないそうで、和泉さんいわく「この編機を動かせるのは世界でも藪田さんだけなんですよ」とのこと。藪田さんが実際に操作してみると、ガシャンガシャンと大きな音を立てながら動き出しました。数百年前に発明された機械がまだ動くなんて、当時の高い技術がうかがえますね!

世界最初に発明された編機を動かす藪田さん
世界最初に発明された編機を動かす藪田さん

他にも、ここには歴史的に貴重なニット編機の数々が展示されています。例えば、島精機製作所が1964年に開発した「全自動手袋編機(角型)」。以前は手袋を生産する際、パーツごとに作ってから手作業で継ぎ合わせていましたが、この編機によって最初から最後まで全自動で編み上げられるようになりました。生産性を大幅に向上させたこの技術は、歴史的意義のあるものだと認定され、2017年に日本機械学会によって『機械遺産』に登録されています。また、1995年には、糸1本から1着のニット服を継ぎ目なく丸ごと編める「ホールガーメント®(完全無縫製型)横編機」が開発され、軽くて伸縮性に優れた着心地の良いニットが生産できるようになりました。その技術が注目されて、宇宙ステーションで着用する船内服にも採用されることになったのだとか!こうして、島製機製作所の技術は宇宙にまで飛び出していったんですね。

機械遺産に登録されている「全自動手袋編機(角型)」
機械遺産に登録されている「全自動手袋編機(角型)」
宇宙飛行士の船内服にも採用されました!
宇宙飛行士の船内服にも採用されました!

島精機製作所の初期の機械を集めたコーナーでは、島会長が16歳のときに製作した「二重環かがりミシン」も当時の姿のまま展示されていました。館内を回っていたところ、なんと島会長ご本人にバッタリ遭遇!現場を大切にしているという島会長は、今でもよく工場やミュージアムの様子を見に来るそうです。

創業者の島会長。67年前に製作した二重環かがりミシンとパシャリ!
創業者の島会長。67年前に製作した二重環かがりミシンとパシャリ!

編機の歴史を学べたところで、いよいよオリジナルニット作りへ。体験コーナーに向かうと、横編機と自転車をドッキングした機械が並んでいました。ミュージアム開設に合わせて作られたそうで、名前を「あみ太くん」というそうです。

あみ太くんは1号から4号まで計4台あります
あみ太くんは1号から4号まで計4台あります

あみ太くんで作れるニットは、手袋、コースター、マフラー、ミニクッションカバーの4種類。手袋以外の3つは、自分で絵柄をデザインできます。今回はコースター作りに挑戦してみました。

まずは、ニットのベースとなる色とイラスト部分の色を選び、コンピューターでデザインを作成します。絵心に不安のある探偵は紙に下描きして、それを元に画面上にイラストを描きました。

マイマイ姉妹の妹、マイニを描きました
マイマイ姉妹の妹、マイニを描きました
オリジナルデザイン完成!なかなか上手にできたのでは?
オリジナルデザイン完成!なかなか上手にできたのでは?

イラストができあがったら、いざあみ太くんの元へ。サドルにまたがりペダルを漕ぎ始めると、それに合わせて編機が動き出しました。漕ぐスピードで編み上がる速さが変わり、横のモニターで進み具合を確認できます。ワクワクしながら5分ほど漕ぎ続けたところで、マイニのコースターが出来上がりました!その仕上がりに、達成感でいっぱいの探偵たち。マイマイ姉妹も大満足です。

完成を目指して、頑張ってあみ太くんを漕ぎます
完成を目指して、頑張ってあみ太くんを漕ぎます
ペダルを漕ぎ続けて約5分、コースターが完成!
ペダルを漕ぎ続けて約5分、コースターが完成!

オリジナルニット作り体験は、他府県からも多くの人が訪れる人気コーナー。プレゼント用に作りに来る人も多く、特に敬老の日の前には子どもたちで賑わうそうです。おじいちゃん、おばあちゃんへの世界に1つだけのオリジナルプレゼント、ステキですね!

マフラーやコースターなど、さまざまなオリジナルニットが作れます
マフラーやコースターなど、さまざまなオリジナルニットが作れます

完成したオリジナルニットを手に喜ぶ探偵たちに、藪田さんは笑顔でこう語ってくれました。「こうして、来場してくれる皆さんの楽しむ姿が、私たちにとってのやりがいです。島精機に入社してから約50年間、私はずっと編機の開発に携わってきました。博物館で展示している編機には、どれも非常に思い入れがあります。私の原点であり、人生そのものでもある編機を、ぜひ皆さんに見に来ていただきたいですね」。

フュージョンミュージアムで、ニット編機の開発の歴史を学び、その技術を搭載した「あみ太くん」でオリジナルニット作りに挑戦した探偵たち。実際に自分の手と頭を使ってニットを作ることで、イメージしたものを創造する楽しさや完成したときの達成感など、博物館のコンセプトである「ものづくりの面白さ」を体感できました。編機の歴史や技術に触れ、ものづくりを体験できる博物館に、皆さんもぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

フュージョンミュージアムでものづくりの面白さを学んでみては?
フュージョンミュージアムでものづくりの面白さを学んでみては?
調査完了