兵庫県に、「水族館のトイレ」があるカフェがあるそうです。どんなところか調査して来てほしいです。
山陽電鉄本線にゆったり揺られ、明石市にある林崎松江海岸駅で下車。道路に描かれた魚やタコのかわいらしい絵を楽しみながらしばらく南下すると、そこはもう海水浴場!
「海が近い~!」と興奮しながらふと横を見ると、まさにそこにありました。「水族館のトイレ」と書かれた看板が。
噂の「水族館のトイレ」があるカフェとは、この「ヒポポパパ」のようです。「ヒポポパパ」は今年で32年目を迎える歴史あるカフェ。その存在はまさしく地元の人や口コミを頼りにやって来た人のみが知る“特別なカフェ”といったところでしょうか。
「水族館のトイレ」を目当てにやって来た探偵でしたが、お店に入って真っ先に心を奪われたのは、目の前に広がる素晴らしいオーシャンビュー。
窓際のカウンター席には仕切りのついたカップル席もあり、ムード満点です。
さて、このまままったり海を眺めていたいのはやまやまですが、さっそく例の「水族館のトイレ」へと向かいます。
自動扉を抜けるとそこは……。
まさに絶景の「水族館のトイレ」だった!水槽で囲っているとわかっていても、一歩足を踏み入れると、本当に海の中にいるような感覚に。壁が迫っている分、水族館よりも魚を近くに感じられます。
好奇心に駆られて実際に使わせていただくと、魚がめっちゃ見つめてくる!人に見られているわけではないのに、なんとなく視線が気になってしかたありません。でもこの海との一体感は、クセになる気持ちよさです。
おもしろいしステキだけど、普通じゃない!一体どうしてこんなトイレをつくったのか、どうしても聞きたくなった探偵は、オーナーにお話をうかがってみました。
「ヒポポパパ」のオーナー・宮永さんは、サングラスが似合うとってもダンディーな方。この地で建材業を営む家系に生まれ、小さなころから目の前の海を見て育ったという宮永さんは、大の海好き。ヨットやクルージングが趣味で、現在も明石ヨットクラブの副会長を務めている、まさに「海の男」。
あだ名は昔からなぜか「ムーミン」で、マイヨットにも「ムーミン」とペイントしていたとか。ムーミンがカバに似ていることから、お店の名前はカバを意味する「hippopotamus(hippo)」に由来して「ヒポポパパ」となりました。
「水族館のトイレ」ができたのは、オープンから5年目、つまり27年前のこと。きっかけは、瀬戸内海のクルージング中に経験したある出来事でした。宮永さんは突然トイレに行きたくなったものの、トイレがなく、急きょ海の中で用を足すことに。そこで初めて知ったのは、広大な海の真ん中で用を足すという“究極の解放感”!宮永さんは感動を覚えたといいます。
さらに同時期に訪れた東京の「葛西臨海水族園」で目にしたのは、ぐるぐると回遊するマグロたち。それを見て「マグロたちが泳いでいるあの中心は、どんな風になっているんだろう。そこにトイレがあったらおもしろいんじゃないか?」と思い始めて、「水族館のトイレ」計画へと発展したのです。
複数の建築業者に相談するものの、そんな前代未聞のプロジェクトは不可能だと断られ続けたため、技術職の友人を集めて試行錯誤しながらつくり始めました。水槽の広さは6畳、深さは2m、水量は16トン(水道を6~7時間出しっぱなしにしたくらいの量)にもなるため、水圧によりガラスの継ぎ目が割れて、2回失敗。コンテナの内部や床材などに使われる丈夫なベニヤ板で囲み、なんとか強度問題を解決しました。
しかし、水槽の周りにベニヤ板が見えているのはなんとも不格好。というわけで、助けを求めたのは京都にいる造形美術の専門家。大阪駅の地下の造形も手がけるなど売れっ子だそうですが、「トイレに水族館をつくる!?おもしろい!」と2日で飛んできて、徹夜で作業をしてくれました。奮闘の結果、できたのが本物の岩で型を取ったグラスファイバー製の岩。この岩で周りのベニヤ板はすっかり隠すことができました。こうして「水族館のトイレ」は、思い立ってからたった2ヶ月あまりで完成したのです。
苦労して完成した「水族館トイレ」ですが、維持も大変でした。海の男ではありますが、魚の飼育についてはまったくのど素人だというオーナー。最初の半年間は月額10~20万円ほどで業者に魚の世話や水槽のメンテナンスを頼み、それを見ながら少しずつ学んでいきました。
掃除は年に2回、4月と10月。友人の助けを借りながら、オーナー自ら掃除します。水槽の水は半分だけ抜き、魚が密集している水槽内に足を入れて、ゴシゴシ手洗い。ひとつ30kgほどで、合計1トンにもなるろ過システムを出したり入れたりするキツイ作業も含め、1日半かかります。きれいな水族館(トイレ)の陰には、見えない苦労があるのです。
そんな「トイレの水族館」に棲む魚は約200匹。当初は今より種類も多かったのですが、32年の間に自然淘汰され、強い魚だけが生き残り繁殖していきました。魚だけでなく、水槽の完成後からいるスッポンモドキというカメも、最初は小さな赤ちゃんでしたが、今では50cmほどの大きさになっています。スッポンモドキはときどきしか顔を出さないため、見られた人はラッキーかも!
11月の終わりごろから水槽の補強工事をするので、その機会に新しい魚を入れるかもしれないとのこと。「いい群遊魚がいればいいな~」と楽しそうな様子のオーナーです。
また、「ここは女子トイレでしょ?男性は入れないの?」という男性客の皆さまに朗報です。男性でも、スタッフに声をかけていただければ、女性同伴の条件つきで入れます。おひとりさまの場合は、スタッフの女性が一緒についてきてくれます。残念ながら用は足せませんが……。
「ヒポポパパ」に初めて来るお客さんは、たいていがこのトイレ目当て。お連れの女性を驚かせるため、トイレのことは事前に一切教えないサプライズをたくらむ方もいらっしゃるようです。そのサプライズが成功したとわかるのが、女性が席へ戻ったとき。お連れさんに身振り手振りを交えて「水族館のトイレ」を説明する様子は、遠くで眺めていると、まるで盆踊りを踊っているように見えるのだそう。そんな様子を見ていると「しめしめ」と楽しい気分になるといいます。
海を臨む「ヒポポパパ」にある「水族館のトイレ」は、海を愛するオーナーの思いつきで始まった、ステキなサプライズ空間でした。トイレの扉が開いた瞬間、興奮のあまり、カバさんのように口を大きく開けて驚くこと間違いなしです。
- ヒポポパパ