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2月
バングラデシュは、ガンジス川など3つの大河に囲まれたデルタ地帯に、約1億6000万人の人口を抱える国。北海道と九州を合わせた国土に日本を超える人口がひしめく過密国です。1990年代以降、急激な経済成長を実現し貧困率は改善されつつありますが、その経済成長がさらなる貧富の差を生みだしています。
同国は世界最大のデルタ地帯に位置するため、国土の約8割は海抜9m以下。雨季には国土の約3分の1が水没します。昨今の気候変動による海面上昇や毎年のように発生するサイクロンにより高潮が発生し、住処を失った難民が増加するなど、地球温暖化の影響を現在進行形で受けています。そして、洪水やサイクロンのために送電線の敷設も遅れがちで、農村部を中心とした国民の約半数にいまだ送電網経由で電気を届けることができない状況となっています。
バングラデシュでは、送電網が届いていない地域を中心に太陽光発電システムが普及しており、これまでに約300万世帯にソーラーパネルが設置されました。その中心になっているのが、非営利企業「グラミン・シャクティ」です。「グラミン・シャクティ」は、ユニークなマイクロファイナンス手法により貧困層の経済的自立を支援してきた「グラミン銀行」グループの一つ。再生可能エネルギーを通じた農村での自立支援を目的として、1996年に創設されました。
2014年までに、この事業によって太陽光発電システムを導入した家庭は150万世帯超(図1参照)。オフグリッド*1の太陽光発電システムを世界で最もたくさん設置することに成功した取り組みです。
図1 「グラミン・シャクティ」によるソーラー・ホーム・システム(SHS)設置数(Grameen Shakti webより)
グラミン・シャクティでは、太陽光発電パネルと蓄電池をセットにして、夜間や雨天時でも照明や携帯電話の充電器などが使えるようにしました。現在もっとも人気の高いモデルは400ドルで50ワットを発電することができるタイプです。
太陽光発電システムの他には、コンクリート製のエネルギー効率を高めた「かまど」の提供も行っています。こちらは10ドル程度で設置することができ、月に平均約2万台のペースで普及しつつあります。さらに、牛や鶏などの家畜のふんを原料としたバイオガスを利用できる新型かまども開発され、その設置数は2014年に3万件を超えました。貧しい農村では、かまどの薪を集める労力や費用、かまどから発生する排気による家屋内の汚染などが問題となっていましたが、バイオガスかまどではそういった問題も解消され、さらには森林保護にもつながっています。
グラミン・シャクティでは、「マイクロクレジット」という手法により、家庭用の太陽光発電システムやかまどの導入を行ってきました。
貧しい人々は太陽光発電システムやかまどを設置したくても、「担保がない」「客観的な信用がない」などの理由から、銀行で金融サービスを受けることができません。そんな彼らへの金融サービス提供をはじめたのが、グラミン銀行などのマイクロファイナンス機関です。貧しい人々に対して無担保で少額融資する同銀行を創設したムハマド・ユヌス氏は、2006年にノーベル平和賞を受賞したことでも有名になりました。
たとえば、太陽光発電システムを設置する場合、パネル導入にかかる費用は約300~500ドル。バングラデシュの平均年収の約半分以上の金額です。そこでグラミン・シャクティでは、「マイクロクレジット」という少額融資の仕組みを提供しました。支払方法の面でもさまざまな選択肢を用意し、購入者の資金力によって選ぶことができます。人気が高い支払方法は、頭金10%で残りを42カ月で支払うというプランです。
バイオガスかまどでは、鶏糞などバイオガスの燃料が余っている農家が大きめのかまどを導入し、そこから発生するバイオガスの余剰分を数件の近隣農家に販売する「マイクロ・ユーティリティー」モデルを考案しました。ガスを購入する農家は、薪だと1か月10ドルかかっていたところが、こうやって近隣の家からガスを買うと5ドル程度で済むようになります。一方、ガスを販売する農家はバイオガスの販売収入だけでローンを返済できる、という双方にメリットがある“WIN-WIN”な仕組みです。この支払モデルは太陽光発電システムの導入でも使われています。
マイクロクレジットにより太陽光発電システムを購入した家族と、導入したかまどで調理をする女性(Grameen Shakti webより)
グラミン・シャクティ は、高い失業率が続くバングラデシュにおいて、国内全域に1,000 以上の支店を展開し、1 万人以上の従業員を雇い、雇用の面でも寄与しています。
特に家庭用の太陽光発電システムに関する仕事では、システムの説明要員をはじめ、部品の組み立て・販売・設置など今までにない仕事が生まれ、その雇用数は2011年から2013年の2年間で倍になりました。
グラミン・シャクティでは、農村の人たちにインバーターの組み立て方やコントローラーの充電方法を教えるトレーニング・プログラムを運営しています。受講後は、同社が運営する技術センターから部品を受け取り、それを自宅で組み立て、完成品をグラミン・シャクティに対して再度販売することができます。この「グリーンジョブ・プログラム」は、自宅で働きながら臨時収入を得ることができる新しい仕事として農村部の女性たちに人気となっています。
さらに、グラミン・シャクティでは太陽光発電システムのメンテナンス・サービスも提供しており、そのための雇用も生まれました。太陽光発電システムの設置時に、オーナー向けに発電パネルのケア方法などを説明する仕事や、故障の際のメンテナンスなどが挙げられます。
グラミン・シャクティは、太陽光発電システムというフィールドで、マイクロクレジットの活用、雇用を生み出すトレーニング・プログラム、メンテナンスサービスなどさまざまな活動を展開しています。バングラデシュの農民たちにとって、その活動は単なる自然エネルギーのシステム導入に留まらず、自分たちの経済的自立を実現する「ソーラー革命」といえるかもしれません。
*1 送電系統(電線を伝って電力会社から家などに送られる電力網)と繋がっていない電力システムのこと
家庭用ソーラーシステムのトレーニング・プログラムの様子(Grameen Shakti webより)
Word:Yayoi Minowa