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世界の省エネ

5月

太陽の恵みを余すところなく使う砂漠の中の環境都市「マスダールシティ」

  • アラブ首長国連邦

太陽の恵みを余すところなく使う砂漠の中の環境都市「マスダールシティ」

集光型太陽熱発電所「Shams1」 Shams1 Parablic Trough in Abu Dhabi by Masdar Official

世界でも主要な産油国がひしめく中東地域ですが、今回ご紹介するアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビには、石油に頼らず自然エネルギーを活用する環境都市が生まれています。
それが、太陽光や太陽熱、風力、地熱などの再生可能エネルギーを利用した、ゼロカーボン(=二酸化炭素排出量ゼロ)を目指す都市「マスダールシティ」です。2006年、ムハンマド皇太子の指揮のもと、環境への負荷を減らした持続可能な社会の構築をめざして(もしくは未来の環境都市のモデルとなるべく)開発が始まりました。
石油資源の豊富なUAEですが、地球温暖化などのリスク、また石油という資源がなくなった後のことを考慮し、持続可能な都市モデル・経済モデルを実証するため、いち早くこのような都市開発に取り組んだのです。
アブダビ国際空港からすぐ近く、ペルシャ湾からの熱風が吹きつける砂漠地帯にあるこの都市の面積は約6.5平方km。集合住宅や公共施設のほか、商業施設やオフィスビルを有し、定住人口約5万人、通勤などで訪れる交流人口は約6万人と、今では巨大な都市へ成長しました。

マスダールシティのマスタープラン(全体図)準建築人手札網站 Forgemind ArchiMedia

マスダールシティのマスタープラン(全体図)
準建築人手札網站 Forgemind ArchiMedia

灼熱の太陽が産みだすエネルギーをフル活用

マスダールシティがゼロカーボンを実現するため、特に力を入れて取り組んでいるのが「40℃を超える砂漠の太陽エネルギーをどう使うか」という点です。この都市ではふんだんに降り注ぐ太陽エネルギーを活用した太陽光発電と集光型太陽熱発電(CSP)、太陽熱利用などが積極的に導入されています。
太陽光発電は日本の住宅などでもおなじみですが、太陽熱発電はそれとはまた異なり、鏡などで太陽光を集め、その熱を使って蒸気を作り、タービンを回して発電する方法です。

ここで、マスダールシティが誇る2つの太陽熱発電をご紹介しましょう。
まず一つめは、マスダールシティから南西に約120km離れた砂漠の土地に2013年3月に完成した、出力100MWを誇る集光型太陽熱発電所「Shams1」です。ここでは25万8000枚の鏡で構成された半円形のパラボラ集光鏡が768基も並び、UAEの一般家庭2万軒分をまかなえるほどの電力が生み出されています。

もうひとつの大型太陽熱発電は「ビームダウン型太陽熱発電施設」です。こちらは、「Shams1」と比べて出力は小さいながらも、集光の仕組みもユニークで実験的な試みとして知られています。「Shams1」が集光鏡の中央に液体の流れるパイプ(集熱管)を通して直接加熱するのに対して、高さ20mほどの塔の周辺へ“ヘリオスタット”と呼ばれる鏡を大量に設置し、取り付けられた鏡に太陽光を反射させます。反射した光は塔の下部にある集光器に向かって再反射され、それによって得られた高温の熱で蒸気タービンを回して発電するという仕組み。日本の企業も参加して2009年に完成したこの施設は、出力100kWを生み出しています。

これらのシステムがもたらす電力量を見ると、太陽の熱には、石油や天然ガスに劣らないパワーがあることがわかります。

出力100MWを誇る集光型太陽熱発電所「Shams1」

出力100MWを誇る集光型太陽熱発電所「Shams1」

形がユニークな「ビームダウン型太陽熱発電施設」

形がユニークな「ビームダウン型太陽熱発電施設」

建築物にも、太陽や風など自然と共生する工夫が満載

マスダールシティには、再生可能エネルギー及び持続可能なエネルギーに関する専門家を養成するマスダール科学技術研究所(以下、MIST)があり、施設内には本部となるナレッジセンター(図書館)をはじめ、研究所や学生向けの居住ビルなどが並びます。
そしてもちろん、ここMIST内でも太陽の熱を活用するシステムが採用されています。各施設内で使うお湯のほとんどは、ビルの屋根に設置された太陽熱温水器でまかなわれているのです。

太陽熱ばかりではなく、MISTの中庭に立つ高さ45mの「ウインドタワー(風の塔)」では、風を使った省エネ技術が活かされています。まず、円筒状の塔の天辺から比較的涼しい上空の空気を取り入れ、地上へ向かって通り抜けていく空気を、装置から発生させる霧によって冷やすことで、周りの気温を下げるというシステムで、この地方の伝統的な建築様式による涼を得る方法を取り入れたものです。これにより、MIST内の温度をなんと平均6℃も下げることができるのです。また、このタワーには施設内のビルの省エネ度を可視化する仕組みが備わっています。タワーの一部に設置されたLED照明は、省エネ目標(アブダビの一般家庭の平均使用量より50%以上の省エネ)を達成した場合は緑色、達成できなかった場合には赤色に点灯。赤色の場合には、空調を弱めるなど、省エネ活動がわかりやすくルール化されています。まさに、施設全体における省エネのシンボル的な存在となっているのです。

施設内では他にも、各建物の上部に天窓を配し、昼間は自然光だけで過ごせるなどの工夫もプラスされています。高度な技術で再生可能エネルギーを活用するだけでなく、風や光など自然の力もうまく使って省エネを推進している点が見事です。
地域の過酷な環境条件を、逆に味方につけ、産油国ながら自然エネルギーや省エネの仕組みをベストミックスしているマスダールシティ。この都市のあり方は、未来の環境都市のモデルを見せてくれるかのようです。

上空の涼しい空気を取り入れる「ウインドタワー」

上空の涼しい空気を取り入れる「ウインドタワー」

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