カエルによる夢のお告げ!?
奈良に伝わる「陀羅尼助丸
(だらにすけがん)」を調査
2022/05/09

飲みすぎた夜、義母に「だらすけ出しとくよ~」といわれました。だらすけって何?もしかして、だらしない嫁と思われているのでしょうか?探偵さん、調査してください!
依頼にあった「だらすけ」という言葉、探偵たちも初耳で、まわりに聞いてみても「知らない」の声。そんな中、奈良県出身者から「知っているよ」「私、飲んでいたよ」との返答がありました。どうやら奈良県では知られている飲み物!?のようです。(依頼者さん、安心してください。だらしない嫁ではなさそうです!)
調べてみると、「だらすけ」は奈良・吉野で売っているということがわかりました。一体どんな飲み物なのでしょう。真相を確かめるべく、さっそく調査へ向かいます。
近鉄吉野駅に到着し、昔ながらの町並みが残る参道を登っていくと、ひときわ目を引く「薬」の垂れ幕が見えてきました。ここが吉野で「だらすけ」を売っているお店だそうです。

店頭を見てみると、「陀羅尼助丸」と書かれた箱がずらりとならんでいます。これが「だらすけ」?キョロキョロしていると、突然後ろから「ははは、怪しい薬ではないので安心してください。これは『だらにすけがん』という日本生まれの漢方薬です」。この声をかけてくれたのが、「だらすけ」を代々受け継いできた藤井利三郎薬房の9代目店主、藤井さんです。

さっそく藤井さんにお話をお聞きすることに。陀羅尼助丸は薬なんですね?「はい、私たちは親しみを込めて『だらすけ』と呼んでいます。奈良にお住まいの方は、おなかが痛くなると、『だらすけ飲んどき』と小さいころからいわれたのではないでしょうか」。
なんと、陀羅尼助丸は腹痛の薬だったんですね!でも依頼者さんは飲みすぎたときにだらすけを勧められたみたいでしたが……?「はい、飲みすぎや二日酔いにも効果があるんですよ。主な成分はキハダという木から取れる生薬「オウバク」に、4種類の植物を加えて作られていて、消化不良や過食・過飲、胸やけなどに効果があります。頭痛や車酔いに効く人もいるそうです」。

陀羅尼助丸はおなかのいろんな症状に効果を発揮するんですね!ところで探偵は錠剤を飲むのが少し苦手なのですが、何粒飲めばいいのでしょうか?と藤井さんにお聞きすると「大人は20粒飲んでくださいね」とのお答えが。えっ、20粒も飲むの!?「数だけ聞くとみなさん驚かれますね。でも、1粒が小さいので飲みやすいんですよ」。試しに10粒すくってみた探偵たち。思ったよりも一つひとつの粒が小さくて、ビーズくらい。薬特有のにおいも少ないので飲みやすそうです!
「陀羅尼助丸は、小さいお子さんから大人まで量を調整して服用しやすいよう小さく作っているんですよ。お子さんの場合は、目安として7歳だったら7粒、と年の数だけ飲むといいと思います。自分が飲む量をこのスプーンを使って一回ですくえるか、ゲームのように楽しみながら飲んでくれている子たちもいるみたいですね」。

ところで藤井さんは9代目だそうですが、陀羅尼助丸はいつから飲まれているんですか?「この薬房での販売は約300年前からですが、実は陀羅尼助丸は、薬の起源ともいわれ、1300年以上の歴史を持っているんですよ」。え!そんなに昔からあったんですね!と驚く探偵たちに、藤井さんは陀羅尼助丸の歴史を教えてくれました。
1300年ほど前、山々を崇拝する山岳信仰の開祖・役の行者(えんのぎょうじゃ)が、大峰山に生える「キハダ」には腹痛や火傷、切り傷に治癒効果のあることを発見しました。当時は万能薬として広く使われていて、7世紀の末に疫病が大流行したときには多くの病人がキハダのエキスによって助かったといわれているそうです。
その後、18世紀になり初代藤井利三郎氏がキハダを使用して「陀羅尼助丸」を作り、藤井利三郎薬房を創業。「うちの製品にはカエルのイラストが入っているでしょう。このカエルには、不思議なエピソードがあるんですよ。初代が薬作りに行き詰まっているときに、『三本足で三本指のカエル』が夢の中にでてきて陀羅尼助丸の製法を伝えたそうなんです。初代はこのカエルが役の行者の使いだと信じて、いわれた通りに陀羅尼助丸を作り、完成させました。このエピソードは、陀羅尼助丸の製法とともに私たちの代まで語り継がれています」。

8代目までは陀羅尼助丸の販売のみをおこなってきたこちらの薬房ですが、藤井さんの代からは、お客さんの声を元に新製品の開発にも取り組んでいるそう。「陀羅尼助丸をもっと身近に感じてもらいたい、という思いを込めて作った、全身に使える『和漢石鹸』は、香料などは使わない無添加の手作り石鹸です。陀羅尼助丸の主成分「オウバク」の消臭効果が、気になるにおいを和らげてくれると人気の商品ですよ」。

最後に、藤井さんは今後の目標についてこう話してくれました。「吉野の土地で1300年続いた陀羅尼助丸を、これからも未来へつなげていきたいです。今はまだ、関西の一部でしか知られていませんが、広く日本中の人々のお役に立てたらと思います」。
はじめは探偵たちにとって未知のものだった「陀羅尼助丸」は、1300年ものあいだ人々の健康を守り続けてきた歴史ある薬だったとわかりました。皆さんも、子どもから大人まで服用できる自宅の常備薬として利用するのはいかがでしょうか?

