あの未確認生物に会える!?
奈良のツチノコ共和国へ入国!
2021/07/05

昔、奈良でツチノコが目撃されたと聞きましたが、ツチノコって本当にいるのでしょうか?探偵さん、調査をお願いします。
皆さんは、「ツチノコ」ってご存知でしょうか?ヘビのような見た目で目つきが悪く、平べったい胴体に短い尾が特徴とされる生き物で、昭和40~50年代には全国各地で目撃情報が相次ぎました。しかし、その存在はいまだに確認されておらず、正体は謎のまま……。探偵たちがツチノコについて調べてみると、奈良県下北山村に「ツチノコ共和国」という場所があることが判明!もしかすると、ここに行くとツチノコに会えるのかも!?と、探偵たちはワクワクしながら現地に向かいました。

奈良県の南部に位置する下北山村に到着した探偵たち。山に囲まれた自然豊かな風景を楽しんでいると、ツチノコ共和国の創立者・野崎さんが声をかけてくれました。ツチノコを探しに来たことを伝えると、「ツチノコ共和国へようこそ!ツチノコを見たいなら、まずは、王宮に向かいましょう」と、探偵たちを案内してくれる野崎さん。そして、たどり着いたのは、ゴージャスな宮殿!……ではなく、一軒の民家。ここが王宮?と少し戸惑いながら、探偵たちは中へ入ってみることに。


中に入ると、ツチノコをモデルにしたフィギュアや書籍などがずらり!しかし、王宮と言いながら、やっぱり一般的な民家のように見えますね。きょろきょろと中を見回す探偵たちに、野崎さんはこう教えてくれました。「実は、ツチノコ共和国は、本当の共和国ではなく、下北山村一帯を指す『架空の国家』なんです。国の活動拠点であるこの王宮は、わたしの自宅です(笑)」。なんと、まさかのご自宅だったんですね!村を架空の国家に、さらに自分の家を王宮に変えてしまった野崎さん。なぜこの地でツチノコ共和国を「建国」したのか、まずはその経緯について聞いてみることにしました。

もともと、下北山村出身の野崎さん。一度は大阪で就職しましたが、1979年に下北山村へ戻り、故郷で働き始めました。当時の下北山村では過疎化が進み、村の将来を案じた野崎さんは、1987年から村議会議員を務めるように。そのころ、下北山村は『水と緑の故郷』をキャッチフレーズにして観光PRを行っていましたが、それでは日本の他の地域と差別化できない……という課題に直面していました。その様子を見た野崎さんが、「もっと下北山村らしい特徴はないだろうか」と悩んでいるとき、村内でツチノコを見たという目撃情報が!ツチノコについて村民に聞いてみると、他にも目撃談が出てきました。そして、野崎さんは、「ツチノコをテーマに村をPRしよう!」というアイデアを思いつきます。

ツチノコで村をPRするにあたり、まずは村の人たちにもツチノコに興味をもってもらおうと考えた野崎さん。1987年の村民文化祭で、ツチノコを目撃した村民の証言を聞ける「ツチノコ紹介コーナー」を設置したところ、多くの人が話を聞きに集まってくれました。
さらに、観光客を呼んで、みんなでツチノコ探しをしたら面白いのでは?と、1988年に「ツチノコ探検隊」を企画。ツチノコ探検隊とは、2日間下北山村に滞在し、野山でツチノコを探しながら、村の食材を使った料理や自然を楽しめるイベントです。「企画を盛りあげるために、村長に『ツチノコを捕まえたら賞金を出してほしい』と打診したところ、本当に発見できると思っていなかった村長が『1,000万円出してやろう!』と言ってくれたんです。ただ、その金額だとあまりに高額すぎて現実味がないので(笑)、賞金は100万円にしてもらいました」。このイベントは多くのマスコミに取り上げられたそうで、第1回のツチノコ探検隊は、県内外から約230名もの参加者が集まって大盛りあがり!これを機に、「ツチノコの下北山村」として村の知名度がぐんとアップしました。


「ツチノコ探検隊の目的は、下北山村に注目を集めることはもちろん、村からの情報を発信して、村と関わりを持つ人を増やし、村のファンを作ることにありました。本当にツチノコがいてもおかしくないぐらい、自然豊かな下北山村を多くの人に知ってほしかったんです」と話す野崎さん。そこで、イベントの前後には下北山村ならではの料理でおもてなしするなど、訪れた人たちに「また来たい」と思ってもらえるように工夫を凝らしました。その結果、ツチノコ探検隊は第5回まで開催され、参加者の過半数をリピーターが占めるなど盛りあがりを見せたそうです。

野崎さんがツチノコ共和国を「建国」したのは、第1回ツチノコ探検隊の翌年のこと。建国の目的について、野崎さんはこう語ります。「当時は、地域をミニ独立国に見立てて村おこしをするのが全国で流行していました。探検隊によるツチノコブームが一過性のものにならないよう、下北山村やツチノコと継続的に関われるような仕組みをつくりたかったんです」。村一帯をひとつの「国家」とし、野崎さんの自宅はみんなが集まる「王宮」に。そして、ツチノコ探検隊の参加者を「国民」と呼んでパスポートを交付するなど、遊び心に溢れた国づくりが行われました。

また、「ツチノコ共和国を盛りあげていくには、国民の力が欠かせませんでした」と話す野崎さん。例えば、パスポートの表紙に描かれているツチノコのイラストやパスポートのデザインは、探検隊に参加した国民が手がけたそうです。また、王宮は参加者が寝泊まりできるようにし、その台所用品や布団などは国民がツチノコ共和国に納める税金や寄付金で調達。さらに、イベントの常連はツチノコ共和国の大使や領事となり、それぞれの地元で、ツチノコや下北山村に関する情報を発信してくれました。

しかし、土砂崩れなどの自然災害が続いた影響や、中心メンバーの高齢化にともなう後継者不足などの問題があり、現在はツチノコ探検隊などのイベント活動を休止しています。思うように活動が続けられない中、野崎さんは2018年に当時の活動を振り返る「ツチノコ探検30年記念シンポジウム」を企画・開催しました。「ツチノコ共和国で実施してきたさまざまな取り組みの中には、今でも通用する村おこしのノウハウがあるはず。村の将来を考えるヒントがひとつでもあればと思ったんです」。村の人や、当時のツチノコ探検隊メンバーにも案内を送ったところ、村内外からたくさんの人が参加してくれました。シンポジウムの展示を見ながら、探検隊メンバーたちは、「またツチノコ探しをしたいね」と目を輝かせて懐かしそうに話していたそうです。また、村の若者たちからは、「当時の探検隊の活動内容をもっと深く知りたい」「シンポジウムで得た知見を今後の観光にいかしたい」といった声が挙がりました。そして、後日王宮に保管している資料を見に来てくれるなど、シンポジウムを通してツチノコ共和国の活動に興味を持ってもらえたそうです。

30数年間の活動を通して培った経験を次世代につなげていくため、SNSでの情報発信やイベントの企画など、これからもツチノコ共和国の活動を続けていくそうです。野崎さんは「今後も、若い人たちがツチノコ共和国のノウハウをいかして、下北山村をさらに盛りあげてくれると嬉しいですね」と、期待を込めて話します。
最後に、野崎さんはツチノコへの熱い想いを語ってくれました。「下北山村の自然と歴史のシンボルであるツチノコは、私にとっては『人生の相棒』ですね。ここ数年は目撃情報が途絶えているので、ツチノコがまだ下北山村にいるのか少し心配です……。私はまだ目撃したことがありませんが、きっと実在していると思っています。いつか必ず出会いたいですね!」野崎さんをはじめ、下北山村の人々や、村外から集まった「国民」たちみんなでつくり上げてきたツチノコ共和国。現在も、国民を募集しています。皆さんも訪れてみてはいかがでしょうか?もしかしたら、いつかツチノコがひょっこり現れるかもしれませんよ♪

