紅葉の名所・箕面では、
もみじを食べるって本当!?
2020/10/05

大阪の箕面では、「もみじの天ぷら」という食べ物があると聞きました。秋に紅葉するあのもみじを食べるんですか?探偵さん調査をお願いします。
朝晩は肌寒く感じられるようになり、紅葉の季節が近づいてきましたね。「もみじの天ぷら」なんて、はじめて聞いた探偵たち。見た目がもみじの形をした食べ物なのでしょうか。それとも、紅葉するあの葉っぱが、食べられるのでしょうか。いろんな想像を膨らませながら、探偵たちは箕面に向かうことにしました。阪急箕面駅を出ると、「箕面の大滝」に向かって伸びるメインストリート「滝道」が見えてきました。箕面といえば、滝に真っ赤なもみじが映える絶景が観光スポットとして有名ですよね。とりあえず滝へ行ってみようと滝道を上っていくと、「もみじの天ぷら」と書かれたお店を発見。しかも、滝道のあちらこちらに10軒以上もあります!今回は、その中でも創業80周年の老舗「久國紅仙堂(ひさくにこうせんどう)」でお話をうかがうことにしました。

出迎えてくれたのは、「久國紅仙堂」2代目店主の久國節子さん。もみじの天ぷらを知らないという探偵たちに、「もみじの天ぷらは、箕面の有名なお菓子なんですよ。おいしいので、まずは食べてみてください」とすすめてくれました。もみじの天ぷらってお菓子だったんですね!いただいた探偵たちは食べてみてびっくり。カリッと香ばしい衣の中にもみじの葉っぱが入っていました。ほんのり甘みのある味で、油で揚げてあるのに全然重たくなく、いくつでも食べられそう!


パクパク食べている探偵たちを見た節子さんは嬉しそうに笑いながら、「実は、この滝道のあちこちで販売しているもみじの天ぷらは、とっても歴史のあるお菓子なんですよ。この地域のみんなで大事に守り続けているんです」と説明してくれました。
大滝のある箕面山は、日本で最も古い修行地のひとつだともいわれています。約1300年前、この地を修験道場として開いた役行者(えんのぎょうじゃ)が、箕面山を訪れる旅人たちをもてなそうと、灯明(とうみょう)の油でもみじを揚げてふるまったのが「もみじの天ぷら」の始まりだそうです。

ここで、もみじの天ぷらがどのように作られるのか気になった探偵たちは、その作り方をお聞きすることに。まずは下ごしらえ。もみじの葉を洗って、綺麗に広げ樽の中で1年以上塩漬けにします。「えっ!1年もですか?」とその長さにびっくりする探偵たち。すると、節子さんはこう話してくれました。「塩漬けにする作業は時間も手間もかかるので、塩漬けせずにつくる方法も試してみたんですけど……。やっぱり、塩に漬けるほうが味や風味が格段によくなるんですよね。大変ですけど、おいしいのが一番なので」と節子さんのこだわりが伝わってきます。そして、塩漬けにしたもみじを24時間以上かけて塩抜きし、きれいなものだけを選別しながら1枚1枚揃えて軸を切っていきます。ここまでが下ごしらえで、続いて天ぷらを揚げる工程に進みます。

天ぷらの衣には、厳選した小麦粉、水、砂糖、ゴマを使います。よりおいしさを求めて、使用する銘柄を見直すなど、少しずつ改良しているそうです。節子さんが、油の中に衣をつけた薄いもみじの葉を落とすと、ひらり、ひらりときれいに広がっていきます。そして、お箸でくるり、くるりと何度もひっくり返しながら揚げると完成です。「油の温度調節が大事なんです。温度が低いとべちゃっとするし、高すぎると焦げてしまうんですね。ひっくり返しながら、20分間揚げると、中までこんがり、カラッと揚がるんですよ」。きれいなきつね色に揚がったもみじの天ぷらは、1日かけてていねいに油を切り、袋詰めまで手作業で行います。ちなみに節子さん曰く「カラッと揚げるには、やっぱりガス火が一番!」とのこと。この言葉に、マイマイ姉妹も大喜びです。

天ぷらに使うもみじは、近くに生えているものを採ってくるのでしょうか。節子さんは「いえいえ(笑)、自分たちの手で天ぷらにぴったりなもみじを無農薬栽培しているんですよ」と教えてくれました。天ぷらには、箕面の山に自生している「いろはもみじ」ではなく、柔らかい食用の「一行寺もみじ」という種類が使われています。一行寺もみじは、秋になると赤ではなく黄色に色づくそうです。黄色のもみじを使用することで、天ぷらの色がおいしそうなきつね色に仕上がり、見た目が良いのだとか。

また、黄色く紅葉したもみじを収穫するときは、葉を傷めないように自然に落ちるのを待ちます。落ちてくるもみじを受け止めるために、葉が色づき始める前の10月に寒冷紗(かんれいしゃ)というネットを木の下に張りめぐらせ、その後2〜3週間という短期間でもみじの収穫が行われます。収穫中は、普段はサラリーマンをしている久國家の男性陣や子どもたちも総動員。落ちてきたもみじはすぐに収穫しないと雨などで傷んでしまうので、地元のシルバー人材センターの方々にも協力してもらいながら、毎日収穫しているそうです。まさか栽培から手がけているなんてびっくりです!

もみじの栽培や葉の収穫・塩漬けなど、手間を惜しまず丁寧につくられたもみじの天ぷらは、地元でも愛されていて、手土産にもされているそうです。また、国内だけでなくアメリカやカナダのニュース番組で取り上げられるなど、数年前から色々な国で紹介されるようになり、海外からのお客さんも増えました。箕面の滝を訪れる観光客の人たちは、もみじの天ぷらを買い求め、つまみながら散策されるそうです。カラッと揚がったきつね色のもみじの天ぷらは、万国共通のおいしさなんですね。

最後に、節子さんはこう話してくれました。「やっぱり、お客さんにおいしいと言ってもらえるのがうれしいですね。もみじを収穫するときも、塩漬けにするときも、揚げているときも、いつもおいしいものを食べてもらいたいと思っています。実は、現在もみじを使った新商品を開発中なんです」。
1300年前、箕面山を訪れる旅人たちをもてなそうと生まれた「もみじの天ぷら」。現在でも、製法や味が進化したものを味わうことができます。それは、節子さんや滝道に並ぶお店の人たちが、その伝統や思いを代々受け継いできたから。節子さんたちは、もみじの天ぷらがもっとおいしくなるよう工夫を重ね、他のお店の皆さんとも滝道を盛り上げようと協力し合っています。今年の秋は、箕面で「もみじの天ぷら」を片手にもみじ狩りを楽しんでみてはいかがでしょうか。

