ランドセルを使わない京都の小学生。
学校に行くとき、どうしているの?
2019/06/03

京都の小学生はランドセルを使っていないと聞きましたが、代わりに何を使っているのでしょうか?
近年、教科書のページ数が大幅に増えたり、サイズが大判化する傾向にあります。必然的にランドセルも大型化を余儀なくされるため、重い荷物を持つ小学生の体への負担が問題となっています。そんな中、京都の小学生はランドセルを使わずに通学しているとか。では、一体何を背負っているのでしょうか?謎を解明するために探偵たちが向かったのは、京都・向日市にある「株式会社マルヤス」です。

店舗を訪れると、リュックサックとランドセルを合体させたかのようなデザインの、黄色いバッグが並んでいます。もしかしてこれが京都の小学生が使っているという……。「はい、こちらが『ランリック®』です。京都以外の出身の方には、あまりなじみがないかもしれませんね」と紹介してくれたのは、代表の鈴木さんです。

どれどれ……と手に取ってみると、その軽さにびっくり!「そうでしょう。ランドセルは1kg以上するものも珍しくなく、これに教科書やノートの重さが加わります。ですがランリック®の重量は700g前後。たった300gかもしれませんが、小さなお子さんにとっては大きな差となるんです」と鈴木さん。

ランリック®にはナイロン素材が使われていますが、たくさん荷物を入れても大丈夫なのでしょうか?鈴木さんは「丈夫で長持ちするのが、ランリック®の特徴です!教科書を入れても型崩れしたり破れることはありません」と太鼓判を押してくれました。そのうえ、価格もランドセルより安くなっています。ランリック®はいいことづくしですね!

鈴木さんに、ランリック®をつくった経緯をお聞きしてみました。マルヤスは鈴木さんのお父さんが立ち上げた、小中学校の制服や体操服などを販売する会社。昭和42年に、地元の小学校の校長から、「ランドセルは高価で、購入できない貧しい子どもがいじめられる。これをなんとかしたい」と相談されたそうです。また、当時のランドセルは高価なだけでなく、本革を使っていたために今より非常に重いものでした。そこで、お父さんは「低価格・丈夫・軽量・安全」を軸にした、ランドセルに代わる通学バッグを開発しようと思い立ったそうです。

鈴木さんは自分のお父さんのことを、「発明好きのアイデアマンだった」と振り返ります。そのうえ、手先が器用で日用大工はお手のものだったとか。ランリック®の開発でも、お父さんの発明好きのアイデアマンで器用なところが役に立ちました。まずは市販のランドセルを購入し、分解することからスタート。どのようなパーツが必要なのか、構造はどうなっているのかを把握します。続いて、たくさんの生地見本を取り寄せ、軽くて耐久性のいい生地にこだわりました。さらに、当時は交通事故が増えていたこともあり、小学生を交通事故から守りたいという気持ちから、道路警戒標識と同じく目立つ色合いの黄色と黒のデザインに。手縫いで試作品をつくるなどして試行錯誤を重ね、昭和43年にランリック®が誕生します。

お父さんが手がけたランリック®は、学校関係者や保護者から大好評。発売直後から新聞で取り上げられたため、京都府内の小学校では導入校が次々に増えて、広範囲で児童の通学バッグとして使用されました。

ところで、ランリック®という商品名はランドセルとリュックサックを合わせているようですが、どうしてリックなのでしょうか?「親父は『リュックサック』と言わずに『リック』ってよく言っていてね。それをそのまま商品名に使ってしまったんですよ」と鈴木さん。「ですが、お客さまは『ランリュック』と言う人がほとんどなんですけどね」。

誕生から50年経ち、学校の統廃合や少子化が進んでいますが、ランリック®の販売数は伸びています。ここ数年は、ランリック®のことを新聞などのメディアに紹介される機会が増え、認知度が全国区に広がりました。今年に入ってから奈良でイベントがあり、ランリック®を出張販売したところ、「小学生のときに使っていた!」という声を多数聞いたそうです。全国的に販売していたとはいえ、京都の人しか知らないものと思い込んでいた鈴木さんは、ようやく広範囲に認知されていることを実感したのだとか。「今では関西のみならず、関東にまで広がっています。思った以上にいろんな人に使っていただいていたようで、地道にやってきてよかったですよ」としみじみと語る鈴木さん。加えて、こうやって記事などに取り上げられるようになって、仕事用やアウトドア用に使いたいという問い合わせが全国から相次ぎ、売り上げは伸びています。

さらに、ランリック®は少しずつ進化を遂げており、カラーは黄、赤、紺の3色に。肩ベルトに取りつけて肩の負担を和らげるパッドや、ブザーが見えるだけで防犯になるため、防犯ブザーを取りつけるホルダーなどのオプション品も開発。さらに、たくさんの教科書が入るマチの広いタイプも誕生しました。

写真左下:目立つところに取りつけられた防犯ブザー、写真右下:正面からの見た目が変わらないよう工夫したマチの広いタイプ
ネット販売をしていても、あくまでもベースは地元・京都でと鈴木さんは考えています。お客さまや時代の要望は、オプション品の追加などで実現しつつも、「低価格・丈夫・軽量・安全」という開発時に込めた思いはそのままに、目と手が届く範囲で地道にコツコツ続けていきたいとのことでした。時代やニーズに合わせて進化を遂げ、販売され続けているランリック®。手に取ってみれば、そこに込められた子どもたちへの愛情が伝わってくるかもしれません。

