世界遺産の鑑賞用?
姫路の元祖シースルー観覧車
2017/02/06

姫路にすごく古いけど、大人気の観覧車があると聞きました。古いのにどうして人気があるのでしょうか?
人気の観覧車といえば、たいていの場合は大きかったり、新しかったりするものです。たとえば、吹田のEXPOCITYにある観覧車「REDHORSE OSAKA WHEEL」は、日本一高い123m。ゴンドラの底面がシースルーになっているという点も、大いに話題になっています。また、梅田のHEP FIVEにある観覧車は世界初のビル一体型で、カップルで行く人たちが後を絶ちません。さらに、道頓堀のドン・キホーテには世界初の楕円形の観覧車があります(残念ながら、現在は休止中)。
いずれも比較的新しくて、話題性のある特徴的な観覧車ばかりだから、人気があるのはよくわかります。それなのに古くて大人気の観覧車とは一体……。気になった探偵は、姫路に向かいました。
やってきたのは、姫路市立動物園。遊園地ではなく、動物園の遊戯施設内に観覧車があります。

しかもこの姫路市立動物園があるのは、世界遺産にも認定されている国宝「姫路城」の敷地内!園内のどこからでも姫路城が眺められるとか。歴史と風情たっぷりの動物園に潜入開始です。

姫路城を眺めながら園内を歩いてみると、「のんびりとした小さな動物園」という印象を受けますが、飼育動物は意外にも約100種類・390点と豊富!ゾウやキリンなどの大型動物が見られるし、ミニブタやヒツジやモルモットと直接ふれ合える「ふれあい広場」や、ニワトリやヤギが仲良く暮らす「ミニ牧場」などもある本格的な動物園です。

観覧車がある遊戯施設は、動物園開園の翌年にあたる1952年にオープン。飛行機や汽車、メリーゴーランドといった昔ながらの遊戯具から、モノレール、チェーンタワー、ティーカップ、バッテリーカー、イモムシ列車、エアードーム型施設(赤ちゃん怪獣)なども登場し、約65年もの間、子どもたちを楽しませ続けています。

そんな遊戯施設がある一角でひときわ目を引くのが、こちらの観覧車。高さがたった13.8mと、日本一の高さを誇る「REDHORSE OSAKA WHEEL」のだいたい1/10サイズ。大型化争いを繰り広げる巷の観覧車とは一線を画す、まるでレトロなおもちゃを思わせる不思議な魅力の佇まいです。「いい歳の大人だけど……、カップルじゃないんだけど……、乗ってみたい!」探偵もひと目見てファンになってしまいました。

お話をうかがったのは、7年前からこの観覧車を見守り続ける係員の坂口さん。動物園は市が運営していますが、遊戯施設はいくつかの民間会社が運営していて、坂口さんが所属する宮川鉄工所もそのひとつ。
坂口さんいわく、この観覧車は2代目だそうです。初代から現在の2代目に代替わりしたのは、遊戯施設がオープンした12年後の1964年。初代が壊れたわけではなく、目新しさを狙って新調したわけでもありません。代替わりの理由は、なんと姫路城初の大修理工事。きれいになった姫路城を特等席で見てもらおうと、姫路城がまっすぐに見えるよう数メートル場所を移動させることになり、その際に新しくしたというのです。まさに「姫路城を見るための観覧車」!なんという贅沢!「たぶん日本でいちばん低いけど、いちばん安くて、いちばん景色がいい観覧車やで」と坂口さんは胸を張ります。

左に写っているのが初代。意外にも初代の方が現代っぽい感じがします
それ以降、もう53年も現役で動き続けているこの観覧車。もしかして日本一古いのでは?と思いきや、観覧車研究家の方に聞いてみたところ、恐らく3~4番目ではないかとのことでした。でも、この星のようなお花のような独特な形は「片持ち式ひまわり型観覧車」といって、もう日本でこの動物園にしか残っていないとか。とても貴重な観覧車なんですね。

しかも、こちらはカプセル型ではなくオープンタイプ。いわば吹田の日本一大きい観覧車にも先駆けた、「元祖シースルー観覧車」と言ってもおかしくない(たぶん)。探偵もワクワクしながら乗ってみましたが、開放感バツグンで妙なスリルが……。姫路城をきれいに写真に収めようと立ち上がるとゆらゆらと揺れ(この観覧車は立ち上がってもOK!)、レトロな風貌もあってかドキドキが止まりません!坂口さんが観覧車マニアの方から「この観覧車は日本で2番目にスリルがあります!」と称賛の声を受けたというのも、納得の乗り心地。
そして頂上を過ぎたころには視界を遮るゴンドラもなく、目の前にどーんと姫路城が見えます。まさしく空中の特等席ですね。

あっという間に地上に着きますが、もう1周できるのはうれしいサプライズ。「1周だけやと乗り降りの補助がたいへんやろ。やから2周してもらうんや」と坂口さん。う~ん、確かに!

テレビなどで紹介されたこともあり、土日は1日平均200人ほど、最大で1日1,000人ほど乗ったこともあるというこの観覧車。北海道や東京からわざわざ乗りに来るお客さんや、2日に1回乗るという大ファンも!
こんなにみんなに愛されている観覧車ですが、53年も動きっぱなしだとそろそろ限界?ところが、「いやいや、動物園がなくなるまで動かすで」と坂口さん。毎年年末に行うペンキの塗り替え以外にも、気になるところがあれば坂口さんがしょっちゅう修理しているそう。「塗り直して、つくり直して、塗り直して、つくり直して、ずっと動かすんや」。


大きくて新しい観覧車はもちろんワクワクしますが、小さくて古い、手づくり感あふれる観覧車も味わい深くていいものです。しかも、窓ごしではなく直に世界遺産が見られるとなると、それはもう格別。これからも、世代を超えて愛される観覧車としてみんなを楽しませてくれますように。目指せ100年!坂口さん、お願いしますね。

