依頼内容

友だちが「生駒山上遊園地へ遊びに行ったとき、日本最古のケーブルカーに乗ってきたよ!」と写真を見せてくれました。ところが、そこに写っていたのは、かわいらしく装飾された猫型車両。これが「日本最古」……!?と、驚いています。探偵さん、生駒のケーブルカーに何があったのか、ぜひ調査してください!

日本最古なのに猫型?謎を解きに生駒へ 「日本最古のケーブルカー」と聞くと、探偵は渋い色合いの車体にレトロな装飾が施された、歴史を感じる車両を思い浮かべます。ところが、依頼者さんの写真に写っていたのは猫型車両。日本最古なのに猫!?このギャップ、気にならないはずがありません。さっそく現地で真相を調べてきます!

近鉄奈良線の生駒駅から遊歩道を2分ほど歩くと、近鉄生駒ケーブル鳥居前駅に到着しました。

入口には「Welcome」の文字。なかにはケーブルのりばに誘導する看板があります
入口には「Welcome」の文字。なかにはケーブルのりばに誘導する看板があります

駅の構内へ入ると……いました!ホームに停まっているのは、まぎれもなく猫型車両です。正面には大きな丸い窓、車体には耳、さらに電飾もピカピカ。車両にはミケと書かれています。たしかにかわいい。かわいいのですが、「日本最古」と聞いて想像する姿とは、かなりかけ離れています。これはますます謎が深まりました。

くわしいお話を聞こうと事務所を訪ねると、助役の淺川(あさかわ)さんが出迎えてくれました。

鳥居前駅に停まっていた猫型車両。名前はミケだそうです
鳥居前駅に停まっていた猫型車両。名前はミケだそうです
近畿日本鉄道株式会社 信貴生駒鋼索線区 助役の淺川さん
近畿日本鉄道株式会社 信貴生駒鋼索線区 助役の淺川さん

「日本最古」は車両ではなく路線だった! 日本最古のケーブルカーを調べに来たものの、目の前にいるのは愛嬌たっぷりの猫型車両。これはどういうことなのでしょうか。淺川さんに、さっそく核心を聞いてみました。

「日本最古のケーブルカーを見に来られたのですね。確かに生駒ケーブルは、1918年に日本で最初に開業した、営業用ケーブルカー路線です。 “日本最古”なのは、今走っている車両ではなく、この路線そのものなんです」。

日本で最初に開業……なるほど、最古なのは「車両」ではなく「路線」のことなのですね。

「はい。もともと生駒ケーブルは、宝山寺への参拝者を運ぶために生まれました。その後、1929年に生駒山上遊園地へ向かう山上線が開業し、遊園地を訪れる人々も乗車するようになったんです」。

なるほど、もともとは参拝客を運んでいたけど、遊園地へ遊びに行く人たちも利用するようになったんですね。

「そうなんです。そして2000年に、生駒山上遊園地に当時あった『わんにゃんふれあいパーク』という遊び場にちなんで、『猫型車両のミケ』と『犬型車両のブル』が誕生しました」。

つまり、猫型車両のミケは、遊園地へ向かう人のために生まれた車両だったんですね。日本最古の路線に、遊び心たっぷりの猫。意外な組み合わせと思っていましたが、理由を聞いて納得しました!
しかも、犬型車両もいるんですね。ぜひブルも見てみたいです。

「ミケとブルは交互に運行しているんです。ミケが出発すると、次はブルがやってきますよ」。

それは楽しみ!!ミケの出発を待ちたいと思います!

ミケの相棒、犬型車両「ブル」! ミケを見送ってしばらくすると、山のほうから今度は犬型車両のブルがやってきました。垂れた耳に、ちょこんとかぶった帽子、ペロリと出した舌。どこかとぼけた愛嬌があります。近づくほどに顔の立体感がはっきりしてきます。

近づくほどに顔の立体感がわかる迫力たっぷりのブル
近づくほどに顔の立体感がわかる迫力たっぷりのブル

ミケのかわいさとはまた違って、間近でみるとずいぶん迫力がありますね。

「ブルドッグをモチーフにした車両です。せっかくですから、ブルに乗って宝山寺駅まで行きませんか」。

淺川さんに続いてブルの車内へ。中に入ると、座席が映画館のように段々と高くなっています。珍しい車内に驚いていると、

「急な斜面を走るケーブルカーなので、座りやすいように座席も段々になっているんです」。

と教えてくれました。

急な斜面に合わせて、車内は座席が段々になっています
急な斜面に合わせて、車内は座席が段々になっています

「おかをこえ ゆこうよ くちぶえふきつつ♪」
ブルが出発すると、車内には童謡『ピクニック』のメロディーが流れ出しました。ガタゴトと体に伝わる振動は、普通の電車とはまったく違う感覚です。窓の外で小さくなっていく生駒の町並みを眺めていると、山をぐんぐん上っていることがはっきりわかります。

「鳥居前駅と宝山寺駅の間は約0.9km。標高差にして約150mを、一気に上りますよ!」

淺川さんがそう教えてくれたそのとき、前方から何かが近づいてきました。さっき鳥居前駅で見送ったミケです!

ミケとブルがすれ違うその瞬間……「ニャー!」「ワンワン!」と鳴き声が響きました。それぞれがまるでお互いを確認するかのようにごあいさつ。思わず窓の外に身を乗り出したくなります。

「びっくりしました?ミケとブルがすれ違うときに、それぞれあいさつするんですよ、かわいいでしょ(笑)。実はこの2台、1本のケーブルでつながっている“相棒”なんです」。

えっ、1本でつながっているとはどういうことですか!?

「気になりますよね。それでは、あとで特別な“相棒”ということがわかる秘密の場所へ案内しましょう」。

秘密の場所……?それはぜひ見ておきたいです。

ブルから撮影した、すれ違う直前のミケ。すれ違いの瞬間は、乗客がいっせいに窓の外に注目します
ブルから撮影した、すれ違う直前のミケ。すれ違いの瞬間は、乗客がいっせいに窓の外に注目します

宝山寺駅で発見!生駒ケーブルを支える歴史と仕組み 約6分で宝山寺駅に到着。駅舎へ入ると、さっきまでのミケとブルのにぎやかな世界から一転。開業当時の写真や資料が並び、生駒ケーブルの長い歴史が見えてきます。まるで時間が巻き戻ったような雰囲気の駅ですね。

「宝山寺駅は2023年に開業105年を迎えました。その際に、古き良き生駒ケーブルの雰囲気を感じてもらえるようにと、リニューアルしたんです」。

宝山寺駅には、開業当時の写真や資料がたくさん展示されています
宝山寺駅には、開業当時の写真や資料がたくさん展示されています
開業当時(1918年)のケーブルカーと山を登る参拝客の写真
開業当時(1918年)のケーブルカーと山を登る参拝客の写真

写真や資料を眺めながら、100年以上続いてきた路線の歴史を感じていると、
「では、先ほどお話しした秘密の場所で、ミケとブルが1本でつながっている“相棒”であることをお見せしましょう」。

と、淺川さんはふだんは立ち入ることのできない巻上(まきあげ)機械室に案内してくれました。

扉の前に立つと、向こうから「ゴォーッ」という大きな音が聞こえてきます。どきどきしながら部屋の中をのぞくと、大きな機械がありました。太いケーブルを巻き取ったり送り出したりして車両を動かす、「巻上機」という機械です。これが、ミケとブルを支えているのですね。

「そうです。ミケとブルをこの太いケーブルひとつでつないでいるので、ブルが上ると、ミケが下りる。片方が動くと、もう片方も反対方向へ動く仕組みなんです」。

なるほど。2台が別々に動いているのではなく、1本のケーブルでつながった“相棒”同士なんですね。

猫と犬のかわいい車両が、実は太いケーブルでつながった本当の“相棒”だったとは。見た目のかわいさにも驚きましたが、今度はその仕組みにびっくりです。

ふだんは見ることのできない巻上機
ふだんは見ることのできない巻上機

「さあ、次はさらに上の生駒山上駅へ向かいましょう。宝山寺駅から生駒山上駅へ向かう区間は山上線と呼ばれていて、実はまだ楽しい車両が待っていますよ」。

生駒ケーブルはここで終わりではないのですね。しかもまだほかにも車両が!?淺川さんに案内されて、さらに山の上に向かいます。

ケーキにオルガン!?山上線は乗る前から遊園地気分 山上線のホームへ向かうと、そこに停まっていたのは、なんとケーキの形をした車両!キャンドルやふわふわのクリームでデコレーションされている姿は、見ているだけでお祝い気分になります。猫、犬ときて、次は甘いモチーフ。乗る前から、もう遊園地気分です。

「スイートという車両です。お山のお誕生会をイメージしているんですよ」。

楽しいお祝い気分にしてくれる、デコレーションケーキ型車両のスイート
楽しいお祝い気分にしてくれる、デコレーションケーキ型車両のスイート

ケーブルカーに乗っている時間も、遊園地で遊んでいるような気持ちになりますね。移動時間も楽しんでもらおうという発想がとても素敵です!

「終点は、生駒山上遊園地の入口です。遊園地へ向かう方に、到着する前からワクワクしてもらえるような車両を用意しているんです。まもなくスイートが発車しますよ」。

ケーブルカーが動きはじめると、さらに傾斜が強くなってきました。前に進むというよりも、空へ向かってじわじわ上がっていくような感覚。窓の外では、町並みがどんどん遠ざかっていきます。

「山上線は宝山寺線よりさらに傾斜が急なんです。宝山寺駅から生駒山上駅までの距離は約1.1km、標高差にして約315mを上っていくんですよ」。

「あべのハルカス」の高さが300mだったと思うので、315m……かなりの高さですね。町から数分で山の上まで連れて行ってくれるなんて、ケーブルカーは想像以上に力持ちなんですね。

坂をぐんぐん上っていくスイートの車内には明るい音楽が流れていて、遊園地へ向かう気分がさらに高まります。実はこの音楽は、生駒ケーブルのためにつくられたオリジナルなのだそう。窓の外では、山に囲まれた町と、はるか遠くに連なる山々が見えました。

山上線の車窓から。ぐんぐん上っていくにつれ、眼下に町並みが広がります
山上線の車窓から。ぐんぐん上っていくにつれ、眼下に町並みが広がります

変わっていく景色に見入っていると、向かいの線路から、またまた気になる車両が近づいてきました。今度の車体には音符と鍵盤、さらにリスや鳥の姿も。まるで森の音楽会のようです。

「近づいてきましたね。あれは、オルガンをモチーフにしたドレミです。スイートが“お山のお誕生会”なら、ドレミは“お山の音楽会”をイメージした車両なんですよ」。

すれ違う瞬間に、今度はファンファーレが鳴り響きました。見た目だけでなく、音でも楽しませてくれるなんて、最後の最後までぬかりありませんね。

スイートとすれ違うオルガン型車両のドレミ。陽気な音楽とファンファーレで終着駅まで楽しませてくれます
スイートとすれ違うオルガン型車両のドレミ。陽気な音楽とファンファーレで終着駅まで楽しませてくれます

宝山寺駅から約7分。あっという間に終点の生駒山上駅に到着しました。もっと乗っていたいほど楽しかったです。

鳥居前駅から宝山寺駅の宝山寺線では、ミケとブル。宝山寺駅から生駒山上駅の山上線は、ドレミとスイートが楽しませてくれます
鳥居前駅から宝山寺駅の宝山寺線では、ミケとブル。宝山寺駅から生駒山上駅の山上線は、ドレミとスイートが楽しませてくれます
終点「生駒山上駅」。トリックアートやイラストが描かれ、駅も遊園地の一部のようです
終点「生駒山上駅」。トリックアートやイラストが描かれ、駅も遊園地の一部のようです

ミケたちの先輩は70年以上現役!最後に出会った歴史ある車両 生駒山上駅で山の空気をたっぷり吸って、再びケーブルカーで鳥居前駅へ戻ってきました。楽しい車両をめぐる調査もそろそろ終わり……と思ったところで、ミケやブルとは違う、青と白の落ち着いた車両が目に入りました。

「これは白樺(しらかば)という車両で、1953年から走り続けている現役車両です。相棒のすずらんと一緒に、70年以上も生駒山を上り下りし続けています。ミケたちが点検に入る日に、今も運行しているんですよ」。

1953年から走り続けている現役車両の白樺
1953年から走り続けている現役車両の白樺

70年以上も現役とは驚きです。ミケやブル、スイート、ドレミのような楽しい車両に目を奪われていましたが、そのずっと前から生駒ケーブルを支えてきた車両も、今なお走り続けているんですね。

車内にはシンプルな座席が並び、天井には扇風機。丁寧に手入れされながら走り続けてきた車内を眺めていると、生駒ケーブルの歴史が静かに伝わってきます。

最後に出会ったこの車両で、「日本最古」の路線であることが、ぐっと近く感じられました。

白樺の車内。シンプルな座席と天井には扇風機が残っています
白樺の車内。シンプルな座席と天井には扇風機が残っています

今回の調査でわかったのは、生駒のケーブルカーは1918年に開業した「日本最古」の路線ということ。そして、その長い歴史のなかで、参拝客を運ぶ路線から、遊園地へ向かう人も楽しませる路線へと役割を広げ、ミケ、ブル、スイート、ドレミといった個性豊かな車両が加わってきたことでした。

最初は「日本最古なのに、なぜ猫?」と思った生駒ケーブル。でも実際に乗ってみると、歴史を大切にしながら、乗る人を楽しませる工夫を重ねてきた路線だとわかりました。

古さとかわいさ、楽しんでいただきたいという想いを込めた遊び心。その全部が一緒に走っているところに、生駒ケーブルの魅力がありました。

ミケ、ブル、スイート、ドレミに乗ると、ミケとブル柄のシートに座れるよ
ミケ、ブル、スイート、ドレミに乗ると、ミケとブル柄のシートに座れるよ

  • ※この記事は2026年8月1日時点の情報をもとに掲載しています。

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