依頼内容

大阪府柏原市に、約80年間も人知れず地中に埋もれていた鉄道トンネルがあると聞きました。なんでも、奇跡が重なり、当時の姿をとどめた状態で発見されたそうです。いったいどんな「奇跡」が重なったのか、とても気になります。探偵さん、鉄道トンネルがなぜ地中に埋もれてしまい、どうやって発見されたのか調べてください。

幻の鉄道トンネルを調べるために、亀の瀬地すべり歴史資料室へ 約80年間も土の中に埋もれていたなんて、そんな幻のようなトンネルがあるとは驚きました。なぜ当時の姿のままで残っていたのでしょうか?探偵もぜひ知りたいです。

調べてみると、明治時代につくられた「旧大阪鉄道亀瀬隧道(かめのせずいどう)」というトンネルのことのようで、国土交通省近畿地方整備局 大和川河川事務所が管理しているそうです。
詳しいお話を聞くために、大和川河川事務所に連絡すると、旧大阪鉄道亀瀬隧道の近くにある「亀の瀬地すべり歴史資料室」までお越しください、とのこと。さっそく、現地に向かいました。

JR大和路線(やまとじせん)の河内堅上駅(かわちかたかみえき)を下車し、大和川を右手に見ながら龍田古道(たつたこどう)を1.5kmほど歩くと、亀の瀬地すべり歴史資料室に到着しました。

亀の瀬地すべり歴史資料室の前庭には、地名を記した案内板があります
亀の瀬地すべり歴史資料室の前庭には、地名を記した案内板があります

旧大阪鉄道亀瀬隧道の発見につながった複数の奇跡とは!? 亀の瀬地すべり歴史資料室の前では、大和川河川事務所の堀川さんが待っていてくれました。

旧大阪鉄道亀瀬隧道について教えてくれた大和川河川事務所の堀川さん
旧大阪鉄道亀瀬隧道について教えてくれた大和川河川事務所の堀川さん

本日はよろしくお願いします。旧大阪鉄道亀瀬隧道が、埋もれていた理由や見つかった経緯について調査に来ました。

「こちらこそよろしくお願いします。話だけでは伝わりにくい部分もありますので、まずは、発見された旧大阪鉄道亀瀬隧道にご案内しましょう!」。

堀川さんの案内で、資料室の建物から5分ほど坂道を下ると、「旧大阪鉄道亀瀬隧道」と記された入口が見えてきました。幻の鉄道トンネルの入口へと到着したようです。

「旧大阪鉄道亀瀬隧道」と書かれたトンネルの入口です。先は暗くなっていて、よく見えません
「旧大阪鉄道亀瀬隧道」と書かれたトンネルの入口です。先は暗くなっていて、よく見えません

堀川さんのあとに続き、ワクワクしながら暗いトンネルの中へと足を踏み入れると、視界が一気に灰色で包まれました。どうやらコンクリートでできたトンネルのようです。

入口から10歩ほど進んだトンネルの内部。トンネルはコンクリートでつくられています
入口から10歩ほど進んだトンネルの内部。トンネルはコンクリートでつくられています

80年前に埋もれたと聞いていたのでもっと古いトンネルをイメージしていたのですが、最近つくられたような綺麗なトンネルですね。これが明治時代につくられた旧大阪鉄道亀瀬隧道ですか?

「いえいえ、これは2010年に完成した『排水トンネル』です。地中の水を排出するためにつくられました。旧大阪鉄道亀瀬隧道は、もう少し先にありますよ。さあ進みましょう」。

まっすぐ進むと、排水トンネルと交差する左右に伸びる空間があらわれました。
トンネル内で十字路のように通路が交差しているのを見るのは、はじめてです。

「確かに、交差するトンネルは、あまり見かけませんよね。排水トンネルと交差しているのが旧大阪鉄道亀瀬隧道です。十字路まで進み右側を見てください」。

十字路を右に進んだ通路の奥が旧大阪鉄道亀瀬隧道。右の図は鉄道トンネルまでの進路
十字路を右に進んだ通路の奥が旧大阪鉄道亀瀬隧道。右の図は鉄道トンネルまでの進路

あっ、奥のほうにレンガでできたトンネルが見えます!あれが約80年間も土の中に埋もれていた鉄道トンネルなんですね。

「そうですよ。近づいてみましょう!」。

鉄道トンネルに向けて進んでいくと、次第に全貌が見えてきました。
結構長いんですね。

「現存しているレンガづくりのトンネル部分は約40mです。幅は約4.3m、高さは約4.8mですよ」。

レンガづくりの旧大阪鉄道亀瀬隧道
レンガづくりの旧大阪鉄道亀瀬隧道

一番奥は、土砂のようなもので埋まってしまっているように見えますね。

「はい。トンネルの奥は完全に土砂で埋まっています。ぜひ近くまで寄って、見てください」。

旧大阪鉄道亀瀬隧道の奥側は土砂で埋まり、行き止まりになっています
旧大阪鉄道亀瀬隧道の奥側は土砂で埋まり、行き止まりになっています

近くで見ると、隙間がないほど土砂で埋まっているのがわかりますね。今にも押し寄せてきそうな迫力です。いったい何があったのでしょうか。旧大阪鉄道亀瀬隧道が、土の中に埋まった原因を教えてください。

「1931年から1932年にかけてこの辺りで発生した大規模な地すべりが原因です」。

地すべり……、がけ崩れとは違うのですか?

「はい、実は違うんですよ。地すべりは、地下水などの影響によって斜面が下方向へゆっくり移動する現象です。一方、がけ崩れは、雨や地震などの影響によって急激に斜面が崩れ落ちることをいいます」。

斜面が崩れるスピードが大きく違うのですね。

「そうですね。斜面がゆっくり移動する地すべりによって、全長439mあった旧大阪鉄道亀瀬隧道はすべて地中に埋もれて、完全に崩落したと考えられていました。しかし、私たちが今いる部分だけは奇跡的に崩落せず、ほぼ当時の原形をとどめた状態で残っていたんです」。

全壊したと思われていたなかで、この場所だけが崩れずに残っていたなんて、驚きですね。

「トンネルの一部が残っているのは、周囲の地層と関係があったといわれています。旧大阪鉄道亀瀬隧道のまわりはほとんどが土砂だったのですが、発見された部分の周囲だけはかたい岩盤層でした。強度が高かったため崩落を防ぐことができたのではと考えられているんです」。

岩盤がかたくて、潰れなかったんですね。すべて崩れたと考えられていた旧大阪鉄道亀瀬隧道は、なぜ発見されたのでしょう?

「先ほど通ってきた排水トンネルをつくるために、地中を掘っていた2008年に偶然発見されました。実は、排水トンネルは地すべり対策用につくった施設なんです」。

発掘調査などで見つかったのではなく、地すべり対策の工事中に発見されたというのはすごい偶然ですね!

「そうですよね。別の場所に排水トンネルをつくっていたら見つかることはなかったでしょうし、この場所でも、旧大阪鉄道亀瀬隧道の下側を掘り進んでいたら、やはり見つからなかったと思います。排水トンネルをつくった場所も、掘った位置も、旧大阪鉄道亀瀬隧道を発見するには、『ここしかない』というほど唯一のポイントでした」。

なるほど。大規模な地すべりがあったのに、この部分だけ崩落せずに残っていたことも奇跡で、発見できたことも奇跡だったのですね。

「はい。そもそも旧大阪鉄道亀瀬隧道の存在自体、ほとんど忘れ去られていましたからね」。

まさに、奇跡の連続で発見された幻のトンネルなんですね!

列車が走っていた痕跡が、今も天井に残っている!? 旧大阪鉄道亀瀬隧道は、何年くらい使われたのでしょう?

「大阪と奈良を結ぶ旧大阪鉄道のトンネルとして1892年2月2日に開通し、約40年は列車が走っていました。当時は蒸気機関車だったんですよ。列車の運行を物語るものが、トンネルの天井にあります」。

天井ですか……あっ!天井のレンガが、広範囲にわたって黒く変色していますね。

「この黒ずみは蒸気機関車が煙突から吐き出すススが付着したものなんです。蒸気機関車が長年にわたり運行していた証です」。

天井部分のレンガは、ススで黒ずんでいます
天井部分のレンガは、ススで黒ずんでいます

レンガの色でわかることがあるのですね。あれ?レンガの一部が、窓みたいに切り抜かれていますね。

「この窓は、トンネルの内側から、周囲の地層を観察するためにつくられたと考えられています。ここ亀の瀬は、昔から地すべりが多発する地域だったので、危険が迫っていないか定期的に確認していたのでしょう」。

切り抜かれた穴は、観測窓と考えられています。奥に地層が見えます
切り抜かれた穴は、観測窓と考えられています。奥に地層が見えます

60年以上も続く、亀の瀬の地すべり対策 地すべりで土に埋まった旧大阪鉄道亀瀬隧道が、地すべりを防ぐための工事で見つかったというのは、なんだか運命的なめぐり合わせのようで興味深いお話ですね。

「実は亀の瀬と地すべりは切り離せない関係なんです。地すべりとして記録に残っているのは明治時代以降になるのですが、約4万年前の旧石器時代から亀の瀬では地すべりが起きていたと考えられています。亀の瀬付近について、万葉集では『恐(かしこ)の坂』と表現されており、当時から人々が恐怖を感じていたことがうかがえます」。

そんなに昔から地すべりが発生していた場所だったんですね。

「日本全国におよそ1万ヶ所ある地すべり地のなかでも、亀の瀬は長さや幅など国内最大級なんですよ。そのため、1962年から対策工事をはじめ、現在も継続中です」。

1962年ということは……60年以上も対策工事をおこなっているのですか!?

「はい。もしも今、亀の瀬で地すべりが発生したら、その想定被害額は約6兆円といわれています。人々の命と暮らしを守るために、絶対に必要な対策です」。

6兆円ですか……。想像もできないほどの被害になるんですね。

「地すべり地付近の直接的な被害に加え、発生した土砂などで大和川がせきとめられ、逆流することで奈良盆地が水没すると考えられています。さらに、大阪側に水があふれ出して、大阪平野も水没する恐れがあります。だからこそ、『もう、すべらせない!!』を合言葉に、現在も懸命に対策をおこなっていますよ。対策工事によって、1967年以降は一度も地すべりが発生していません」。

地すべり対策工事の必要性を語る堀川さん
地すべり対策工事の必要性を語る堀川さん

旧大阪鉄道亀瀬隧道が土砂で埋まって行き止まりになっている様子を間近で見せてもらいましたが、あの土砂が流れ込んできたらと思うと、ぞっとします。

「旧大阪鉄道亀瀬隧道をご覧いただくことで、地すべりの危険性や対策工事をおこなう意義を知っていただきたいと思っています」。

旧大阪鉄道亀瀬隧道や排水トンネルをめぐるガイドツアー 旧大阪鉄道亀瀬隧道は、地すべりの危険性を今に伝える役割もはたしているのですね。一般公開はされているのでしょうか?

「はい。完全予約制ですが、無料のガイドツアーを開催しています。亀の瀬地すべり歴史資料室で地すべりについて解説したあとで、実際に排水トンネルと旧大阪鉄道亀瀬隧道をご案内していますよ。排水トンネルと旧大阪鉄道亀瀬隧道の内部へ入れるのは、ガイドツアーの参加者のみです」。

ガイドツアーを通じて、地すべりに関する理解が深まりますね。ぜひ見どころを教えてください。

「地すべり対策の要である排水トンネルの内部に入り、そのしくみや役割を間近で見ることができます。さらに、鉄道トンネル内では、プロジェクションマッピングを上映しており、たいへん好評です。今では年間で約2万人が参加され、特に土日はすぐ定員に達してしまうほど、人気のツアーとなっています」。

プロジェクションマッピングでは、トンネルを鉄道が走るイメージ映像などを見ることができます
プロジェクションマッピングでは、トンネルを鉄道が走るイメージ映像などを見ることができます

約80年間も地中に埋もれていた鉄道トンネルについて調べると、地すべりについての危険性や対策の重要性についても知ることができました。
皆さんも、旧大阪鉄道亀瀬隧道の内部に入れるガイドツアーに参加してみてはいかがでしょうか?

幻のトンネルを実際に見て、マイマイたちも地すべりの怖さを学びました
幻のトンネルを実際に見て、マイマイたちも地すべりの怖さを学びました

  • ※この記事は2025年7月1日時点の情報をもとに掲載しています。

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