依頼内容

JR東西線の北新地駅に、キリンのような巨大な銅像がありますが、あれはキャラクターかなにかでしょうか。探偵さん、調べてきてください。

JR東西線 北新地駅の西出口と東出口のちょうど中間、大阪駅から北新地駅にまっすぐ歩いて来たところに、大きな銅像があります。「銅像の存在は知っているけれど、何の銅像かはよくわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、銅像の寄贈元「大阪広告協会」を訪ねてみました。

大阪広告協会に保管されていた謎の銅像のミニチュア。台座にちょこんと座る姿が愛らしいです
大阪広告協会に保管されていた謎の銅像のミニチュア。台座にちょこんと座る姿が愛らしいです

大阪広告協会の方におうかがいすると、この銅像は大阪広告協会創立50周年記念事業の一環として制作されたモニュメントで、待ち合わせをしていた恋人がなかなか現れず、そのまま眠ってしまった娘恐竜だそうです。

米俵のリュックは、堂島に米市場があったことにちなんだもの
米俵のリュックは、堂島に米市場があったことにちなんだもの

大阪広告協会は広告のプロ集団。「待ち合わせ場所のシンボルにもなるものをつくろう!」というコンセプトのもと、こだわりの強いプロたちから、あ~でもないこ~でもないとたくさんのアイデアが出ました。はじめは「東京のイヌ(ハチ公)」に対して「大阪のネコ」ということでまとまりかけていたのですが、さらなる高みを目指すべきという理由で一度白紙に。協会に所属するあらゆるクリエイターから新たなアイデアを募ったところ、集まった案は200点以上。その中から10点にまで絞り込んだものの決まらず、最後は人気投票でようやく個性的な女の子の恐竜「キタノザウルス」に決定しました。

キタノザウルスの台座に添えられているプレート
キタノザウルスの台座に添えられているプレート

ようやく誕生したキタノザウルスですが、いったいどうして北新地駅に?実は、もともと大阪駅に設置される予定だったのですが、大阪駅にはすでにたくさんのモニュメントがあったため、残念ながら白紙に。そして、たまたま同じタイミングで新駅として北新地駅が誕生することから、現在の場所に白羽の矢が立ったのです。

除幕式は盛大に行われ、新聞各社でも報道されました
除幕式は盛大に行われ、新聞各社でも報道されました

紆余曲折をへて、ようやく北新地駅に設置されたキタノザウルス。完成後は除幕式が盛大に開かれ、その様子が報道されたり、キャッチ―な誕生記念ソングまで発売されたりしました。それだけでなく、設置から3~4年ほどは「キタノザウルスを大阪の待ち合わせ場所に!」と、深夜ラジオのCMもバンバン流すなど、大々的にPRされました。にもかかわらず、待ち合わせ場所としてそれほど活用されることはありませんでした……。

「これからも待ちつづけます」だなんて、恐竜といえども純情派
「これからも待ちつづけます」だなんて、恐竜といえども純情派

大々的に売り出してデビューしたのに、その後は鳴かず飛ばず。キタノザウルスは、なぜ大コケしたアイドルのようになってしまったのでしょうか。大阪広告協会の方はこう推測します。「北新地駅ができた1997年は、ちょうど携帯電話が普及しはじめた時期で、ここは電波が届かなかったんですよね。だから待ち合わせ場所として使いにくかったのではないでしょうか。連絡を取る手段がないからこそ待ち合わせ場所が必要なんですけどね」

見えにくい足の裏にこんなメッセージを入れたのは「幸福は見えにくいけど、すぐそばにある」という思いから
見えにくい足の裏にこんなメッセージを入れたのは「幸福は見えにくいけど、すぐそばにある」という思いから

そして、2015年。誕生から20年近く忘れられた存在になっていたキタノザウルスに、ようやく転機が訪れました。かわいそうなキタノザウルスをずっとそばで見守って来た北新地駅の駅員さんたちから「キタノザウルスに、もっとスポットライトを浴びてほしい!」という声があがったのです。そしてついに、その年のクリスマスシーズンから、駅員さんたちによるキタノザウルスの飾りつけが始まりました。


題して、「キタノザウルス・コレクション、略してキタコレ(炎の探偵社勝手に命名)」!

キタコレ 2015冬 クリスマスをモチーフに
キタコレ 2015冬 クリスマスをモチーフに
キタコレ 2016夏 夏のトレンドアイテムを積極的に取り入れて
キタコレ 2016夏 夏のトレンドアイテムを積極的に取り入れて
キタコレ 2016秋 「地下でも季節を感じてほしい」と秋の植物をあしらいました
キタコレ 2016秋 「地下でも季節を感じてほしい」と秋の植物をあしらいました
キタコレ 卒業 「キタノザウルスも卒業していなくなっちゃうんですか!?」とみどりの窓口に駆け込んできた女性も
キタコレ 卒業 「キタノザウルスも卒業していなくなっちゃうんですか!?」とみどりの窓口に駆け込んできた女性も

コーディネイトを担当しているのは、通常業務に加えて接客向上もおこなう「おもてなしグループ」に所属する約10名の駅員さんたち。アイデアを練るのはリーダーの濱田さんです。方針が決まると、それぞれが日勤のときや夜勤の泊り明けに居残って、買い出しを含め2週間ほどかけて少しずつ完成させていくそうです。「みんな楽しんで積極的に参加していますが、アイデア出しだけは毎回苦労しています……」と濱田さん。「手づくり感やあたたかみが出るように」「風で装飾が落ちないように」「去年と同じではなく、お客さまにインパクトを与えられるように」と頭をひねらせるのだとか。

「キタノザウルスのまだ来ぬ彼氏をつくってみました」とやさしい濱田さん
※写真は3月取材時。現在は制服が変わっています。
「キタノザウルスのまだ来ぬ彼氏をつくってみました」とやさしい濱田さん
※写真は3月取材時。現在は制服が変わっています。

そうして飾りつけをしていくうちに、今までほとんど誰からも注目されなかったキタノザウルスのまわりに、少しずつ人が集まってくるようになりました。写真を撮る人やそれをSNSに投稿する人が増えたり、子どもたちがさわりに来たり、ときどき待ち合わせ場所として使われるようになったりと、じわじわ認知されてきています。

取材時、なんと実際にキタノザウルスの前で待ち合わせをしている人を発見!
取材時、なんと実際にキタノザウルスの前で待ち合わせをしている人を発見!

「キタノザウルスはこの駅にとって大切なシンボルで、飾りつけをするうちにどんどん愛着が湧いてきました。今では妹のような存在ですね」と濱田さん。「これからも2ヶ月に1度は着替えさせたいのでお楽しみに!」

山村駅長と濱田さん。駅長が持っているのは、キタコレの装飾で大量につくった靴下の雪だるま
※写真は3月取材時。現在は制服が変わっています。
山村駅長と濱田さん。駅長が持っているのは、キタコレの装飾で大量につくった靴下の雪だるま
※写真は3月取材時。現在は制服が変わっています。

今は誰もが携帯電話を持っていて、現地集合が増えている時代。でも待ち合わせ場所で人を待つことは、何ともいえないワクワクドキドキ感があるものです。「今日はちょっと待ち合わせして行こうか」という日をつくってもいいかもしれませんね。そんなときはぜひ北新地駅のキタノザウルスで。楽しい装飾を眺めながら、ほっこりとした気分で待っていれば、あなたの待ち人はすぐに「キタ!」るかも!?

彼氏は来ないけど、なんだか最近ちょっぴりしあわせなキタノザウルスです
彼氏は来ないけど、なんだか最近ちょっぴりしあわせなキタノザウルスです
調査完了