依頼内容

奈良公園にはシカが何頭いるのでしょうか?そもそも数えたりしているのでしょうか?他にもシカのおもしろい話があれば、教えてください。

観光地や修学旅行先として人気の奈良公園(奈良県奈良市)は、シカがたくさんいることで有名ですね。でも一体、シカは全部で何頭いて、どうやって数えているのかということは、あまり知られていません。気になった探偵たちは、さっそく奈良公園に行ってみました。

「シカせんべいどうぞ~!」
「シカせんべいどうぞ~!」

かわいいシカにおせんべいをあげながら、ぶらぶら奈良公園内を歩いていると、、、、「一般財団法人 奈良の鹿愛護会」(以下「愛護会」)という看板を発見!きっとシカのことについて詳しい人がいるに違いないと、突撃訪問してきました。

「一般財団法人 奈良の鹿愛護会」を突撃!
「一般財団法人 奈良の鹿愛護会」を突撃!

突然の訪問にも関わらず快くお話を聞かせてくださったのは「愛護会」の宇津木さん。シカの数に関する疑問の答えをはじめ、シカにまつわる様々なおもしろい話を教えてもらえました。

「愛護会」で働き始めて8年目だという宇津木さん。
「愛護会」で働き始めて8年目だという宇津木さん。

そもそも奈良公園にシカがたくさんいるのは、園内にある春日大社が創建された際(768年)に、祭神が白いシカに乗ってやってきたという伝説が関係しています。“神の使い”とされ、手厚い保護を受けてきた奈良のシカでしたが、実はその過剰ともいえる手厚さに反発した人々や戦争の影響で、2度激減しています。戦後は1957年(昭和32年)に国の天然記念物に指定され、また頭数を徐々にもどし、50年ほど前からは約1,000~1,200頭くらいで推移しています。きっと、これがシカたちにとって自然な数なのでしょう。2015年の頭数調査では1,191頭が確認されました。

いちばん左端が、戦前。ガクンと落ちているのが、終戦時。
いちばん左端が、戦前。ガクンと落ちているのが、終戦時。

さて、肝心のシカの数え方ですが、意外とアナログ。毎年7月15日・16日の計2回、「愛護会」のみなさんが中心となり、奈良公園中を歩いて数えているそうです。「愛護会」のみなさんだけでは手が足りないので、ボランティア団体の方々や奈良の大学の学生さんたち、春日大社の神職さんや、奈良公園のお土産屋さんまで、合計40名ほどが協力して数えています。

カウンターを持って数える人、メモに正の字を書いて数える人…と人それぞれ。
カウンターを持って数える人、メモに正の字を書いて数える人…と人それぞれ。

毎朝、奈良公園の東側に位置する若草山からエサを求めて下りてくるシカの習性を利用し、調査は早朝5時からスタート。シカ数えのベテランをリーダーとした1組4人ずつのグループに分かれ、それぞれのルートのスタート位置に着きます。そして山から下りてくるシカを迎えるように、奈良公園西側から東側に向かって同時に出発。テクテクと歩きながら、自分たちの目だけで地道に数えていくのです。しかも単純な数だけでなく「オスジカ」「メスジカ」「子ジカ」に分類して数えるというのですから驚きです。

スタート1から同時に山に向かって歩き始め、スタート2・3でまた歩調を合わせます。
スタート1から同時に山に向かって歩き始め、スタート2・3でまた歩調を合わせます。

基本的に朝のシカたちは朝食の時間ですが、たまに数えている途中に走ってどこかへ行ってしまうシカもちらほら。そんなときは隣のルートを担当しているグループと「おーい!そっちに行ったぞー!」と声を掛け合ったり、無線で連絡を取り合ったりしながら数えます。頭数調査は、合計1時間ほどと思いのほか短時間で終了。毎回、安定的に数えることができているそうですが、過去に一度、頭数調査中に野犬が迷い込み、シカたちが驚いてめちゃくちゃになったこともあったのだとか。ちなみに、その時は仕方なく、日を改めて数え直したそうです。

若草山にいるシカは、ドライブウェイで山頂まで上がり、山を下りながら目視!
若草山にいるシカは、ドライブウェイで山頂まで上がり、山を下りながら目視!

ところで、「愛護会」の事務所は奈良公園の中の鹿苑(ろくえん)という場所にあります。この鹿苑は、交通事故に遭ってケガをしたシカや病気になったシカ、好奇心が旺盛で畑などに入ってしまうなどして人と共生するのが難しいと判断されたシカたちを保護・治療する場所です。また、妊娠中の母シカも、無事出産期を終えるまで保護しています。2015年の調査では、鹿苑内に保護されているシカは304頭。奈良公園内(鹿苑以外)にいる1,191頭と合わせると、合計で1,495頭にもなります。

取材時はちょうどの出産ラッシュ!生まれたての子ジカ、かわいい!
取材時はちょうどの出産ラッシュ!生まれたての子ジカ、かわいい!

その内訳を見て、少し疑問に思うことがありました。奈良公園内ではメスが多く(オス204頭、メス788頭)、一方、鹿苑内で保護されているシカでは、オスの方が多いのです(オス186頭、メス124頭)。まず、奈良公園内にメスが多いことの理由として考えられるのは、寿命の違い。メスが約20年なのに対し、オスは約15年とやや短命です。人間と同じですね。またオスが多い理由として、秋の繁殖期に縄張りを持つオスは、メスを囲い込もうと必死になるあまり道路に飛び出して、亡くなってしまったり奈良公園周辺部で鹿苑に保護されたりすることが多いということも原因だといいます。

某国民的アイドルグループの影響で、大ブームの「シカ飛び出し注意」のステッカー。
某国民的アイドルグループの影響で、大ブームの「シカ飛び出し注意」のステッカー。

公園内ではオスの方が圧倒的に少ないからか、発情期にはオスがハーレムを作ります。ハーレムが作れるのは男盛り(7~10歳。ヒト年齢だと20~40歳くらい)のオスで、立派な角を持つ、数少ない“モテる”シカだけ。1頭で5頭のメスをひとり占めする“ちょいモテ”シカから、なんと40~50頭のメスに囲まれる“スーパーモテモテ”シカまで様々です。その間、モテないシカたちはどうしているかというと……しょんぼりムードを漂わせながら、オスだけで群れているそうです。こ、これも、人間と同じですね……。

右から2つめが、7~10歳(男盛り!)のオス。立派な角にほれぼれします。
右から2つめが、7~10歳(男盛り!)のオス。立派な角にほれぼれします。

鹿苑で一部のシカを保護しているとはいえ、奈良公園にいるシカはすべて野生のニホンジカです。繁殖活動は一切手助けをしていません。またおやつとして観光客がくれる鹿せんべい(主な原料は、米ぬかと小麦粉)を食べはするものの、シカたちの主食は芝や木の実。奈良公園内のキレイな芝は、手入れされている訳ではなく、シカたちが食べ、フンが肥料となることで美しさが保たれているのです。自然って素晴らしいですね。

人間が手入れしなくても美しい奈良公園。
人間が手入れしなくても美しい奈良公園。

今回の調査では、奈良公園のシカは意外とアナログな方法で数えられていることが分かりました。また、オスとメスの生態の違いや、モテ度で変わる発情期の過ごし方など、なかなか知ることができない貴重なお話も伺えました。
2016年の頭数調査は今年も7月15・16日に行われ、集計ができ次第一般の方々へ新聞や「愛護会」のホームページに発表し、確認することができるそうです。ほかにもシカにまつわるいろいろな情報が載っているので、ぜひチェックしてみてください。

「奈良公園のシカたちを、これからもよろしくお願いします!」
「奈良公園のシカたちを、これからもよろしくお願いします!」
調査完了